自動車業界の課題
Micron Technologyは自動車向けメモリおよびストレージソリューションにおいて、30年余にわたり世界の市場をリードしてきました。この偉業は、私たちのイノベーションと、自動車向けSoCベンダー、OEM、一次サプライヤーから成るエコシステムとの緊密な連携の成果に他なりません。メモリとストレージは、車載電子アーキテクチャーにおける数多くのイノベーションの基礎となります。マイクロン製品の機能の微調整や、適切な用途に向けた適切な製品の提供により、車両の品質とエンドユーザーエクスペリエンスが向上してきたという歴史があります。これまでの例としては、品質重視の設計、幼児死亡率の低減を目的とするバーンインの追加、自動車の環境に合わせたテスト中の温度の引き上げ、機能安全(FuSa)関連のアプリケーションでの製品使用に向けた認証取得、車両設計者のシステムニーズを満たすためのデバイス機能の強化などが挙げられます。
先進運転支援システム(ADAS)や車内エンターテインメント(IVE)での用途では依然として、より高性能なシステムを提供できるがどうかが業界での課題です。IVI(車載インフォテインメント)でこうしたパフォーマンスニーズを推進する主な要因は、複数の4K/8K画面、ドライバーや乗客のニーズに対応する車載センシング、生成型人工知能(AI)によるローカル処理です。ADASシステムでは、より高い安全レベル(レベル2、2+、3以上)の実現に向けて機械学習やAIが導入されています。意思決定能力で分析されるデータ量は、センサー数の増加と高解像度カメラ(L2/L2+=25~30のタッチポイント検出)1によって増大します。これらの要件をすべて満たすためには、大容量のデータストリームを分析し、正しく解釈し、瞬時に決定を下せるような高速のメモリとプロセッサーが必要です。これは複雑であるため、最大300~500GB/秒の帯域幅が必要になりつつあります2。お客様と手を携え、対象となるシリコン知的財産(IP)プロバイダーやチップセットベンダー(自動車用プロセッサーサプライヤー)と協力した結果、マイクロンは自動車用プラットフォームで最適なパフォーマンスを発揮するように設計したLPDDR5X製品を強化版として開発しました。
システムニーズへの対応
LPDDR5Xに最適化されたマイクロンの画期的なエラー訂正コード(ECC)方式は、あらゆるシステムのインラインECC(ペナルティ)を軽減し、帯域幅を15%~25%3拡げます。LPDDR5Xに最適化されたこの新しいECC方式はダイレクトリンクECCプロトコル(DLEP)と呼ばれ、パフォーマンスが向上するだけでなく、故障率(FIT)の低減によりLPDDR5XメモリシステムがISO 26262 ASIL-Dハードウェアメトリックを達成できるようになります。この新製品はさらに、pJ/b(1ビット当たりピコジュール)で約10%の消費電力を削減し、アドレス可能なメモリ空間が最低6%増加します4。マイクロンが認証を取得したISO 26262 ASIL-D段階のLPDDR5X DRAMを骨格として構築されているため、きわめて重要な自動車用FuSa要件を容易に達成できるようになりました。
DLEPを採用したマイクロンの新しいLPDDR5X DRAMはJEDECと互換性があるだけでなく、車載用アプリケーションの厳しい要求を満たすように設計されており、5年超の製品ライフサイクルを備え、極端な温度範囲で作動できます。DLEPで強化されたこの新しいDRAMにより、高性能アプリケーションに必要な帯域幅を拡大できることから、より高い価値がもたらされます。DLEP対応のLPDDR5X DRAMは、私たちの絶え間ないイノベーションと、自動車市場が抱えるメモリやストレージに関する課題を解決するソリューションを推進するマイクロンの能力を示すもう1つの例といえます。この製品は最終的に、その高帯域幅と低消費電力を活かして、お客様の総所有コスト(TCO)の低減に貢献できるものと私たちは期待しています。
時代を先取りする
次に登場するものは何か、それはどのような性能を有するか、DLEP対応LPDDR5X DRAMはどうすれば入手できるか、とお思いの方もおられるかもしれません。ハードウェアやIPブロックをリリースするマイクロンのSoC(システム・オン・チップ)パートナーやIPパートナーから、近々発表があるものと思われます。こうした発表に至るまでには、SoCパートナーと連携し、お客様にとっての最適なソリューションを選択するにあたって、膨大な時間を費やす必要があります。このソリューションの長所は、DRAMとプロセッサーが組み合わさることでパフォーマンスが向上する点にあります。このような連携により、マイクロンはパートナーと共に、製品の市場投入時間を短縮し、より良い製品を提供し、お客様のコスト削減に貢献できるのです。LPDDR5XとDLEP DRAMを用いて適切に構成されたシステムにより、おおむね使用するパッケージはいちだんと小さく、コンポーネントは少なくて済みます。加えて、SoCシリコンダイを節約し、かつSoCボードを小型化して、プラットフォームの耐用期間全体にわたってさらに数百万ドル節約できる日が来るのも夢ではありません5。最後に、こうした高性能LPDDR5Xデバイスは現在入手可能であり、マイクロンの機能安全プログラムの一環として、「FAIT」「FAAT」「FAUT」という部品番号識別子が付されています。DLEP製品に対応したこのLPDDR5Xは、車載システムの機能を長年にわたり支えることでしょう。マイクロンでは、大きな成功を祝福しつつ、解決すべき次なる問題を模索し続けています。将来に目を向けると、AIやデータが豊富なコンテンツはいっそう複雑化し、メモリとストレージがソリューションの中核となることが予想されます。
1データ・サイズや帯域幅は推定値であり、業界標準のISO 23150とAutosarセンサー・インターフェース仕様(R20-11)に基づいて算出しています。センサーの例は、LiDARやカメラ、GPS、超音波センサーなど多岐にわたります。
2センサーのニーズと8ビットLLMに基づき、GGML量子化を想定しています:ggml.ai | PIM:メモリ内処理S. Kimほか 「トランスフォーマー推論の全スタック最適化:調査」 arXivプレプリント(査読前原稿)
3一般的なインラインシステムECCスキームとDLEPを比較測定
4システムECCパリティを保存するために使用される回復されたメモリ密度に基づく「アドレス可能な追加のメモリ空間」
5DRAMに512 I/Oを必要とする標準的なシステムと、同等の500GB/sにわずか416個のI/Oしか必要としないLPDDR5X w/ DLEP DRAMシステムとの比較に基づきます。