消滅しても忘れられてはいない:絶滅種を蘇らせるテクノロジーのパワー
堂々とした巨大な長毛マンモスが最後に地上を歩いたのは約4,000年前。そして研究者はマンモスが再び地上を歩くかもしれないと言っています。こうしたシナリオは、「ジュラシック・パーク」のファンにとっては馴染みのある話ですが、科学者はそれを実現しようとしています。その手法と科学的根拠はまだ立証されていませんが、絶滅種や絶滅の危機に瀕する種に対する恩恵は何よりも明らかです。
人工知能(AI)、データ分析、デジタルメモリなどの新興テクノロジーは、絶滅種の復活や死滅した種の復活という人類がこれまで想像もできなかった偉業を初めて達成するのに役立つ可能性があります。ただし、この夢が現実になるとすれば、科学者にはより高度なマシン、より多くのデータ、より大きな処理能力、およびそれを達成するための時間が必要となります。「これはSFの話ではなく、課題です」と著名なサイエンスライターであるカール・ジマーは述べています。復活生物学とも呼ばれる絶滅種の復活は、それを巡って論争もありますが、地球生態系に確実に恩恵をもたらします。
そのための方法
気候変動、人間による開発、生息地の破壊、および自然災害は、生命体に大きな損害を与えています。種は時代とともに誕生し消滅するものですが、調査によれば、種が消滅するペースが、恐竜が絶滅した6,000万年前以降に維持されてきたペースから大きく変化しようとしています。
通常の環境では、絶滅に向かう種は年に1~5種です。ところが、最近の調査によると、そのペースが加速して、毎日いくつかの種が消滅していることが判明しました。100万の植物と動物の種が、絶滅の危機にさらされています。2100年までに、地球上のすべての種の半数が消滅するかもしれません。
パンダは愛らしく、長毛マンモスは驚嘆すべき生物ですが、科学者は、生物の多様性が重要である理由は、そうした感情からはるかにかけ離れたところにあると主張しています。この惑星の生物は相互につながり、支え合い、維持し合っており、絶滅はドミノ効果を引き起こしかねません。1つの種が死滅すると、主に食物としてその種に依存している種も死滅する可能性があります。
非常に多くの種にとって、時間は極めて限られている
その危険を認識した生物学者達は、1999年にスペインの科学者が最後のブカルド(ヤギの仲間で、別名ピレネーアイベックス)から遺伝物質を採取して以来、種の保存、さらには種の復活をも目指した研究を続けています。彼らはメスの細胞を凍結して、2009年にクローンを作製しました。ただし、アイベックスの子供は生後間もなく死亡しました。
「クロアシイタチを保存するための同様のプロジェクトが進行中です」と触媒科学財団のマネージャーであるブリジット・バウムガートナーは言います。この財団は、Revive & Restoreのための研究プロジェクトに資金を提供する非営利の「遺伝子救済」組織であり、絶滅種の復活を主導しています。
ほんの少数のクロアシイタチのみが残っている状態では、近親交配は種の存在を脅かします。研究者は、極低温で保存された1,000以上の異なる種の遺伝物質を保有するサンディエゴ動物園の冷凍動物園から提供されたDNAを使用して、死亡した2匹のケナガイタチからクローンを作製し、捕獲されているケナガイタチと交配させて、遺伝子プールの多様性に追加しようとしています。このプロジェクトが成功すれば、以前のアイベックスプロジェクトが陥った落とし穴を回避して、クロアシイタチの存続の可能性を高めることになります。
テクノロジーの世界では、2009年ははるか昔のことです。AI、データベースの管理と処理、メモリテクノロジーの進歩は、種の存続に向けた取り組みに役立つ可能性があります。研究者は、AI対応のゲノムマップ、精巧な遺伝子編集技術、および幹細胞技術を使用して、絶滅種の胎芽を作製しました。これまでのところ、研究者はこの胎芽を研究に使用していますが、目標の1つは特定の絶滅種またはその変種を復活させることです。最も近い生体変種の体内または卵にこの胎芽が着床すると、理論的には、違った形態であっても絶滅種が復活する可能性があります。
ティラノサウルス・レックスがやって来る?
