デイビッド・ムーア(企業戦略およびコミュニケーション部門最高戦略責任者兼シニアバイスプレジデント)
新しい年が始まると、マイクロンでは来年(そして再来年)の展望を考えるのが慣例です。将来を見通せる水晶玉を本当に持っている人はいませんが、技術の利用がいかに諸産業を変革しているか、そしてその変革の中心的存在となるためにメモリとストレージの役割がどのように進化しているかを常に注視しています。ますます大量に増え続けるデータを生成し、消費し、関与し、管理する新たな方法が分かれば、私たちは時代の先端を行くことができます。そしてビジネスの成果だけでなく、この世界とそこに住む人々の進歩を後押しすることができるのです。
データへのアクセスがさらに広まり、新たな利用モデルや信じられないほど豊かでインタラクティブな体験ができるようになると、私たちが日常的に使用しているテクノロジーや、それを実現するために必要なクラウドからエッジまでのインフラへの需要は高まるでしょう。
私たちが家庭や移動中にデータを扱うことで使用するデバイスの増加に伴い、こうした需要には、かつてないレベルでテクノロジーのイノベーションが必要になります。テクノロジーに何が求められるか:
- 卓越したパフォーマンスと驚異的なデータ容量を実現すること
- システムレベルでの新しい画期的なエネルギー効率を実現すること
- 人工知能(AI)がもたらす機会を利用して、ユーザーエクスペリエンスとビジネス上の成果を変革すること
- 再利用可能性とサステナビリティに関する重要な目標に照らして、業界の進展を促進すること
2021年、私たちは、革新的なメモリとストレージテクノロジーへの継続的な需要増に対応するため、製造、研究開発、サステナビリティなど多くの取り組みへの大規模な投資を発表しました。2022年には、デバイスからインテリジェントエッジ、クラウドに至るまで、広帯域幅のエネルギー効率に優れたソリューションを求める業界全体からの急激な需要の増加を前にして、イノベーションの推進を続けなければなりません。
最高戦略責任者としての私の責務は、マイクロンの戦略を描き、磨きをかけるために、多くのチームを横断して仕事をすることです。その過程で、マイクロン全体の優れたビジネスソートリーダーや先見性のある技術者と関わる機会に恵まれています。彼らには、2022年以降、どのようなテクノロジーのトレンドが生まれてくるかを予測するために、今後の市場動向を予測するための見解を伺いました。
データセンターの未来を拓く
ラジ・ナラシンハン、コンピュートおよびネットワーキングビジネスユニットのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー
データセンターは、オンプレミスにしろクラウドにしろ、私たちのデジタルライフを支える存在です。それは、私たちがよく知るあらゆるサービスをホストするインフラであり、オンラインショッピングや在庫追跡、リアルタイムの地図ナビゲーションやコンテンツストリーミングなどがこれに該当します。しかし、データや新しいサービスへの飽くなき需要が高まるにつれ、データセンターは、利用可能なすべてのデータを効率的に保存、処理することができず、その限界に直面しつつあります。2022年には、メモリとストレージを中心に、データセンターのアーキテクチャに大きな変化が起こるでしょう。コンポーザブルアーキテクチャの時代が訪れ、サービスプロバイダーや企業はサステナビリティをますます重視するようになり、データセキュリティは常に懸念事項となるでしょう。
新しいメモリとストレージの階層が、2022年のデータセンターに革命をもたらすでしょう。データセンターのインフラは逼迫しており、データ集約型のワークロードを解き放つには、さまざまな種類のメモリのイノベーションが鍵となります。最もエキサイティングな変化は、DDR5の登場です。これは、世代を超えた性能の飛躍であり、データセンターのニーズが実際にメモリの標準化につながった初めてのケースです。また、Compute Express Link(CXL)ベースのメモリソリューションが初めて登場し、データセンターのコンポーザビリティとメモリプールへの道の第一歩を踏み出すことになるでしょう。さらに、今年はHBM3が登場する年でもあります。HBM3は、汎用の中央処理装置(CPU)と組み合わせることで、パッケージ内のメモリを大幅に強化します。データセンターでは、これらのイノベーションにより、これまでにない新しいメモリ階層が出現し、コンピューティング、メモリ、ストレージをプールした、よりコンポーザブルなインフラが実現します。これは、企業やサービスプロバイダーにとっても、さまざまな種類のワークロードやアプリケーションにおいて、パフォーマンスの向上と総所有コストの削減を意味することになるでしょう。
