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私たちは食べたものでできている:AIとヒトマイクロバイオーム

マイクロンテクノロジー | 2019年11月

「Trust your gut(腸を信じろ)」というのは、文字通り素晴らしいアドバイスです。研究者が示そうとしているのは、私たちの胃腸や体内の他の場所で起きていることは自身の生活の質に(ほとんどは目に見えないにせよ)とても大きな影響があるということです。

消化管や肌にいるバクテリア、菌類、ウイルス、原虫は微生物バイオーム、もしくはマイクロバイオームとして知られていますが、これらのマイクロバイオームは私たちの健康や幸福、気分、寿命、体重を決定づける上で非常に大きな役割を果たしていることが証明されています。マイクロバイオームの研究者であれば、マイクロバイオームには人の運命を形作る上でDNAと同じくらい重要な役割があると考えてもおかしくありません。

DNA同様、マイクロバイオームも非常に複雑なつくりをしています。100兆以上の微生物から構成され、ヒトゲノムの200倍の遺伝物質が含まれているのです。1人の人間の腸内細菌を解析するのには一生かけても足りないくらいの時間がかかっていました。

しかし人工知能(AI)やより高度なコンピューターハードウェアを活用することでこの作業は数分にまで短縮され、人のバイオーム内の微生物の一つ一つを視認し人間の目には見えないパターンや変化を特定し相互作用を解析できるようになりました。

「The NIH Human Microbiome Project」のようなマイクロバイオーム研究の目標はヒトマイクロバイオームを特徴付けるものの実現可能性を提示することであり、病気に対する診断や治療の改善に繋げることを望んでいます。

遺伝学とマイクロバイオーム

テクノロジーと人間の健康について考えてみると、遺伝学は近年かなりの恩恵を受けてきました。ヒトゲノム計画のDNA解析プロジェクトが2003年に完了し、30億の塩基対からなる20,500のヒトの遺伝子を全てマッピングしました。現在、科学者はどの遺伝子がDNA鎖のどの部分にありどのような機能となるのかを理解することができ、患者一人ひとりに合わせた医学的治療が可能になっています。

最近では人の健康とその改善方法を理解するために微生物バイオームが注目を集め始めています。これまで関心が持たれなかったのは、マイクロバイオームの存在はかなり前から知られていたものの、その複雑な構成ゆえ限られた研究者しか理解できなかったということが一因となっています。しかし、それも今や過去のことです。

私たちの体は少なくともヒトの細胞と同じ数の微生物細胞から構成されています。微生物細胞はヒトの体の細胞とは構成や構造が異なるものです。マイクロバイオームは実際に自身で生きている生体であり、重さは推定2.2kgほどです。マイクロバイオーム細胞は私たちの消化管、内臓、口腔、鼻、目、肌に生息しています。その構成は人によって異なりますがマイクロバイオームは数百万の遺伝子から構成されており、ヒトゲノムやヒトの免疫システムと作用して健康や病気の状態を生み出すと考えられています。

精巧なパズルの2つのピースのような遺伝子とバイオミクス(バイオームの生物学的研究)がヒトの秘密の多くを解き明かすかもしれません。マイクロンのバイスプレジデントであるスミット・サダナは、先日サンフランシスコで行われたマイクロンインサイト2018カンファレンスで「研究者が解読を試みているコードがある」と述べています。

隠された秘密

ゲノム研究やバイオーム研究で最も面白く謎めいているものの1つが、ゲノムやバイオームがもたらすかもしれない未来予測です。私たちのDNAやマイクロバイオームは私たちについて、今日について、明日について、何と言っているのでしょうか? 私たちの健康についてどんな予測をしてくれるのでしょうか? 私たちはどんな病気になりやすいのでしょうか?

