自動運転車は未来の夢から今の現実へと進化しており、テクノロジーが成熟するにつれて、個人の乗り物も公共交通機関も永久に変わるでしょう。最終的には、ドライバーレスカー(無人運転車)によって人間のドライバーは過去のものとなり、危険な居眠り運転、飲酒運転、不注意運転が消滅するでしょう。米国では2017年に4万人近くが交通事故で死亡しており、米国運輸省道路交通安全局₁(NHTSA)によると、これらの事故の約90パーセントは人為的ミスによるものでした₂。
ただ、そのテクノロジーの背景には何があるのでしょうか。ドライバーレスカーはいったいどう安全なのでしょうか。そして、前を見て運転することなく通勤できる日を迎えるには、何が必要なのでしょうか。
自動運転車を駆動する人工知能
自動車が自律走行するには、常に周囲の状況を把握している必要があります。まず、周囲の状況を認識し(情報を識別し、分類する)、次にその情報に基づき、車の自律/コンピューター制御を通して動く必要があります。運転環境の詳細な理解に基づいて瞬時に判断できる、安全でセキュアかつ応答性の高いソリューションが自動運転車には必要です。運転環境を把握するには、車全体にある、さまざまな無数のセンサーで膨大な量のデータを取得し、それを車の自動運転コンピューターシステムで処理する必要があります。
車両がユーザーの制御なしで真に運転できるようになるには、人工知能(AI)ネットワークが見る方法を理解し、見ているものを理解し、想像しうるあらゆる交通状況において適切な判断を下せるように、最初に膨大な量のトレーニングを行う必要があります。自動運転車のコンピュートパフォーマンスは、ほんの数年前には最高のパフォーマンスを誇ったプラットフォームと同等です。
自動運転車には、これまでに作られたどのソフトウェアプラットフォームよりも多くのコード行が含まれると予測されます。2020年には、一般的な車に3億行を超えるコードが含まれ、1TB(テラバイト)を上回るストレージが搭載され、自動運転プラットフォームに必要なコンピュートパフォーマンスに対応するために、毎秒1TBを上回るメモリ帯域幅が必要になると予想されています。
自動運転車のAIシステムは、複雑なデータセットに基づいてリアルタイムで意思決定を行うために、継続的で中断のないデータと命令のストリームを必要とします。現在、自動運転に成功した車両は実際に存在していますが、そうした初期の車両の多くが成功したのは、何日も同じルートを一貫して繰り返し走行した結果です。それによってルートの細部まで学習して高解像度の地図を生成し、その地図をセルフナビゲーションシステムの重要な一部として使用したのです。
ルートを確認する必要が少ないため、自動運転コンピューターの注意は交通、歩行者、その他リアルタイムの潜在的な危険に向けられます。この一般に制限のある操作範囲は「ジオフェンシング」と呼ばれ、初期の自動運転車両が真のドライバーレス車両を展開する際に採用したアプローチを反映しています。ジオフェンシングは限られたルートで機能するソリューションをもたらしますが、世界のある地域でジオフェンシングに大きく依存している自動運転車は、別の地域ではうまく機能しない可能性があります。
自動運転の縁の下の力持ち、メモリ
センサーフュージョン処理に関連するメモリサブシステムであれ、経路の計画であれ、ブラックボックスデータレコーダーに関連するストレージサブシステムであれ、ソリッドステートドライブ(SSD)からNANDフラッシュ、NORフラッシュ、低消費電力DRAM、GDDR6に至る幅広いメモリとストレージデバイスはすべて、自動運転車が最適なルートで安全に目的地まで走る間に、メールに返信したり、ビデオ通話をしたり、お気に入りの番組を見たりできる未来に近づくために欠かせない役割を果たしています。
マイクロンの組み込みビジネスユニットで車載システムアーキテクチャー担当シニアディレクターを務めるロバート・ビルビーによると、人工知能をベースとした高性能コンピューターはディープニューラルネットワークアルゴリズムを採用しており、自動運転車は人間よりも上手に運転をすることができます。₄
ビルビーによれば、「さまざまなセンサーが連携して、24時間365日、人間よりも遠くから、より高い精度で環境全体を360度見ることができます。今日、自動車に搭載可能な極めて高いコンピュートパフォーマンスと組み合わせると、自動車が私たちよりもはるかに安全に道路を走行できる状況になります」
交通量の多い幹線道路で、車が急ブレーキをかけるという状況を想像してください。車と車、車とインフラ間の通信(V2Xと総称)の導入により、先を行く車に続くすべての車にこの1つの事象がワイヤレス送信され、すべての車が目の前の状況を理解し、事故を回避するために前もって減速したりブレーキをかけたりすることが可能になります。
自動運転に欠かせない要素である高速メモリ
2017年に米国で起こった自動車死亡事故の約90パーセントが人為的ミスによるものだったという統計を覚えていますか。予期せぬ危険に直面したときにとっさの判断を下せるとはいえ、人間は注意散漫になりやすいものです。一方、コンピューターは派手な看板が現れたり、ラジオからお気に入りの曲が流れてきて思わず踊りたくなったりするときのように、人間の注意を道路からそらすようなことで注意散漫になったりはしません。また、コンピューターは人間のドライバーよりも反応に一貫性があり、人間よりも速く反応することができます。