より柔軟でコンポーザブルなインフラへの移行は、エネルギー効率の向上にもつながります。オーバープロビジョニングされたリソースを削減することで、データセンター事業者は、環境フットプリントを削減することができます。米国エネルギー省によると、最大規模のデータセンターは100メガワット以上の電力を必要とし、これは約8万世帯分に相当します。地球上には850万ものデータセンターがあり、これらの施設は、エネルギーや水の消費、二酸化炭素の排出、廃棄物に多大な影響を与えています。企業は、より戦略的にサステナビリティに取り組むことが求められています。今後企業は、エネルギー効率の高い方法でインフラを管理する方法を綿密に検討し、低消費電力のメモリやストレージなど、インフラを構成するグリーンテクノロジーをより強く意識するようになるでしょう。戦略的にデータセンターのサステナビリティを検討している企業には、メモリやストレージを単なる部品として扱う余裕はもはやありません。むしろ、ビジネスとサステナビリティの目標を達成し、真のコンポーザブルインフラを実現するための重要な要素であると考えるようになるでしょう。
データを暗号化することだけがセキュリティではありません。データの暗号化は広く認知され、導入も進んでいます。しかし、セキュリティは、データやサービスの信頼性と可用性のことでもあります。単に、ビットや選択したデバイスを暗号化したり保護したりするだけでなく、重要なデータやサービスを安全に、常に利用できるようにすることが重要です。今や、データセンターセキュリティプランを正しく立案するには、セキュリティの侵害やランサムウェアなどからデータそのものを保護するだけでなく、フィッシング攻撃やソーシャルエンジニアリング、さらには災害復旧なども考慮に入れなければなりません。データセンターの侵害の影響を軽減するために、自動化や自己修復も進むでしょう。サービスプロバイダーや企業は、データセンターを最適かつ安全に稼働させながら、顧客や従業員が実生活とインターネット上の生活を容易に融合させることができるよう、このような広い視野でセキュリティに取り組んでいくことが求められます。
拡張現実、仮想現実、そして「超現実」へ
ディネシュ・バハル、コーポレートバイスプレジデント兼コンシューマー&コンポーネントグループ担当ゼネラルマネージャー
メタバースであろうとなかろうと、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)により、クライアントデバイスの融合が進むでしょう。市場では、人々がメタバースのような仮想世界にどれだけ深く、どれだけ徹底的に関与するかについて大々的に議論が交わされています。だからこそ、業界を代表するアナリストが提案する「超現実」という言葉は、私たちが迎えようとしている時代にふさわしいのです。今後、広範で没入感のあるデジタル体験が多くの人々の日常生活の一部になることは議論の余地がなく、それを可能にするデバイスは進化し続け、ユーザーエクスペリエンスの期待に応えるでしょう。例えば、スマートフォンに組み込まれたVRや、スマートグラスに組み込まれたARなど、デバイス間の垂直統合がさらに進むことが予想されます。私たちが日常的に使用している多くのデバイスでは、より多くの感覚に働きかけ、多感覚で身体的な体験を生み出すために、ハプティクスなどのテクノロジーの統合が進むでしょう。これらのシステムでは、より柔軟なフォームファクタを実現するために、チップパッケージングや、従来はメモリやストレージのダイの外側にあったその他のアイテムのさらなるイノベーションが期待されます。
この40年間、人々はパソコンやスマホの画面など、二次元の平面でものを見てきました。VRテクノロジーはスケールアップやスケールアウトに時間を要しましたが、今では誰もが多次元的な没入感のある体験を求めています。これまでは、解像度、応答性、レイテンシーが複合現実感を主流にするためのボトルネックでしたが、これらの能力がようやくVRや没入型体験を実現できるレベルになってきました。これがコンピューティングにどのような影響を与えるかについては、メモリやストレージの観点からも興味深いものがあります。