遺伝学では、個人の遺伝子や遺伝子のまとまりにある欠陥によってアルツハイマーや糖尿病などといった特定の病気にかかりやすくなるのではないかと見ています。いつか、このような変異した遺伝子を置き換えたり修正したりといった治療(遺伝子セラピーとして知られています)が現実になるかもしれません。しかし今のところ、ヒトの遺伝子研究は行き詰まっています。現時点では健康を改善するために生活スタイルを変えるということが精一杯です。

でもヒトマイクロバイオームには変化する可能性があるのです。しかも、食事の変化や薬や運動によって、急速に変化するかもしれません。ですから、腸の検査で病気の進展や兆候がわかるようになるということは私たちの健康ないしは寿命の延長に繋がる非常にありがたいことなのです。

科学者はAIや機械学習を利用し長い年月をかけてできるだけ多くの人のマイクロバイオームの特徴を捉え、病気の兆候となる変化を把握しようとしています。また、研究者はバイオームを生成することで病気の回避方法や治療方法を模索しています。

各マイクロバイオームが異なるという考えの場合、治療も各個人の遺伝子の変化やバイオームの構成に合わせたものになるかもしれません。このように、研究者たちは単純な診断から予防医療、個人医療に移行しようと努力しているのです。

  • 予測:病気が進展する数か月から数年前にヒトのマイクロバイオームに変化が発生すると考えられています。しかし、食事、ストレス、運動、その他の要因によりマイクロバイオームを変えることが可能です。医学者は生活スタイルの違いによる変化と発生症状の特定に努めています。健康な人のマイクロバイオームを検査することで時間をかけて変化を解析することが可能です。
  • 予防:糖尿病、癌、認知症などの病気を防ぐのに役立つ勧告を行うため、研究者たちはヒトのシステムを生み出す種類の微生物やその動きを利用しようとしています。また、彼らは遺伝子データと組み合わせることで、マイクロバイオームのデータを予防治療の特効薬として使えるようになることを目指しています。
  • 個人:これまで「個別化」医療や「精密」医療では個人特有の生態に合わせて治療を変えてきましたが、家族歴やDNA解析に大きく依存していました。研究者たちはマイクロバイオームに含まれるデータを利用したより精密な治療方法を作ろうとしています。

各個人のバイオームにいる何百兆もの微生物を検査することで、解析速度は想定より遅くなりました。高度なコンピューターシステムとマイクロンのメモリにより、人工知能を改善することで、研究者たちは人が何年もかけて行うことを数分で達成しようとしています。

たとえば、アメリカ国立ヒトゲノム研究所でテクノロジーがゲノム解読を加速(そしてコスト削減)した例を考えてみてください。

  • 1990年に始まった初のヒトゲノム解読には13年の歳月と10億ドルの費用がかかりました。
  • それから10年後に行われたDNA解析にかかったのは2~3日と5,000ドルです。
  • 今日、ヒトの完全な遺伝子の解読にかかる時間は20分、費用は600ドルになっています。

ヒトの健康に対するこの重要な解析にかかる時間と費用はメモリテクノロジーの発展に伴ってのみ減少するだろう、というのはマイクロンの事業開発マネージャー、エリック・カワードの言葉です。より高速かつ大容量の洗練された人工知能テクノロジーを活用したマイクロバイオーム解析にも同じことが言えます。

サダナによれば2021年、AI用サーバーには標準のAI非搭載サーバーと比較して7倍のDRAMメモリと2倍のNANDフラッシュメモリが必要になる見込みです。「メモリとは、AIが無限に求める究極の原料なのです。」

プロジェクト過多

研究者たちは診断や治療に対するマイクロバイオームのサンプリングや解析の利点を調査しています。まもなく介護士が日々の健康チェックの一環として血や尿と一緒にヒトマイクロバイオームのサンプルを収集するようになるかもしれません。

しかし、これらのサンプルを有益な方法で解析するにはデータベースが必要です。アメリカ国立衛生研究所の「All of Us」では、精密医療に役立てるため100万人以上の人のマイクロバイオームサンプルデータを含むデータの収集を目的としています。アメリカ国立衛生研究所の今は中断してしまったHuman Microbiome Project(ヒトマイクロバイオームプロジェクト)では、腸内細菌がヒトの健康に対するさまざまな役割の研究を多く生み出しました。その他、多くのプロジェクトが次のようなことの改善を目指して継続されています。

