私たちは今の電話をスマートであると呼んでいますが、実際にどれくらい賢いのでしょうか? 携帯用デバイスを使用してストリーミングオーディオを利用したり、音声認識を使用してメッセージを作成したことがある方は誰もがご存じですが、しばしば聞かれる答えは「それほどでも」です。
スマートフォンが一定の作業を非常にうまくこなせることは事実です。検索を行ったり、写真を撮ったり、複数のソーシャルメディアのアカウントを参照したり、音楽を再生したりするほか、現在改善が進められている機能はまだまだあります。
知らない町に旅行した時も、スマートフォンはディナーにぴったりのベジタリアンレストランを教えてくれるだけでなく、指示しなくても私たちに代わって予約を取ってくれます。
しかし、出会い系サイトでは数あるポストを自動的にふるい分けして、特にぴったりの相手を教えてくれるということはできません。
また急に助けが必要になった場合に救急車を呼んで、救急隊員にどこが悪いのかを話してくれることもありません。
スマートフォンがまだ本当に賢いとは言えない理由は、人間の精神活動の中核となる資質のいくつか、特に記憶と処理スピードが不十分であるという点です。
研究結果によると、人間の頭脳はおよそ1,000兆バイトの情報を格納し、すべてのイメージをわずか13ミリ秒で処理することがわかっています。これでは現在最大限のメモリを装備したスマートフォンでもとても比較になりません。
思考の速度に匹敵する処理やインサイトを引き出すための膨大なメモリがなければ、モバイルフォンは私たちの命令を実行するだけの限定された、単なる機械にすぎません。それで何がスマートなのでしょうか?
5Gスーパーハイウェイ
しかし、新たな日は、私たちの多くが思っているよりも早く幕を開けようとしています。
間近に迫った5Gセルラーテクノロジーの到来によって、情報スーパーハイウェイに新たな車線が次々と開通し、渋滞を緩和または解消し、膨大な量のデータをこれまで以上に高速かつ自由に移動させることができるようになります。
メモリとストレージのイノベーションによって可能になった5Gは、人工知能(AI)を含む次世代テクノロジーと相まって、私たちの携帯電話を予知能力が高く、直感的に操作でき、真にスマートな相棒へと変貌させる大きな可能性を秘めています。
今日の携帯電話は、世界最大のコンピューティングプラットフォームでありほどなく私たちが使う唯一のコンピューターになると予測する人もいますが、その使用量と使用範囲を考えると、5G/AI革命は、私たちのコミュニケーション方法、仕事の仕方、消費や再創造やエクスペリエンスの形を変えることになるでしょう。
これまでのワイヤレステクノロジーの進歩とは異なり、5Gの到来は、単に一歩進むのでなく、データ通信速度、応答性、接続性において飛躍的な進化を遂げることを意味します。各「G」(世代)は、携帯電話の能力に大きな変化をもたらしてきましたが、5Gは私たちのデバイスと日常生活を根本から変えることになります。
このエキサイティングな場所に私たちがどのように辿り着いてきたかを見てみましょう:
- 1981年:1G 音声だけのアナログセルラーテクノロジーは、端末上でのデータストレージやプロセスを行わず、通信速度は毎秒2.4キロビット(kbps)以下。電話の通話範囲は非常に限られていて、信号は干渉の影響を受けやすいものでした。
- 1991年: 2G 音声通信についてテクノロジーはデジタルに切り替わり、テキストメッセージも送れるようになりましたが、電話にはまだデータストレージやプロセス機能がありません。データ通信速度は毎秒40キロビット(kbps)に増加しましたが、今日の水準からするとまだ非常に遅いものでした。
- 1998年: 3G ここで、私たちの携帯電話はデータ(32メガバイト〈MB〉から16ギガバイト〈GB〉)を保存し、インターネットを閲覧できるようになります。データ通信速度は毎秒21.6メガビット(Mbps)に増加。
- 2008年: 4G データ最適化により動画ストリーミングをサポート。メモリは16GBから256GBストレージに増加し、通信速度は毎秒1ギガビット(Gbps)に上がります。
それぞれの進歩は単独で見ると画期的なものですが、結局のところ、携帯電話はまだ私たちの指示を実行する機器であり、それ以外のことはほとんどできません。
しかし、2019年からは、5Gの登場によってモバイル機器に新たな能力がもたらされ、2019年には512GB(2021年には1テラバイト)のストレージ容量、最速20Gbpsのデータ通信速度、自律走行車などセンサーやその他の「スマート」デバイスを含む多数の機器に一度に接続できる帯域幅といった必要性が拡大しました。
こうした進歩によって、携帯電話は受動的な僕(しもべ)としての今の役割から能動的な参加者へと変わり、膨大な数のソースからデータをリアルタイムで処理できるようになり、応答時間すなわち「レイテンシー」は短縮し、私たちが想像することしかできない方法で、私たちの決断、エクスペリエンス、生活に影響を及ぼすようになります。
人工知能(AI)を含む数多くのテクノロジーを使ってこれが実現されます。
自分たちの心を持つ
5Gワイヤレステクノロジーがもたらす高速のプロセス速度、低レイテンシー、高帯域幅、膨大なストレージ能力は、ついに人間の脳に匹敵するインテリジェンス(知性)を私たちのモバイル機器にもたらすでしょう。
私たちは初めて、私たちの好み、環境、状況、唯一無二の個人的属性や制限という文脈の中で、私たちや私たちの願望を理解し、それに応じて私たちの選択やエクスペリエンスを導いてくれる、応答的で積極的なパーソナルアシスタントを手にすることになります。こうした能力がAIの核心です。