複合現実感が普及し、現実世界と仮想世界が融合して新たな環境や映像が生み出されるようになるでしょう。このような新しい体験は、ユーザーが自由に動き回れるアンテザード型のVRシステムによって加速し、VRの世界でより一層の没入感が得られるようになるでしょう。大規模な5Gの実現とインテリジェントエッジの出現により、こうした機会はかつてないほどに広がるでしょう。また、アンテザード型のデバイスに対応を迫られるコンテンツの数も増え、より高いパフォーマンス、より多くのグラフィックスレンダリング、より低消費電力のメモリやストレージがコンパクトなスペースで必要になります。モバイル分野で見られるようなユニークなフォームファクタがメモリにも見られるようになり、より多くのストレージ機能、より多くの帯域幅、より多くのメモリが常に必要とされるようになるでしょう。
サステナビリティと修理の権利が当たり前のことになるでしょう。世界では毎年、2,000万〜5,000万トンもの電子機器の廃棄物が発生していますが、適切にリサイクルされているのはそのうちのほんの一部です。しかし現在、大手スマートフォンメーカーの中には、消費者が保証の範囲内で自分の携帯電話を修理できるようにしているところもあります。これにより、すべてのテクノロジーメーカーにおいて、サステナビリティ、再利用性、アップグレード性を重視した動きが生まれるでしょう。つまり、新しいPCやデバイスを買うのではなく、既存の製品をアップグレードするということです。これは、製品の寿命に注目するのではなく、既存の素材を再利用、改修、修理、リサイクルすることで廃棄物をなくすことを目指す、循環型経済の概念がすでに急成長していることを意味します。2022年以降は、他のデバイスメーカーもこれに倣い、よりサステナブルな未来に取り組んでいくことになるでしょう。
インテリジェントエッジにおけるサプライチェーンと自動車アーキテクチャの変革
クリス・バクスター(コーポレートバイスプレジデント兼エンベデッドビジネスユニット担当ゼネラルマネージャー)
何十億ものデバイスからのデータやインサイトの急増に伴い、インテリジェントエッジが台頭しています。業界では、より良いインサイトを得るために、データを作成された場所で処理することの重要性が認識されています。すべてのユースケースが、処理のためにクラウドのデータセンターに戻ることによるレイテンシやコスト増に耐えられるわけではありません。インテリジェントエッジは、戦略的投資としてますます注目されています。企業は、予知保全や工場の最適化などのためのリアルタイム分析に加えて、より効率的な都市づくりやデジタル化の有効活用にもメリットを感じているのです。
インテリジェントエッジの変革は、AIと5Gの進化によって加速しており、それに伴い、コネクティビティとコンピューティングの恩恵は、製造業向けアプリケーションや高度な自動車体験といった環境にまで及んでいます。エッジの展開が成熟するにつれ、製品寿命の延長、動作温度の拡大、スペースやエネルギーの最適化など、厳しい環境下での高性能なメモリやストレージに対する新たな要求がもたらされます。
インダストリー4.0は、さらに加速していきます。2022年には、供給に関する制約が続く中、多くの企業が、インフラやアプリケーションをよりインテリジェントにすれば、サプライチェーンネットワークからのアウトプットを最大化できることを確認できるでしょう。デジタルツインは、製造を最適化し、サプライチェーンの不足を最小化するのに役立ち、コンピュータビジョンや音響センサーなどの機能は、製造現場での製造上の欠陥や問題を迅速に検出します。製造業の最適化の必要性は、インダストリー4.0を加速させます。こうした機会が訪れることについては以前から研究されていましたが、多くの企業がようやく本格的に認識し始めたところです。また、コネクティビティ、Wi-Fi6、5Gの継続的な進化に加え、高度なAIチップやソフトウェアにより、管理機能やオーケストレーション機能が強化されたスマートゲートウェイ、5Gプライベートネットワーク、エッジデータセンター、スマートデバイスなどが成長していくでしょう。
自動車テクノロジーの移行も加速するでしょう。先進的な運転支援機能の採用の増加、最新のユーザーエクスペリエンスに対するコンシューマーの期待、そして緊迫したグローバルサプライチェーンが相まって、自動車業界は一斉に新たな考え方を採用すべき局面を迎えています。来年には、供給不足気味の従来のテクノロジーから、新しく革新的な製品やソリューションが利用できる次世代プラットフォームへの移行が加速するでしょう。10年前には、主流の非自動車用アプリケーションから自動車用製品へのテクノロジーが採用、検証されるまでのサイクルは5年ほどかかりましたが、現在は約1年半に短縮されています。こうしたことが、自動車業界における次世代テクノロジーの加速につながると考えています。
