車載市場は、半導体業界で最も急速に成長しているセグメントの1つです。2025年には、少なくとも9,700万台の自動車が販売され、それぞれに約90ギガバイト(GB)のRAMやNANDが搭載されるでしょう。ソフトウェアフットプリントは、今日のハイエンド車における1億行のコードから、間もなく10億行規模に拡大すると予想されています。つまり、アポロ11号の1,000倍を上回ります。
ですから、マイクロンが先日発表したレポート「Bits, bytes, and the connected car(ビット、バイト、そしてコネクテッドカー)」において、S&P Global Mobilityが、車載用メモリとストレージの売上高が2026年までに116億ドルに成長すると予測したのも不思議ではありません。これは、年平均成長率(CAGR)にすると20%~24%に相当します。
マイクロンは、車載インフォテインメント(IVI)、自動運転、サブスクリプションサービスなど、データ量の多い機能が自動車に追加されるにつれて、メモリとストレージの要件は今後7年間で10倍近くに増加すると予想しています。以下はレポートのハイライトです。
- 現在、平均的な車両は90GBのRAMやNANDを使用している。2026年までに、平均的な車両は約278GBのDRAMやNANDを使用するようになり、ハイエンド車両ではこの数字が2テラバイト(TB)近くに跳ね上がる。その容量は、2030年には4TBまで拡大すると予想されている。
- コネクテッドカーは現在最も複雑なソフトウェア駆動マシンであり、コードは8,000万~1億行に達し、自動運転では2億5,000万~3億行になる。
- 先進運転支援システム(ADAS)、電子制御ユニット(ECU)、アナログデジタルコンバーターのメモリ容量は、2022年末の3億8,500万GB(~385,000TB)超から、2026年には21億GB(~2,100,000TB)に約445%増加する。
- 2023年末までに、約7,300万台の新型乗用車にインフォテインメントヘッドユニットが搭載される。2026年には8,200万台超に増加する。
- IVIのメモリとストレージコンテンツは、2022年末の60億GBから、2026年には72億GBへと、年平均成長率(CAGR)にして19.3%増加すると予想される。
- コックピットドメインコントローラは、今年新たに約300万台の新車に搭載され、それが2026年には1,650万台に拡大する。
自動車がコンピューター制御される度合いが高まり、ソフトウェア駆動型になる中、メモリとストレージが未来を見据えたイノベーションを実現するために必要な構成要素となっていることは明らかです。S&Pのレポートは、現在起きつつある変化にも言及しています。自動車はこれまで、おそらくは10年前の成熟した半導体テクノロジーを活用してきましたが、現在では、自動車における急速なイノベーションのために、今後2年以内に路上で走行するであろう自動車向けに最先端のマルチコアシステムオンチップ(SoC)プロセッサーを設計しています。
では、私たちが知っている自動車を作り変える主なトレンドはどんなものでしょうか。中核となるメガトレンドのいくつかを以下に要約します。
メガトレンド1:自動運転
米国自動車技術会は、レベル0からレベル5までの6段階で自動運転を定義しています。レベル0は能動的支援システムを搭載しておらず、レベル5では車が自走できます。2030年には、300万台近くの自動車が完全自動走行し、1,500万台以上の自動車がレベル2+/レベル3の自動運転に対応するようになると予想されているため、メモリとストレージの需要はすでに大幅に増えています。
マイクロンでは最近、自動運転車における生成AIの応用について耳にする機会が増えました。AIモデルを搭載すると、車両反応システムのインテリジェンスを中心としたより緊密な最適化ループによって、車の学習曲線が加速します。私たちは実際、Wazeなどのナビゲーションシステムが生成AIを利用して、高度にパーソナライズされた推奨ルートをリアルタイムで案内するのをすでに目にしています。マイクロンはお客様と会話する中で、音声処理、自然言語処理、膨大な言語モデルに対応するにはどれくらいのメモリやストレージが必要になるのか、また、メモリやストレージからチップセットやプロセッサーへデータを迅速に移行するにはどうしたらよいのかについて、関心の高まりを感じています。
生成AIは自動車に変革をもたらしており、現在の市場規模は3億1,200万ドルで、2032年には27億ドルに成長します。生成AIが自動車全体のアプリケーションに拡大するにつれて、より多くの、より高速なメモリとストレージの要件が指数関数的に増加します。OEM(相手先商標製造会社)はAIイノベーションに弾みをつけるため、AIモデルが成長するためのヘッドルームと馬力を提供できる帯域幅と容量を車両に確実に装備する必要があるでしょう。こうした変化の一環として、エネルギーを大量消費するAIに対応するために、高性能かつ低消費電力のメモリとストレージを搭載することが重要です。また、これは氷山の一角にすぎません。車載用メモリには、自動運転車の安全性を確保するための厳格な機能安全テストと認証も必要になります。
メガトレンド2:コネクティビティ
