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クラウドの成り立ちとその行方

ライアン・バクスター | 2019年10月

職場での仕事中、Eメールの送信、オンラインカレンダーでの会議のスケジューリング、同僚とのファイル共有やWebベースのプレゼンテーション用スライドでの同僚への画像の送信など、行っている作業のどれほど多くの部分がクラウドで行われているかをおそらく意識してはいないでしょう。自宅にいるときでさえ、自分が意識している以上にクラウドを使用している可能性があります。写真を撮ってバックアップし、ノートブックでアクセスできるようにしたり、ワークアウトの最中や歩きながら聴きたい音楽をクラウドサービスに保存してスマートフォンにダウンロードしたり、Eメールに入力する次の単語の変換候補をデバイスから取得したりすることはありませんか?

クラウドに保存されたこれらの情報はすべて、Web上のグラフィックやブランディングによく見られる空に浮かんだふんわりした綿のような球状のものとは異なります。クラウドはサーバーやメモリコンポーネントで満たされた物理的な領域です。

では、どうやってここまでたどり着いたのでしょうか。ほんの数年前には、ドキュメント、写真、音楽などをすべて自分のコンピューターに保存していました。ドキュメントを共有する場合は、フロッピーディスクやフラッシュドライブに保存して、ノートブックとデスクトップの間でやりとりしていたのではなかったでしょうか。あのデバイス上のメモリは一体どこへ行ったのでしょうか。

別にどこかへ行ってしまったわけではありません。デバイスのメモリとクラウドの容量の力を利用して、人工知能(AI)はほとんどすべてのスマートデバイスで飛躍的に成長しています。最近では、顔認識により親友の写真をアルバムからすぐに見つけることができます。高度なアルゴリズムにより、自分の気に入りそうな音楽が紹介されることもあります。顔認識の向上とデバイス上での意思決定のスピードアップが強く求められているため、クラウドはエッジデバイスと連携して機能するようになり、途方もない夢のAIの実現も可能になるでしょう。手書きの会議メモやタスクリストの提案が不要になり、従来にない賢いAIアシスタントが登場する可能性もあります。

そもそも、なぜクラウドを利用するのか?

写真アプリのバックアップやオンラインアルバムへの写真の保存など、インターネット上のほとんどあらゆる場面にクラウドの存在がありますが、以前は必ずしもそうではありませんでした。事実、マイクロンのシニアカスタマープログラムマネージャー、グレッグ・ウルフによると、わずか10年前まではクラウドストレージとクラウドコンピューティングはあまり認知されていなかったといいます。

「オンプレミスのメモリからクラウドへの移行が進む傾向が始まった大きな要因は、2008年頃の状況にあると思います」と、ウルフは説明しています。当時の金融のメルトダウンなどのさまざまな困難に伴い、多くの企業はオンプレミスのサーバーの使用率が著しく低いことに気付きました。つまり、企業が直面していた経済状況と困難が原因で、ストレージハードウェアからクラウドストレージへの移行が合理的な選択肢となったのです。この移行の焦点の大部分は、リソースの集約とリソース活用の最大化に当てられていました。ウルフはさらにこう説明しています。「クラウドに移行するトレンドの背景には、仮想化によるコンピューティングリソースの効率的な利用と多数のユーザーやジョブを同じ環境下に置くことができるという利点があります」。財政上の窮地にある企業に対し、採用する選択肢について調査すると、さまざまな機能やITサービスの稼働を維持するために必要なハードウェアに関連するコストはクラウドを利用するコストをはるかに上回るということが容易にわかりました。クラウドの初期はそういう状態でした。

グレッグ・ウルフ、シニアカスタムプログラムマネージャー、マイクロンテクノロジー

「もはやクラウドで複製できないワークロードはなくなり、ハイパースケールの環境に移行することで確実にスケールメリットが向上します」

これは現在でも真実味のある話です。現在でも、多くのワークロードでクラウドを利用することのメリットが、ほとんど毎回オンプレミスのリソースに投資することのデメリットに勝っています。とはいえ、オンプレミスのエンタープライズサーバーが消滅するというわけではありません。データの超高度なセキュリティが必要とされる場合やネットワークのボトルネックがワークロードに重大な影響をもたらす場合などにはオンプレミスのエンタープライズサーバーが依然として最強です。ウルフの説明では、最近の平均的なエンタープライズサーバーの使用率は20~30%に留まるのに対し、クラウドの一般的なハイパースケールベンダーでは使用率が最大80%にも上ります。ウルフによれば、これは「驚異的な違い」です。必要以上のメモリを搭載した、おそらく過剰な自社サーバーを利用する代わりに、クラウドでハードウェアを共有することにより、企業はコスト削減とリソース活用の最大化を実現できます。「もはやクラウドで複製できないワークロードはなくなり、ハイパースケールの環境に移行することで確実にスケールメリットが向上します」とウルフは言っています。クラウドストレージへの移行は多くの企業にとって容易です。Statisticaによると、2010年のクラウドストレージ業界の収益は合計6億4,000万ドルでした。わずか6年後、その収益は40億4,000万ドルへと急増しました。

7年連続でクラウドの状況に関する調査を実施しているRightScaleが2018年1月に行った調査では、回答企業の96%がクラウドを利用しており、2017年の92%から上昇したとしています。さらに、調査対象の組織はアプリケーションを平均3.1のクラウドで使用し、他にも1.7のクラウドでの使用を実験中としており、各社約5つのクラウドにプログラムを置いています。