また、自動車業界では、集中型の車両アーキテクチャを採用する動きが活発化するでしょう。米国では、中国や欧州に比べて電気自動車(EV)の普及が遅れていますが、来年にはEVの展開と米国での普及が加速するでしょう。これにより、車両設計者は、メモリ、ストレージ、コンピューティングの集中化と高度な分散型アーキテクチャを対比して、効率性を高めることができる集中型またはゾーン型アーキテクチャなどの新しいアーキテクチャの導入を加速させる絶好の機会を手にすることになります。これらのアーキテクチャでは、車内でのデータ作成、保存、処理のニーズの高まりに対応するために、メモリとストレージの要件をより高い容量、より高い帯域幅の機能に変更していくことになるでしょう。
自動車業界と製造業界は、今後数年間で最も急成長する分野であり、コネクティビティとインテリジェンスにより、データが作成された場所で処理され、より良いユーザーエクスペリエンスを実現するという新しいユースケースが可能になることをはっきりと示すことになるでしょう。
スマートフォンが人間をよりよく理解する未来
ラジ・タルーリ(モバイルビジネスユニット担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー)
スマートフォンは、すでに非常に多機能かつパーソナライズされた端末として定着しており、様々なアプリや機能を通じて、ユーザーに合わせたサービスや情報を提供しています。ユーザーや状況、あるいは周辺環境についての様々な変数を把握する機能はコンテキストアウェアネスと呼ばれ、センサーや処理能力が向上するにつれ、今後もさらに強化されるでしょう。
すでに私たちは、スマートフォンに複数のセンサーやカメラ、およびその他のコンテキストアウェアネスを実現するためのハードウェアが搭載されていることを当然だと思っています。最もよく知られているセンサーはGPSですが、その他にも、ジャイルスコープ、歩数計、磁力計、高度計をはじめとするさまざまなセンサーが搭載されています。これらのハードウェアは、ユーザーごとに個別の利用体験を提供する上で欠くことができません。2022年には、固有のユーザー体験を提供するために、スマートフォンとアプリで構成されるエコシステムにおいてこれらの機能がさらに活用されるようになるでしょう。
5G通信と人工知能により、コンテキストアウェアネスが現実のものになります。2022年には、コンテキストアウェアネスおよび人間中心のAI機能がさらに強化され、多くのセンサーを搭載し相互連結されたオブジェクトを人工知能によって分析することで、周辺環境やユーザーの使用パターンをよりよく把握できるようになるでしょう。例えば、朝に出社前のユーザーの場合、ベッドを出てからコーヒーを淹れるまでに何分かかるかをコーヒーメーカーが正確に把握するようになるかもしれません。あるいはスマートフォンは、カレンダーアプリに入力されたデータに基づき何時に家を出るべきかをあなたに知らせ、自動車の電源を入れ、自動車を玄関まで移動させ、さらにその他の自動車、屋外カメラ、および信号と通信して最も効率的なルートを選択してあなたを職場まで連れて行くようになるかもしれません。移動中のあなたは、スマートウォッチで自分の感情やムードを確認し、到着までの時間はそれに合わせた音楽を楽しむのです。5G通信と人工知能は、このような未来を実現する上で中心的な役割を果たします。
スマートフォンは、より直感的に利用できるようになります。現在のスマートフォンに搭載されているイメージング技術は、高画質の画像をシームレスかつ自動的に撮影することを可能にしています。被写体にカメラを向けてズームすると、スマートフォンに搭載されたレンズが自動的に切り替わるようになっています。シャッタースピードを遅くしなければならない暗所撮影の場合、搭載されたセンサーが手ぶれを補正し、よりシャープな写真を撮ることができます。また多くのスマートフォンでは、深度をコントロールするために3DセンサーやLidarを搭載しており、背景部分のボケを表現することができます。これらのテクノロジーの大部分は、現在市販されているフラッグシップのスマートフォンにすでに搭載されていますが、2022年以降においてはさらに一般化し、全ユーザーを対象としてすべての価格帯にわたる全機種で採用されるでしょう。さらに、スマートフォンの背面全体がすべてカメラで覆われる日も遠くないかもしれません!