当然のことながら、自動運転車では安全性が最も重要です。誤った判断を最小限に抑えるためにハードウェアシステムに組み込んだ冗長性にとどまらず、車両が互いに通信したり、周囲の環境と通信したりするための関連インフラなども安全への配慮に含まれます。ハードウェアの冗長性を備え、ワイヤレスで相互接続されたこのコンピューティングサブシステムは、自動運転のレベルと直接相関関係にある、必要な安全性のレベルを義務付けるための法律によって管理されています。
自動運転テクノロジーの開発と実装について管理するため、NHTSAは、人間とコンピューターがそれぞれどの程度、車を制御するのかを明らかにする一連のレベルを定めました。レベル0(自動運転なし)、レベル1(運転支援)、レベル2(部分的な自動運転、ドライバーはハンドルから手を離さないこと)、レベル3(条件付き自動運転、ドライバーはいつでも運転を代われるようにしておく)、レベル4(高度自動運転)、そして最後にレベル5(完全自動運転)です。現在出荷しているADASソリューションの大半はレベル2対応で、比較的成熟した低帯域幅のメモリデバイスを使用するコンピューターハードウェアに基づいたものです。
ドライバーレスカーの自動運転レベルが高くなるにつれて、安全性とパフォーマンス双方の観点からメモリテクノロジーの重要性が高まり、メモリテクノロジーが自動車の最優先事項の1つになりつつあります。これまでメモリテクノロジーをけん引してきたのはパソコンでしたが、今では自動車業界が今後のメモリテクノロジーの主なけん引役になると目されています。現在、主要な自動運転プラットフォームのいくつかが、すでにその点を明らかにしています。
Nvidiaが先日発表した最先端のPegasusコンピューティングプラットフォーム₃は、自動運転向けに特別に開発されたもので、業界最高のパフォーマンスと最先端のDRAMテクノロジーに基づいています。Pegasusプラットフォームはレベル5のパフォーマンスを実現するために、全体として毎秒1TBを上回るメモリ帯域幅を提供します。
自動運転の未来におけるGDDR6の重要性
マイクロンは、車載用メモリソリューションでも、グラフィックスメモリソリューションのGGDR5xとGDDR6でも業界をリードしています。GDDR6メモリに関連する帯域幅では、自動車への実装が可能な実用的なフットプリントで、より高いレベルの自動運転を実現できます。メモリ帯域幅が豊富な自動運転コンピュートプラットフォームでは、自動運転アルゴリズムの継続的な進化と改良が可能になります。ビルビーによると、「時間の経過とともにアルゴリズムは改良されることがおわかりでしょう。ただ、そうした改良はソフトウェアのアップグレードとして導入されます。スマートフォンがアプリケーションやオペレーティングシステムの定期的なアップデートを受けるのと同じです」
自動運転車の継続的な進化の一部として、今後10年はさまざまな機能を繰り返しバージョンアップしていくことでしょう。このため、人間と機械の関与を注意深く管理し、ドライバーが特定の時点で利用可能な自動運転のレベルと、「ハンズオン」「アイズオン」の操作に関する責任を明確に理解できるようにする必要があります。
GDDR6は、人工知能コンピュートエンジンを駆動するのに不可欠なメモリ帯域幅を提供する基盤テクノロジーです。人工知能コンピュートエンジンはNHSTAが管理する業界安全基準に従って自動運転車が安全運転を行い、安全性を高める機能を支えます。GDDR6は、現在利用可能な高性能メモリテクノロジーであり、自動車に関する高温下や過酷な条件下でも動作することができます。
AIは自動運転の実現に欠かせないテクノロジーです。AIに基づく自動運転車に求められる極めて高いコンピュートパフォーマンスには、コンピューターが人間のように意思決定できるようにするために必要な膨大なデータを処理し、保持する革新的なメモリとストレージシステムが必要です。自動運転車が車載用メモリにさらなる速度を求める中で、25年以上にわたって車載用メモリに取り組んできたマイクロンは、競争に勝つために必要な適切なレベルのパフォーマンスを提供し、先頭を走り続けることができるでしょう。
出典・参考文献:
1. 米国運輸省道路交通安全局。「NCSA Publications & Data Requests(NCSAの出版物とデータリクエスト)」 2017年、crashstats.nhtsa.dot.gov/#/。
2. 全米安全評議会。「Distracted Driving(不注意運転)」 Injury Facts、2018年、injuryfacts.nsc.org/motor-vehicle/motor-vehicle-safety-issues/distracted-driving/.
3. Nvidia。「NVIDIA Announces World's First AI Computer to Make Robotaxis a Reality(Nvidia、世界で初めてロボットタクシーを実現するAIコンピューターを発表)」 NVIDIA Newsroom、2017年10月10日、nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-world-s-first-ai-computer-to-make-robotaxis-a-reality
4. R・ビルビー(2018年2月28日)。対面インタビュー