  • 免疫システムの改善。マイクロバイオームが免疫システムの変調器としての役割を担っていることは既に広く知られています。ScienceNordicの記事によれば、腸内のバクテリアは幼い頃からヒトの免疫システムに「どうすべきか」を教え込んでいるそうです。また、このような微生物は消化管や臓器の炎症レベルにも影響があります。
  • コレラの予防。デューク大学、マサチューセッツ総合病院、バングラデシュのダッカにある国際下痢疾患研究センターの研究者たちは、機械学習のアルゴリズムを使って、人間にはほとんど見えない消化システム内に生息するバクテリア群のパターンを特定しようとしています。コレラに接触した人全てが下痢を引き起こす症状が出るわけではないので、AIが誰にリスクがあるのか、その理由は何かを研究者が判断する手助けをしています。また、これはワクチンの発展にも役立っています。
  • 薬物相互作用。アメリカ国立医学図書館によれば、マイクロバイオームの構成は薬物治療への反応度や特定の薬への代謝に影響するという仮説があるそうです。
  • 加齢。加齢におけるマイクロバイオームの役割というのはカリフォルニア大学サンディエゴ校やIBM基礎研究所のArtificial Intelligence for Healthy Living Center(健康的な生活のための人工知能センター)の研究対象の1つです。このセンターでは高齢者の認識能力に対する遺伝子、環境因子、日々の行動、ヒトマイクロバイオームの影響を調査しています。そして加齢に関係があるパーキンソン病などの病気はマイクロバイオームの基礎があることが既に確認されています。センターでは研究やサンプリングで得た膨大な量のデータを人工知能テクノロジーを使って解析しています。

熟慮するか、一歩踏み出すか

人工知能のアルゴリズムは医療分野でマイクロバイオームの複雑な構成や相互作用の理解を深め、人間の研究者では発見できなかった関連性の発見に寄与しました。この結果が糖尿病や癌といった病気の患者の治療に対する突破口になるかもしれません。しかし、今日では解析のほとんどが1人のマイクロバイオームをデータベースにある他の人のマイクロバイオームと比較するということに限られてしまっています。

マイクロンの社員であるパトリシア・レイターはサービスを提供している企業の1つに自身のマイクロバイオームの解析を委任しました。参加するためには少量の便を郵便で送り、それから書面による分析を受けます。レイターがこのサービスを選択したのは、彼女が消化器官に問題を抱えているためでした。そして、届いた結果に彼女は驚きました。レイターは魚菜食主義者ではありましたが、調査企業は彼女が十分にバランスのとれた食事ができていないと回答したのです。

セリアック病もクローン病も含め「多くの可能性を排除されました」とレイターは言います。加えて、サンプルを送るときは懐疑的だったと語りました。「消化に問題があるのは病気か何かが原因だと思いこんでいました。私の体にはこのような病気の傾向がないということがわかって安心できました。幸いにも私は、摂取する食材の種類を増やせば病気になることはないのです。」

また、補足としてテイラーは「プレバイオティクス」(アスパラガス、バナナ、オーツ麦、りんごなど)や「プロバイオティクス」(ヨーグルト、昆布茶、キムチ、その他発酵食品や飲料)の摂取を増やすよう勧められました。勧められた食材のうちキクイモやゴボウなどは馴染みがなかったものの、テイラーは食事を変えることで健康の改善に繋がるという希望を持っています。

AIの力

人間が複雑な微生物の構成、構造、相互作用を解析するためには、機械の力が必要です。幸いにも、マイクロンが先頭に立ち、帯域幅、メモリ、速度を向上させることで、AIテクノロジーへの道は開けています。

これらの新機能を搭載するため、マイクロンは重要なメモリ製品を開発しました。低消費電力、高密度DRAM、高速NANDフラッシュメモリテクノロジーです。

サダナは「マイクロンのポートフォリオはクラウドデータセンター内のAIの中で最も完成されたポートフォリオで、全階層に対応している」と語ります。

研究者は画一的なものに別れを告げたがっています。当てずっぽうはもうやめましょう。遺伝子学、バイオミクス、生検、視覚診断、予測診断、その他AIがサポートする分野では精密医療をこれまで以上に予防、予測、個人に沿ったものにし、より長く、より良く、より幸福な生活を実現しようと努めています。

「人工知能が医療を変える」とサダナは言います。変革は今、内側から起きています。