メモリおよびストレージ市場は、他の構成部品を上回るペースで拡大するでしょう。これらのモバイルテクノロジーはすべて、スマートフォンに求められるメモリやストレージの容量を劇的に引き上げるものです。すでに予想されたように、スマートフォンに搭載するメモリおよびストレージの容量は、4G通信から5G通信への移行に伴い事実上2倍になりました。現在出荷されているスマートフォンのメモリ密度は、2021年時点で平均約5.2ギガバイトです。私たちは、2025年までにスマートフォンに搭載される平均のメモリ容量は9ギガバイトに上昇すると見ています。
AI:脳レベルの効率性を追求し続ける
スティーブ・パフロフスキー(アドバンストコンピューティングソリューション&新メモリソリューション担当コーポレートバイスプレジデント)
AI分野における最も重要なアプローチとして、(過去にそうであったように)AI機能を搭載したハードウェアを重視する傾向が強まると予想されますが、この影響を受けるのはプロセッサだけではありません。この傾向は、初期のインターネットや、過去の鉄道敷設に伴う熱狂的なブームに似ています。つまり、ブームの初期にある種の陶酔感が生まれ、いくつかの小さな企業が画期的なソリューションを開発しようと努力します。しかし、最終的には、真の価値を持つ最も優れたソリューションを市場が決定するのです。人工知能が一般の人々に認知されるに伴い、これと同じ傾向が見て取れます。つまり、非常に多くの企業が新しいAIチップやニューロチップを開発し、AI処理こそ企業のすべての業務の中心になると喧伝しました。もちろん、このようなラジカルなアプローチを採用した企業の大部分は顧客の獲得に失敗した結果、汎用チップやGPUによる処理能力をAIに活用するというのが現在の全般的なトレンドです。このアプローチは、ある程度の期間は有効ですが、スケールを活用できず、コスト効率が低くなります。
各業界にわたり知識が蓄積された現在、市場では「ローマは一日にして成らず」ということわざ通りに、より現実的な理解が深まっています。つまり、AIの普及がさらに進み、あらゆる場面で活用されるようになるためには、効率的な処理可能性を高めなければならず、そのためにはAIを搭載したハードウェアに焦点を当てなければならないという認識です。ただしこれは、AI専用チップやニューロチップの開発を目指すアプローチに戻ることを意味しません。2022年以降においてはむしろ、よりバランスを重視し、混合型のAIソリューションが一般的になると予想されます。これは、コンピュータが支援するデザインやカスタマーサービス、あるいはリテールおよびコミュニケーションの分野など、事実上あらゆる種類のアプリケーションにAI技術が追加され、組み合わされているのと同じ流れだと言えます。
5Gネットワークの分野では、大部分のサービスプロバイダーが、複数のアンテナを対象とするビームステアリングの機能を向上するために、トラフィックデータやAIアルゴリズムを活用してネットワークに対するトレーニングを実行し、ネットワークの効率性を向上させたいと考えています。5G通信の基底帯域やアンテナのインフラ、および帯域幅に要求される費用を考えると、5Gネットワークの実装における効率性の向上は非常に大きな意味を持ちます!5Gネットワークに関する業務の多くはオープンプラットフォームやオープンスタンダードに基づいて実行されています。これは従来よりも優れた方法ですが、問題がない訳ではありません。これらの新しいオープンシステムでは、AI処理とネットワーク処理の間でバランスを取るため、ボトルネックやリソースの競合が頻繁に発生するからです。マイクロンでは現在、この分野における課題について分析を進めており、AIを活用したデジタル基底帯域アルゴリズムの効率性を向上させることで、通信業界におけるオープン5Gネットワークへの移行をさらに加速化するための機会を見出したいと考えています。
通信業界はすでに、さらに次世代の通信規格である「6G」を見据えています。これは、メモリ中心でAIベースのデジタルアルゴリズムが重要性がさらに高まることを意味し、これらの新しい無線通信技術を実現するには、メモリおよびストレージの容量拡大が欠かせません。私たちは現在、6Gネットワークに求められる要件および機能に関するスコーピングを行う業界内のコラボレーションに参加しており、6Gのネットワーク、端末、およびユーザー経験を提供するために必要なスループット、容量、および低レイテンシーに必要なメモリおよびストレージ技術を確実に提供したいと考えています。6G通信に関する予想はこれくらいにして、5G通信に話を戻しましょう!