暴れ回る恐竜を怖れている方はご安心ください。DNAには有効期限があります。DNAは、永久凍土層のような安定した氷点下の最良の状態であっても、150万年以上は存続できません。前述したように、恐竜は約6,000万年前に絶滅し、死骸は化石になりました。
「恐竜は対象外です。石からクローンを作ることはできません」とウェイクフォレスト大学医学部の再生医療研究所のロバート・ランザ教授 は言います。
ただし、他に選択すべき候補はたくさんあります。鳥類学者のスーザン・ヘイグは、絶滅種の復活が可能かどうかの判断には、次のような評価基準が役立つと述べています。
- 種が絶滅した時期。永久凍土の中に保たれた骨や歯から古いDNAを抽出することもできますが、博物館の標本からさらに新しい細胞を採取するほうが効果的です。
- 非移住性の種であること。科学者にとって、近くに生息する動物のほうが飼育や監視が容易です。
- 一雄一雌の種であること。繁殖を制御すると、より速いペースで個体数を増やして、その後の各世代を遺伝学的に原種に近づけることができます。
- 卵または胎児の大きさは、母体が自然に出産する個体の大きさに類似するのでしょうか? 「雌の象が障害なくマンモスの胎児を身ごもって出産できるかどうかは分かっていません」とシャピロは言います。
- 新生児が比較的早期に自立できること。別の種の母体動物は、新生児または孵化した個体の育児を放棄することがあるため、早期に自律することが生き延びるための鍵となります。
リョコウバトの帰巣
リョコウバト、すなわち「野生」の鳩がこの基準を満たします。「個体数が50億に達していたリョコウバトは、狩猟によって完全に死滅する前まで世界中で最も数の多い鳥でした」と、Revive & Restoreの共同設立者であるスチュワート・ブランドは言います。
リョコウバトの唯一の生存個体であったマーサは、動物園で1914年に死にました。現在使用するには十分に新しい遺伝子試料です。ところが、研究者が博物館に展示されていた剥製の爪先部分から組織を採取したものの、ゲノムの配列を完全には特定できませんでした。そこで研究者は、リョコウバトに最も近い近縁種であるオウギバトのDNAの配列を特定し、より完全な全体像を得るため、これら2種類のDNAを比較しました。
Revive & Restoreの科学者であるケン・ノヴァクは、リョコウバトの卵の代理母としてオウギバトを使用して、孵化させた幼鳥に2つの種を混在させるという構想を持っています。実際には個別の種であっても、その子孫は最終的に絶滅種に近づくことになるでしょう。ノヴァクは、2025年までにこの種を復活させることを目標にしています。
長毛マンモスは再び地上を歩くのでしょうか?
DNAの保存には、種が眠っていた期間よりも温度のほうが重要です。DNAの分解は死の直後に始まりますが、前述のように、一貫して低い温度で保存されている場合、プロセスは著しく遅くなり、停止することもあります。生物学者が北極に保存されていた2つの標本から採取した遺伝物質を使用してマンモスのゲノムを配列できたのはそのためです。1つの標本は約4,300年前のもので、もう1つの標本は4万4,800年前のものです。
次のステップは、AIを使用してマンモスのDNAをコピーして、長毛マンモスに最も近い近縁種であるアジアゾウから採取した細胞株に貼り付けることです。研究者は、この細胞が正常に複製された場合に備え、妊娠のための人工子宮を(マウスの子供で行ったように恐らく3Dプリント技術を使用して)作り、雌の象を代理母にして危険にさらす必要性を排除することを計画しています。
しかしながら、長毛マンモスの復活には、さまざまな複雑な問題や倫理的な問題が提起される可能性があります。これによって、絶滅種を復活させる、あるいは新しい種を作ることが本当にできるのですか? 絶滅種を復活することによる生態系への実際的な意味は何ですか? AIが解釈を誤り、欠落しているDNA配列に間違った遺伝コードを挿入するとどうなりますか? この取り組みは、別の動物を危険にさらして代理母として使用し、復活させた動物の胎児を身ごもらせることによって危害が及ぶリスクに見合うことですか? いくつかの質問は、哲学、倫理、および見解の問題であり、それ以外はテクノロジーの進歩によって解決できます。
ゲノム配列決定
- 1990年:最初のヒトゲノム配列は、13年の歳月と約10億ドルをかけて特定された
- 2000年:プロセスは、数日の時間と約5,000ドルの費用を要した
- 2019年:完全なヒトゲノム配列の特定に要するのは、わずか20分の時間と600ドル未満の費用である
- 今後の目標:プロセスは、1分以内に100ドル未満で完了するようになる
テクノロジーの重要な役割
「絶滅種の復活はまだ夢にすぎませんが、主にAIやデータ分析などテクノロジーの進歩によって、科学者はその実現に向けてこれまで以上に努力しています」とバウムガートナーは言います。ゲノム配列の特定は、骨の折れる困難な作業です。絶滅種から採取したDNAを使用する場合、とりわけ遺伝物質を凍結して制御された環境に保存する前に絶滅が起きた場合は、さらに困難です。
永久凍土層から掘り出され長毛マンモスの遺骸から採取されるのはDNAの断片にすぎず、科学者はそうした断片をつなぎ合わせる必要がありました。遺骸に触れるあらゆる有機物はいくらかのDNAを残したまま、死亡した動物の遺伝物質と交じり合います。科学者は、どのようにすればそれを区別できるのですか?