これほど多くの個人や企業がクラウドとその処理機能・ストレージ機能を利用するようになっている状況で、次に来るものは何かといえば、それはAIです。

メモリとストレージの売上を示す棒グラフ

クラウドAI

クラウドはさまざまな機能を提供しますが、企業は絶えずその領域を広げてさらに多くのことを実行しようとしています。拡大しているクラウドの用途の1つに、膨大なデータを選別して傾向やパターンを見つけ、意思決定を支援する人工知能(AI)があります。AIはこれまで以上に効率化し、洗練されています。「クラウドで行われていないことが何かありますか?」 とウルフは問いかけます。

Nasdaq IR Insightsによると、クラウドインフラストラクチャへの資本的支出(CapEx)は今後3年間で約3倍になると予測されています。CapExは2017年に既に410億ドルの巨額に上っていましたが、2021年には1,080億ドルを超えるとされています。クラウドインフラストラクチャに占めるAIサーバーの割合は現時点では微々たるものですが、2021年までには約10%、2025年までにはクラウドインフラストラクチャの半分近くにまで急増すると予測されています。AIサーバーには、標準サーバーの2倍のSSDと6倍のDRAMが必要です。SSDとDRAMは、マイクロンが専門にしているパワフルで効率性に優れた製品です。

AIがメモリとストレージの需要をどのように促進するかを示すグラフ

この点で、クラウドのAI機能は当然ながら制約されます。ネットワークの不備、一般に散発的なダウンタウン、AIサーバーの割合の低さにより、最強の装備を施したデータセンターでさえもすべての処理要件に十分に対応することはできません。

グラフィックのレンダリングを例にとってみましょう。ウルフはこう語っています。(ネットワークのボトルネックにより)「平均フレームレートは良かったとしても、フレームの一部がドロップすると、1日の終わりにはサービス品質が低下します。ユーザー操作性は90%の時間は良好でも、10%の時間は劣悪になります」

このようなボトルネックがあるため、エッジデバイスにも高性能メモリを搭載して、必ずそのハードウェア内で処理が行われるようにする必要があります。ところがクラウドとエッジにはAIで果たすべき役割があります。そしてその成功は優れたメモリから始まります。

スマートデバイスは、AIアルゴリズムが選別するための膨大なデータの保存場所としてクラウドに大きく依存します。そして有益な傾向やパターンを探すためのデータの選別の過程でクラウドベースの膨大なデータにさらにAIアルゴリズム固有のデータが追加され、データセンターに必要なメモリ容量が増大します。データセンターのメモリ容量が増えると、エッジデバイスには大量のデータを振るい分け、そこから十分な価値を引き出すためにさらに高い性能が必要になります。こうして堂々巡りが続き、行き着くところ、高性能メモリが必要になります。

クラウドAIの強化に向けた進化

全体的に必要なメモリが増加した場合には、DRAMが優れています。AIの向上と強化を目指すには、新しいプロセスでシームレスに機能するまでにメモリの換装と進化を進める必要があります。

マイクロンはこの分野の革新技術において最先端にいます。マイクロンでは、メモリをデバイスの処理装置の近くに移動したり、処理機能を直接メモリに移動したりしているため、従来より処理機能が高速になります。また、マイクロンでは、メモリ密度を大幅に向上させ、ほぼDRAM並みのパフォーマンスを確保する新しいメモリテクノロジーの研究も行っています。

こうした研究を進めている実情などを踏まえて、マイクロンのデータセンターマーケティング担当ディレクター、ライアン・バクスターは、クラウドとそのコンピューティング全般のサポートにおいてマイクロンが最適なポジションにいると確信しています。「クラウドほど急成長し、大きな機会がある分野は他にありません。そして、そのクラウドはマイクロンの製品なくしては成り立ちません。マイクロンとクラウドは共生的な関係にあり、マイクロンはクラウドと共に成長しています」と、バクスターは語っています。

ライアン・バクスター、データセンターマーケティング担当ディレクター、マイクロンテクノロジー

「クラウドほど急成長し、大きな機会がある分野は他にありません。そして、そのクラウドはマイクロンの製品なくしては成り立ちません。マイクロンとクラウドは共生的な関係にあり、マイクロンはクラウドと共に成長しています」

バクスターは、クラウドの次なる進化に果たすマイクロンの役割を翻訳者として捉えています。お客様のクラウドへの投資が増え、クラウドへの注目とニーズが高まるとともに、マイクロンがその要望を把握してこれに対応し、さらに勢いを加速する最強のメモリを実現します。バクスターはこう語っています。「業界情報やトレンド情報を選別し、マイクロンが企業に提供する機能と顧客が求めているものをコストパフォーマンスの高い方法で結び付ける方法を理解することがマイクロンの役割です。これを実現するため、より優れた、より効率的なメモリの技術革新への投資を行っています」

では、どうぞ先に進んでください。Eメールを送ったり、写真をアップロードしたり、映画をストリーミングしたり。クラウドは目の前にあり、エッジデバイスのサポートが充実するほどクラウドは強力になります。マイクロンがメモリのアップグレードと進化を進め、ユーザーが日常的にクラウドを利用する機会が増えるにつれ、スワイプ、タップ、またはダウンロードするだけで暮らしが豊かになるAIを活用できるようになります。

Sr. Director, Data Center Segment

Ryan Baxter

Ryan Baxter is senior director of Cloud, Enterprise and Networking at Micron.