AIソリューションが進化するにつれ、人間の脳という驚くべき計算処理デバイスを参照することが有益になります。現在でも、電子回路が消費するエネルギーは、生物システムと比較して十万〜百万倍多いのです。人間の脳は、およそ35ワットほどのエネルギーしか消費せずに驚くべき計算処理を行えるからです!
ADASをはじめとする現在の大規模で複雑なシステムも、人間の脳が持つ処理能力と比較すればまったく取るに足らないものです。基本的に、人間の脳は大きな驚くべき計算処理能力を持つメモリデバイスですが、このように優れた機能を持つ大きな理由のひとつは、機能分野が固定されているためです。つまり、視覚を取り扱う脳の領域は、聴覚やその他の認知タスクを取り扱う領域とは別の場所にあります。脳は基本的に、異種混在の大規模システムであり、固定された機能を提供する様々な領域が、高い接続性によりひとつにまとめられているのです。
人工知能についても、これと同じコンセプトが必要です。つまり、非常に大規模な汎用処理能力を持たせるのではなく、特定のタスクを提供する専用のサブシステムで構成する必要があるのです。人工知能のエネルギー消費量は現在でも天文学的な数値にのぼるため、このようなアプローチはエネルギー使用の最適化という吃緊の課題を解消することにつながります。AIが消費するエネルギー量の一例として、OpenAIの研究によれば、言語モデルのトレーニングに使用されるエネルギー量は、3軒の住宅が1年に使用するエネルギー量とほぼ同一なのだそうです!あらゆる場所でAIを利用する未来を実現するには、エネルギー効率の改善が必要なことは明らかでしょう。
次にクラウド化の犠牲となる製品:ハードディスクドライブ
ジェレミー・ワーナー(ストレージビジネスユニット担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー)
非常に大容量で低コストのソリッドステートドライブ(SSD)が、ハードディスクの衰退をさらに早めるでしょう。SSDパフォーマンスの上昇過程は、CPUのパフォーマンスカーブを上回っています。ですから、「優れたフラッシュドライブの性能を最大限活用するにはどうすればよいか?」という質問が浮かぶのも当然でしょう。大部分の企業ではまず、フラッシュドライブの性能をより多くのシステムで共有することで、パフォーマンス稼働率の向上を目指します。しかし、ドライブを共有するシステムが多くなればなるほど、ドライブに要求される容量の要件が高まり、その結果大容量のドライブに対する需要が高まります。高い性能を誇るNVMe-over-fabric(NVMe-oF)の共有ストレージがクラウドやコンポーザブルなインフラにおいて主流になりつつあるため、大容量で低コストのSSDに対する需要は一層高まると予想されます。ハードディスクをフラッシュドライブで置き換えることで全般的な総所有コストが節約できるため、多くの使用事例では共有ハードディスクがSSDで置き換えられるでしょう。
消費電力、設置スペース、副次的なハードウェアとの統合、信頼性、および製品寿命が比較的長いといった特性によりコストが削減できる点はすでに広く認識されれていますが、高性能ストレージの役割を分割する傾向が強まっているため、SSDを選好する傾向は2022年にさらに強まるでしょう。一方ハードディスクは、要求される性能の最低ラインを満たすのに苦労しているのが現状であり、大容量化によるパフォーマンス向上がSSDほど期待できないため、今後10年間においては、高い性能が要求されない使用事例において現在磁気テープが占める位置と同様に、事実上過去の遺物となると予想されます。
PCIe GEN5は、ネットワーク接続およびアクセラレータの分野で最大かつ最も具体的なインパクトをもたらすでしょう。業界では一般に、PCIe Gen5のような世代交代を伴う技術に対しては非常に大きな期待が寄せられ、その一部は過剰な部分も含まれるでしょう。しかし、アーキテクチャの移行は一定の期間を必要とし、ただちに、あるいは直線的なペースでバリューを提供したり、導入されるものでないことも常識です。これは、PCIe Gen5の場合も当てはまるでしょう。現在のデータセンターにおいて最も解消が求められているボトルネックは、多くの場合、処理能力の限界に関連しています。特に、アプリケーションに最適化されたアクセラレータのオフロードエンジンや、ネットワーク上の大規模データやファイル移動の必要性が高い機械学習やAIモデルといった並列的かつ特定のワークロードにおける処理能力の限界が問題になっており、100ギガビット、200ギガビット、400ギガビット、あるいはそれ以上のネットワーク規格に対応したより高速なネットワーク機器の導入傾向が高まっています。高性能のPCIe接続は、現在のコンピューティングおよびネットワークにおいて最も広く吃緊の課題であるこれらのボトルネックを解消する上で必須だと言えます。