揺籃期のAIがどんなことをすでにできているか、考えてみてください。ソーシャルメディア上(場合により私たちの携帯電話上)で顔を認識、音声の書き起こしや言語の翻訳、血液試料から人間よりも的確にがんを検出、製造機器の故障を感知、ドローンを操縦、自動車を運転するなど、多数あります。
しかし、これらのアプリケーションの多くは、プログラムされたアルゴリズムに依存しています。5Gの拡張された能力により、構造化されていない膨大な情報を、私たちに対してだけでなく互いにやり取りすることが可能になります。それも、人間だけでなくモノから生まれた動画や音声のストリーミング、静止画像、テキスト、コードを経由して。
拡張されたストレージ、帯域幅、そして5Gによって、これまでありえなかった携帯電話やエッジテクノロジーの新たな機能が可能になります。スマート包帯から傷口の治り具合についての情報を医師に送ることができるようにもなるのです。ビデオゲームをストリーミングし、遠隔操作で他の人と一緒にプレイできるようにもなります。
AIを加えることで、私たちのデバイスでこれらのタスクに必要なすべてのデータが即時に処理され、現在の文脈だけでなく過去の教訓も踏まえて対応を調整できるようになるでしょう。学習可能になれば、私たちのデバイスは真に知性を持つようになります。例えば傷口に抗生物質を塗るように、または包帯を交換するように助言してくれるようにもなります。
工場では、AIの機械学習能力によって、工場がサイバーとフィジカルのシステムとして自動稼動し、人間の介入はほとんど不要になるかもしれません。機械が互いに通信することで、生産を監視し、エラーが発生したらすぐに(または発生する前に)修正し、磨耗した部品を交換したり、リアルタイムの需要に応じて生産を拡大または縮小したりすることができます。
AIはまた、自動走行車が5Gを介して私たちと通信するだけでなく、他の車両や道路や高速道路上のセンサーと通信し、進路を変更したり、速度を落としたり上げたり、人間が運転しながらほぼ無意識に行っている無数の計算や行動を実行できるようにします。コンピューティング機器による交通の管理も可能になります。
チップですべてがまかなえる
5Gの到来で、私たちのモバイル機器の能力だけでなく、そのメモリやプロセス要件も変わるでしょう。特にAIアプリケーションには、現在よりも多くのメモリとはるかに高い速度が必要になります。その結果、今日のAIアプリケーションはクラウド上のサーバーに依存し、データを送受信するにはインターネット接続に頼ることになります。このやり取りには時間がかかり、プロセス速度の低下やデータの「ボトルネック」をもたらします。速度の遅い携帯電話はスマートとは呼べません。
しかし、5Gの拡張された能力によって、私たちの携帯電話がクラウドとシームレスに通信し、デバイスに保存されたデータをリアルタイムで取得すること(「エッジ」コンピューティング)が容易となり、ネットワークボトルネックは解消されるでしょう。人間の思考に匹敵する、またはそれよりも速い速度でできるかもしれません。(副産物として、エッジコンピューティングはより安全で、エネルギーの節約にもなります。) しかしそのためには、私たちの携帯電話は現在よりもはるかに高速でデータを読み書きする必要があります。
5Gという大きな情報「パイプライン」は、さらに多くのデータを一度に対処するものでもあります。すべての情報をいつでも利用可能にするには、携帯電話のストレージ容量を大幅に拡大する必要があります。メモリとプロセスは、マイクロンが得意とするところです。
現在の携帯電話の多くは、NANDとして知られる平坦な2Dフラッシュメモリストレージチップを使用しています。2DのNANDは、4G時代には十分役に立ちましたが、携帯デバイスをさらに多くのタスクに使用するようになると、この形式のメモリではすぐに私たちのニーズに追いつけなくなります。
この問題を予期して、マイクロンは高速で効率的な3D NANDを開発しました。これは、データストレージセルを何層にも積み重ねるもので、必要なスペースはNANDチップ1枚分と同じでありながら、ストレージ容量が3倍になります。
拡張された5G帯域幅を通じてすべてのデータを迅速に移動させるために、私たちのデバイスは多くのプロセス能力を必要とします。マイクロンは、コンピューティングシステムを通じて大量のデータを超高速で転送するための強力なLPDRAMメモリを開発しました。これが、AIが適切に動作するのに必要な低レイテンシーには欠かせません。しかもより低電力(LPDRAM: Low Power DRAM)で行われ、バッテリー駆動時間を延ばすことができます。
マイクロンで開発中のテクノロジーは、3D NANDの長所である大きなデータストレージ容量と、DRAMの最も望ましい特徴である超高速プロセス処理を組み合わせ、高い知性を実現します。これに対抗できるのは人間の頭脳くらいです。今のところ、ですが。
マイクロンのシニアフェロー、マーク・ヘルムは、「データはAIを実現する重要な要素です」と説明する。「過去のワークロードを実行するコンピューティングシステムのワークロードとAIのワークロードとを比較すると、AIにとってのデータの重要度ははるかに大きいものです。」
「ですから、DRAM経由の極めて低いレイテンシーアクセスであれ、NANDフラッシュシステムによる極めて高い能力のストレージであれ、マイクロンがデータの守り手となるチャンスは高まっています。私たちがデータをコントロールすることで、将来的にAIから価値を引き出す絶好の機会がもたらされます。」
マイクロンは医療、インフラ、エネルギーの分野におけるAIの可能性探求に全力を挙げています。詳細についてはmicron.comのWebサイト、Twitter、Facebook、LinkedInをご覧ください。