CERN(欧州原子核研究理事会)は世界有数の素粒子物理学の研究機関です。CERNは大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を運用しています。LHCとは世界最大の粒子加速器であり、世界最大の大きさを誇る機械でもあります。
LHCは、数兆個の粒子をほぼ光速で発射し合い、最大で毎秒10億回の衝突を発生させることで、ビッグバン直後に似た状態を再現する機械です。センサーによって粒子の衝突時の現象を記録します。衝突により、各物質を構成している大量の新しい粒子が作られ、大量の生データが生成されます。このデータには取得、保存、分析が難しいという課題があります。
CERNとその研究チームは、人工知能(AI)システムといった最先端テクノロジーを活用してその課題への対処に取り組んでいます。マイクロンは、独占的業界パートナープラットフォーム「openlab」のメンバーとして、CERNと初めて連携した現時点で唯一のメモリ企業です。このコラボレーションにおいて、マイクロンのエンジニアは高性能メモリのイノベーションを活用し、CERNの科学者による極めて難度の高い実験を支援しています。
この実験の1つに、LHCの汎用検出器「Compact Muon Solenoid(CMS)」があります。CMSには、物理学の標準モデルの研究(ヒッグス粒子の発見など)から、余剰次元や暗黒物質の探索まで、多岐にわたる機能が備わっています。CMS検出器は、4テスラの磁場(地球の磁場の約10万倍)を生成する大型のソレノイド磁石を中心に作られています。2022年5月の時点で、54か国の241の機関から約5,500人の素粒子物理学者、エンジニア、技術者、学者、サポートスタッフが参加しており、過去最大の国際科学コラボレーションとなっています。
CMSは、2029年から高輝度LHCの運用を目指し、検出器の大幅なアップグレードを計画しています。機械学習推論など、より高度な事象選択アルゴリズムを使用し、レベル1(L1)スカウンティングと呼ばれる最新のデータ収集システムをL1トリガーの一部として導入する予定です。このシステムは再構成された粒子情報を収集して保存します。これにより、大量のデータを取得して、検出器の診断、輝度測定、他の方法ではアクセスできない物理的な特徴の研究に役立てることができます。
高輝度LHCは、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を大幅にアップグレードしたものです。高輝度LHCでは衝突回数の増加が予想されています。輝度とは加速器の性能を示す指標です。
高速なデータ収集を促進するため、CERN CMSは、Compute Express Link™(CXL™)規格に準拠したMicron CZ120メモリ拡張モジュールを使用して、L1スカウティングの取り込みとデータ処理チェーンの向上を実現しています。Micron CZ120メモリ拡張モジュールは、容量、帯域幅、柔軟性という点でパフォーマンス上の大きなメリットがあります。CMSによるバッファリングされたデータへの安定したシームレスなアクセスを可能にするほか、大量の生データと処理済みデータの両方に低レイテンシーのアクセスと短期の空き容量をもたらします。
このプロジェクトは、CERNとマイクロンのコラボレーションの延長上にあるものです。最初のプロジェクトはトリガーとデータ取得を目的とする機械学習推論の高速化に重点を置いたもので、2019年から2022年にかけて行われ、成功を収めました。新しいプロジェクトでは、マイクロンは高度なメモリソリューションによってCERNを支援します。これにより、データ処理が高速化し、インサイトの取得時間が短縮されます。
CERNと引き続きコラボレーションできることは非常に誇らしく、マイクロンはこの科学研究プロジェクトに加われることをとても嬉しく思っています。