かつて医師は、簡便な機器、直感、推論に頼って診断を下していました。今はどうでしょうか? 強力なコンピューター、メモリシステム、プロセス速度がすべてを変えています。X線、MRI、CTスキャン、PETスキャン、これらを使った診断が利用でき、ハードデータ解析によって人の健康が維持されています。これらは効率的な収集とストレージが必要です。マイクロンはそのパラダイムシフトの最前線に立っています。しかし医療の分野で、ヒトゲノム、DNAほど複雑なデータモダリティー(情報)はありません。
シャーリー・ペプキはロサンゼルスでゲノム研究者として働いています。2013年、彼女はステージIIICの卵巣がんの診断を受けました。以来、彼女は個々の患者に合わせたDNA配列に基づく卵巣がん治療法の開発に取り組んでいます。しかしそれは容易なことではありません。「単独のゲノムを取り出し、それが変異しているのを突き止め、そのゲノムを標的とする薬を与えれば患者が治る、というわけにはいきません」とペプキは語ります。がんは本質的に、不備がある取扱説明書のような疾患なのです。60億ある私たちのDNA塩基対の群のどこかでエラーが生じ、細胞分裂が繰り返されて制御不能になります。問題なのは、肝臓がん、リンパ腫、メラノーマなど、あらゆるがんの種類によって、遺伝子の問題が気が遠くなるほど異なっていることです。交通事故の原因を整理しようとするとき、人が運転中に携帯メールを打っていたかではなく、どんな内容を打っていたか、何を考えていたかによって行うようなものです。データは膨大にのぼります。
幸いなことに、私たちにはそうした情報すべてを意味づけるのに十分な能力を備えたコンピューターがあります。機械学習、人工知能といった用語はわかりにくいかもしれませんが、要するに、医学研究者には、私たちのがんの背後にあるデータを整理するアルゴリズムがあるということです。ペプキは自身の卵巣がんの塩基配列を解読することができました。破壊された細胞機構の性質を理解できれば、自分の専門知識を駆使して治療法を考案することができます。
これがすべての人に対してできたらどうでしょう? コンピューティングの力があります。ただ参加してくれる人が必要だとペプキは言います。がんゲノムアトラスは、疾患の指標に向けたその取り組みのひとつです。患者が自分の塩基配列と症状についての説明を出してくれれば、研究者と医師は、自分たちの専門知識と高性能アルゴリズムをともに活かして、その患者に合わせた薬をつくり出すことができます。しかしそれは容易ではありません。皆の協力が必要です。
「患者には腫瘍のデータを収集する方法が必要です。ある腫瘍についてそのレベルのデータ生成にアクセスするのは非常に難しい。普通の患者にとって、今はそのための仕組みがありません。」
「患者には腫瘍のデータを収集する方法が必要です」とペプキ。「ある腫瘍についてそのレベルのデータ生成にアクセスするのは非常に難しい。」 普通の患者にとって、「今はそのための仕組みがありません。」
ペプキは自身が助けを必要としていました。彼女は南カリフォルニア大学准教授のグレッグ・ヴェル・ステーグに連絡を取りました。医学データからパターンを見つけ出すCorEx(相関説明)と呼ばれるアルゴリズムの開発者です。2人はCorExを使って卵巣がん患者の遺伝子発現データを分析しました。その結果、患者の免疫システムに特定の刺激を与えることで、長期生存率が向上すると判明しました。CorExの結果と彼女自身の腫瘍のデータに基づき、ペプキは卵巣がんでは未承認の免疫療法薬の服用を始めました。
ペプキの目標は、(科学的な専門知識や研究上のコネクションを持つ人だけでなく)卵巣がんを患うすべての女性にデータが共有されることです。もちろん安全性を確保した上で。製薬会社は、過去、現在、将来の臨床試験をデータウェアハウスに統合することで、治療に関してより深いインサイトを得ることができます。
マイクロンのアドバンストコンピューティングソリューション担当バイスプレジデント、スティーブ・パフロフスキーは、この種の分析は人間だけでは到底不可能だと指摘します。コンピューターが必要なのです。「医療分野では膨大な量のデータが生み出されており、それらを結びつけることが必要です。研究者や医師がその情報を使って何が起きているのかを理解できるように。がんのような疾患では、何百、何千もの突然変異が起こりえます。個々の人はそのような微細な変化のすべてを調べなければなりません。」
マイクロンのハードウェアが役に立ちます。私たちのシステムは、重要な医療データを大量に保存し、プロセス装置へと高速で移す、高帯域幅メモリソリューションを提供し、データ保存とデータ分析のプロセスを合理化します。これがイノベーションを推進します。ペプキの話では、自分のデスクトップコンピューターでさえ追いつけませんでした。「大きなダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)が必要なのは間違いありません。このようなアルゴリズムを実行するには、想像以上に大容量のメモリが必要なのです。」
データをプロセッサーの近くに保存しておくことも、データ分析を効率化するために重要です。そのため、高帯域幅のメモリが役に立ちます。「研究者や医師が相手であれば、データ、またはコピーデータをさまざまな所在地に分散させ、作業を行う場所の近くに置くことで、分析に余計なエネルギーと時間を費やさないようにすることが重要です」とパウロフスキーは言う。「データを取りに行ったり、また戻したりを繰り返さなければならないとしたら、リアルタイムで必要な結果を得ることはできません。私たちの目標はデータを移動させることではありません。」
もちろん、医者はどこにも行きません。しかし、生物のコンピューターとデジタルのコンピューターの接点を考えてみることは重要です。私たちの脳は、メモリと分析のシステムを区別していません。どちらも私たちの神経構造に符号化されています。ですがコンピューターはこの2つを切り離し、給水塔がウォータースライダーに水を供給するような働きをします。将来、コンピューターは、この2つのプロセスを1つの高帯域幅システムに統合し、その創造主である人間のような働きをするようになるでしょう。
マイクロンのメモリテクノロジーは、膨大で前例のない量の医療データを動かします。これにより、特にCorExのようなアルゴリズムやペプキのようなイノベーターによって、より良い治療法がもたらされます。そして今、私たちは、すべての人たちがより健康的に生きられるテクノロジーを後押しすることができます。
ペプキが実験的だが自分に合わせた免疫療法を開始して2ヵ月後、医師は腫瘍の兆候を見つけることができませんでした。MRIで異常はありませんでした。ペプキは、すべての女性に治療法をもたらすという希望を胸に、自分の命を救った仕事を続けることができています。AIの進歩、データ分析、そしてがんデータを蓄積する取り組みを改善し続けることで、彼女の希望は現実のものとなるでしょう。