今日、コネクティビティはすでに自動車に普及しています。スマートフォンを車のシステムに接続できるようになったことで、運転エクスペリエンスをどんなに効率化できたかを考えてみてください。将来的には、コネクティビティによって車両間の通信や車とインフラ間の通信など新しいテクノロジーも可能になり、ピア・ツー・ピアメッシュネットワークを介して速度、方向、所在地、旋回意図などについての情報を交換できるようになるでしょう。こうした機能は、車両同士の連携や車とスマートインフラとの連携を強化して、衝突を回避し、交通の流れを効率よく最適化するのに役立つでしょう。
ほとんどの新車種には、機能改善、ソフトウェアの問題解決、診断データのアップロードのためのOver-the-Air(OTA)アップデートを利用するコネクティビティも備わっています。OTAアップデートはささいなことに思えるかもしれませんが、車の購入後に自動車メーカーが新しいソフトウェアアップデートや機能、さらにはセキュリティパッチを追加できるようにすることで、自動車のイノベーションを促進します。実際、OTAアップデートは、サービスとしてのモビリティの登場とともに、新しい自動車サブスクリプション型事業モデルを実現する基盤となっています。これは、必要に応じてハードウェアレベルの車の機能をソフトウェアが有効化・無効化できるようにするものです。たとえば、スキー旅行へ向かうドライバーがシートヒーターをサービスとして追加したり、親がティーンエイジャーに車を貸して門限までに帰宅できるかどうかを確認するために位置情報サービスを有効にしたりすることが考えられます。こうした機能があることで、OEM(相手先商標製造会社)はサブスクリプション収入が増え、コンシューマーは必要に応じてサービスを追加したり、不要になったら無効にしたりすることができます。
自動車のハードウェアが時代遅れにならないようにして、OTAアップデートがもたらす新機能に備えるために、OEM(相手先商標製造会社)は大容量でよりパワフルなチップセットを搭載したメモリを選択することを考えたほうがよいでしょう。そうすることで、自動車の稼動期間中に新しいサービスを有効化した際、増大するデータ要件に応じて拡張できるだけの十分なヘッドルームを、重要な車載ハードウェアに確保できます。
メガトレンド3:ゾーンアーキテクチャー
こうしたトレンドが軌道に乗るにつれて、さまざまなドメインと連携するシンプルなサブシステムから、一元的な意思決定を伴う高度にマトリクス化したシステムへと、自動車は大きく変化しています。
ゾーンアーキテクチャーでは、物理的なゾーンごとに各システムをグループ化し、そのシステムによって制御されるECUの近くに配置します。このアプローチは、システムを機能ごとにグループ化する従来のドメインアプローチ(たとえば、インフォテインメント、エンジンとトランスミッションの制御、その他)よりもはるかに効率的です。ドメインアプローチもかつては有効でしたが、自動車の複雑化(センサー、CPU、カメラ、システムの増加)に伴い、ドメインアーキテクチャーの配線はどんどん複雑になっていきました。ゾーンアーキテクチャーは、そうしたすべての電子機器の接続方法を単純化して必要な配線の量を減らし、それによってコストと重量も削減します。その結果、燃費が向上し、車内でのインサイトに要する時間も短縮します。
自動車が一元的な意思決定に移行していくと、メモリは多くの異なるシステムを処理するためにマルチタスクを必要とし、メモリそのものがより複雑になることがわかっています。ここで、たとえば異なるドメインにサービスを提供する仮想化環境など、新しいメモリ規格がいずれ登場するかもしれません。そして、今後数年内(2025~2028年を想定)には、自動車が完全な一元化へと移行し、さらに強力なメモリとストレージソリューションが必要になる可能性があります。エコシステムはいずれ、移動中やエッジでこうしたインテリジェンスを動かすために、かつてスーパーコンピューティングのために確保されていたCompute Express LinkやHigh Bandwidth Memoryのような広帯域幅ソリューションを検討する必要があるかもしれません。
以上は、充実した車内空間や電動化といった他のメガトレンドと並んでマイクロンが注目しているメガトレンドのほんの一部です。
自動車業界のイノベーションを前に進める
かつてはイノベーションで後れを取っていた自動車業界ですが、今では逆に、他のテクノロジー分野にも影響を与えるであろうイノベーションを推進しています。自動車そのものの発明以来、自動車業界が最も大きな変革期を迎えていることは明らかです。
型式、車種、トルクではなく、インテリジェンス、パーソナライゼーション、自動運転といった機能によって自動車を定義することが増える中で、自動車のエコシステムも、このイノベーションを安全かつ大規模に推進するための適切なアーキテクチャー、メモリ、ストレージを確保して変化に対応する必要があります。自動車メーカーが時代の先端を行くには、半導体サプライヤーと直接コラボレーションして進化する車載用メモリとストレージの要件をよく理解し、その要件を満たし、最終的にはアーキテクチャーを、今後登場するデータ集約型の革新的な自動車テクノロジーにも対応できる、時代遅れにならないものにすることです。適切な構成要素でそのハードウェアの基礎を築くことで、イノベーションと新しい事業モデルの可能性がさらに広がり、自動車メーカーはこの自動車新時代に自らを改革できるでしょう。