幸運にも、患者の遺伝体質に合わせた医療などの分野ですでに使用されているAIテクノロジーは、莫大な量のデータを処理して特定の動物のDNAに関する疑問に答えることができます。すなわち、動物のDNAの塩基対を正しく配列し、その動物に属していない部分を除去したり隙間を埋めたりすることができます。DNA配列は複雑なパターンに従います。そのため、絶滅種のDNAの隙間を埋めるため秘訣の1つは、パターンを識別することです。こうした複雑な作業は、人間には不可能かもしれませんが、AI機能が強化されたコンピュータはパターン認識に適しています。このようなコンピュータは、不完全なデータを迅速に分析してパターンの欠落部分を補完できます。また、反復処理を行うたびに学習して、以前よりもさらに高速で正確に作業できるようになります。
ただし、DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)は一筋縄ではいきません。バウムガートナーは、もうすぐAIが複数の次元でゲノムのデータを分析して視覚化し、「細胞や動物の中で起こっていることのより完全な全体像」を把握できるようになると予測しています。絶滅種の復活への取り組みを促進できる多次元データベースは、メモリのイノベーションに大きく依存しています。これらのツールでは、NVDIMMなどの不揮発性メモリテクノロジーを使用してメモリ内データベースを作成し、それによってデータをプロセッサに近づけてデータ分析を加速する必要があります。
マイクロンのシニアビジネスデベロップメントマネージャーのエリック・ブースは次のように述べています。「多次元データセットの任意の次元にアクセスする方法は、本質的に多くの点で小さなデータチャンクへのランダムアクセスに似ています。そのため、多次元データセットの迅速な分析は、データベース全体がメモリ内データベースとしてDRAM内部に存在する場合に、はるかに高速になります。DRAMは、こうした種類のデータアクセスに向いており、非常に得意としています。ストレージデバイスは大きなデータブロックへのシーケンシャルアクセスに対して最適化されているため、この種のデータベースをストレージのみに依存すると、速度が遅くなりすぎます。これは、不揮発性メモリテクノロジーが非常に効果的なオプションとなり得る適用例です」
データ圧縮、多次元データベース、および単一のコンピュータチップにより多くの情報を取り込む能力は、不揮発性メモリテクノロジーの原動力になるとバウムガートナーは予測しています。メモリの進歩によって、DNA配列特定のコストはすでに低下しており、かつてコストが法外に高かった科学の分野でも利用可能になっています。
それでもバウムガートナーは、「ゲノムについては、分かっていないことがたくさんある」ことを認め、その具体例として、ゲノムを配列して配列を完全に理解すること、さらには1つの有機体のデータが他の有機体のデータや気候などの要因と相互作用する仕組みを挙げています。「ただし、これらの問題が解決されるときは、データ分析によって解決されるのは確実です」とも述べています。
我々は、絶滅種の復活への取り組みや、こうしたプロセスを追求すべきかどうかに関する強い意見が提起するロジスティカルまたは倫理的な質問への答えを持っているとは主張しませんが、確かなことが1つあります。それは、そうした取り組みを成功に導くために必要なテクノロジーは魅力的であり、科学者が成功を望むなら、大量の高速メモリおよびストレージのソリューションが必要になるということです!
このプロジェクトへのサポートを含めて、Revive & Restoreの詳細については、http://www.reviverestore.orgをご覧ください。