各企業は、ストレージ機能の最重要な改善のためにPCIe Gen5をただちに導入する必要があるとは考えていませんが、これは、ストレージのサブシステムにおいて多くの並行処理が行われていることと、PCIe Gen4への移行を終えたばかりだからです。この点はまた、論理的に言えば、解消すべきボトルネックとしてより緊急性を要するのはアクセラレーションやインプット/アウトプットの制限であることにも関連しています。PCIe Gen5のストレージは、ストレージ機能の高速化およびスケーラビリティの向上をもたらしますが(常に好ましいことです!)、一般に、コンピューティングまたはI/O上のボトルネックにより、システムがストレージの性能向上から恩恵を受けられない場合、ストレージ性能のスケール化のために予算を投じることは意味がありません。端的に言って、1つのサーバーに20個から24個の高性能なGen5のSSDを搭載しても、用途分解型のストレージの場合は全データをネットワークに出力できず、ダイレクトアタッチドのストレージの場合は大半のCPU性能では処理速度が不足するため、ソリューションレベルにおける性能のインパクトは低くならざるを得ません。しかし、高性能なPCIe Gen5ベースのネットワーキングやアクセラレーションが一般化すれば、より多くの企業がPCIe Gen5 NVMe SSDが提供する性能を活用し、確固とした投資リターンを獲得するようになるでしょう。つまり、PCIe Gen5 SSDが一般的に導入されるまでにまだ時間はかかるとみられますが、PCIe Gen5を採用したネットワークインターフェースコントローラーやアクセラレータは、PCIe Gen4 SSDの価値および制限されている本来の性能を引き出すものだと言えます。
新型コロナウイルスの大流行により、企業のIT戦略においては引き続き、ハイブリッドクラウドやコロケーションが最も重要な位置を占めるでしょう。すでに、IT部門についてオンプレミスかクラウドかという2項対立で考える必要はなくなっています。大部分の企業は、必要な性能、柔軟性、および統制を実現するためにハイブリッド型の戦略が必須であることを理解しています。つい最近までの支配的な見方では、いずれすべてのアプリケーションやインフラ関連ニーズをパブリッククラウドが担うようになり、自社のIT部門やデータセンターの重要性は低くなると考えられていました。パブリッククラウドは引き続き成長しており、顧客に対して優れた柔軟性や機能を提供しているものの、各企業はデータセンターや自社IT部門に対する大規模な投資を継続しています。今後も、パブリッククラウドとプライベートクラウドが共存することは確実でしょう。
企業におけるクラウドインフラに関する選択肢も変化を続けています。クラウドのサービスプロバイダーは、低レイテンシーやデータ主権をも要求されるサービスを提供するために、インテリジェントエッジを対象に含めるための方法を模索しています。ここでの課題は、新型コロナウイルスの大流行により、データセンター(特にエッジにおいて)を運用するためのインフラを開発し、スタッフを維持することが難しいという点です。このため、企業のハイブリッドクラウド戦略においては、マネージドサービスを提供するデータセンターが引き続きさらにその役割を拡大すると予想されます。各企業は、ハイブリッドクラウドによるバランスが取れたサービスを高く評価するようになるでしょう。つまり、自社が所有するオンプレミスのデータセンターと同等の、インフラに対する充実した管理が実現できる一方で、ハードウェアを管理し、データセンターを構築するために必要な人員やノウハウは必要がないという利点があるのです。
本記事内で行われている予測は、情報提供およびエンターテインメントのみを目的としたものです。これらの予測はマイクロンの専門家によって行われていますが、マイクロンまたはマイクロンの顧客の市場に対する市場動向の指針となるものではありません。