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新しい曲線と新しいマインドセット:

ナガ・チャンドラセカラン | 2020年10月

新しい曲線と新しいマインドセット:サステナブルなイノベーション曲線への転換

21世紀に入ってからの20年間で、テクノロジーは飛躍的に進化し、私たちの生活様式や経験を一変させました。前世紀にはSFのように考えられていたソリューションが、私たちの想像を超えるスピードで現実のものになりつつあります。自律走行車、自己学習デバイス、精密医療など、多くの進歩が私たちを取り巻く世界の形を変えているのです。テクノロジーはより身近になり、手頃な価格で生活のあらゆる場面に組み込まれつつあります。

新型コロナウイルスと希望の兆しについて同時に語られることはほとんどありません。死者数の増加、最前線で働く医療従事者の家族のストレス、中小企業の倒産、チームメンバーのストレス、失業は、現実に起きている問題です。一方で、予想外のプラス面もありました。不可能と考えられていた問題を解決することができたのもその一例です。ワクチンは、数年もかからず数ヶ月で開発されるかもしれません。また、マイクロンの従業員の80%が、在宅で勤務できるようになりました。これには、考え方の変化だけでなく、テクノロジーやビデオ通話の変化も必要でした。買い物やエンターテイメントも自宅で楽しめるようになりました。学校教育は、オンライン授業で継続されました。完璧ではないものの、こうした変化によって、私たちは生活を続けることができるようになりました。半導体技術のソリューションは、こうした移行を成し遂げる上で重要な役割を果たしました。

私たちを取り巻くテクノロジーの進歩の大部分は、半導体業界、特にメモリテクノロジーの進歩によって実現しています。私たちが接続デバイスを利用してデータ生成量を増加させるにつれ、データのインテリジェンスを保存し生成する必要性も増加します。そしてその必要性が、メモリ需要の増加を促しているのです。

こうしたすべての需要の高まりと進歩により、半導体業界は、事業、社会、環境面でより高いレベルの責任を負っています。データセンターとクラウドの顧客は、より高速かつ低消費電力のメモリとストレージソリューションを期待しています。5G導入に向け準備をしているモバイルの顧客は、より低いコスト、低い消費電力、より大容量のストレージを求めています。自動車業界の顧客は、自律走行車向けに品質と信頼性の向上を期待しています。

半導体業界は、製品のパフォーマンス(パワーとスピード)を低コストで改善する努力を続ける一方で、こうしたイノベーションやソリューションをサステナブルな方法で実現できるかどうかという、ますます困難な課題にも直面しています。「サステナブル」という言葉は多面的で、環境保全、社会的責任、経済発展など、さまざまな側面があります。より高度なレベルでは、私は1987年のブルントラント委員会の定義を好みます。当委員会は、サステナビリティを、将来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たすこと、と定義しました。

一方で、「サステナビリティの要件を満たしながら、より低コストで製品パフォーマンスの改善を実現できるのか?」という疑問が浮かびます。サステナビリティと低コストでの製品パフォーマンスは、相容れないと見なされるかもしれません。製品パフォーマンスを改善するには、新しい機器を開発し、新しい材料を導入し、材料加工技術を進歩させなければなりません。こうした半導体の加工アプローチは、コストの上昇を招き、何よりエネルギー、温室効果ガスの排出量、廃棄量の増加を招きます。結局のところ、パフォーマンスの高速化、コストダウン、品質の向上が主な目標である場合、地球を大切にするということは、容易なことではありません。

容易なことではありません・・・でも、不可能ではありません。私たちは、テクノロジーや製品の要件を満たし、顧客に対するコスト競争力も維持しながら、マイクロンの積極的なサステナビリティ目標も達成できると考えています。こうした一見相反する課題を解決するには、考え方を(成長マインドセットに)変え、イノベーションを通じて新たなパラダイムへの扉を開く必要があります。

イノベーションに対する考え方を変える

1986年にリチャード・フォスターが提唱し、クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』という本で有名にした「S字曲線」のイノベーション思考を使って、成長マインドセットについて説明したいと思います。S字曲線は、それぞれテクノロジープラットフォーム、あるいは確立された思考プロセスを中心とした考え方やイノベーションの方法と捉えることができます(テクノロジーの曲線1)。あるS字曲線を上へ進むと、漸進的なイノベーションによって進歩がもたらされます(BからC)。しかし、ある時点でそのメリットは飽和するため(D)、パラダイムを変え、大幅な改善を実現するための抜本的な改革が必要になります。このシナリオは、変曲点と呼ばれます。最初は、新しいテクノロジーやアプローチは劣っているか(テクノロジーの曲線2)、不可能に思えます。しかし、そのポテンシャルは高く、このアプローチを受け入れる成長マインドセットが必要になります。

私たちは今、そのような変曲点に直面しています。テクノロジーの進歩は、私たちの生活様式の進化をけん引しています。このような高度な要件は、私たちのテクノロジーの開発方法にも挑んでいます。私たちは、サステナビリティという目標を達成しながら、どのようにテクノロジーの進歩を実現するかというジレンマに陥っています。このジレンマを解決するには、劇的なイノベーションが必要です。

私たちは、製品のパフォーマンス要件、コスト、サステナビリティの目標を達成するための曲線を描くことのできる機器、材料、プロセスのイノベーションを可能にする変曲点を見つけなければなりません。

例えば、ファブでの水使用量を削減することは、製品のパフォーマンスを損なう(欠陥につながる)可能性があります。それは容認できません。新しい素材や新しい機器の導入は、低コストと高性能を実現するためのスケーリングを推進するために不可欠です。このような挑戦は、私たちのエネルギー使用、温室効果ガスの排出、廃棄物の問題に影響を与えるでしょう。しかし、テクノロジーの開発プロセスにおいて現在の曲線上にとどまっていては、私たちの環境目標に達成することは難しいでしょう。組織として、私たちはサステナビリティの取り組みのひとつである紙コップやペットボトル対策を続けています。しかし、私たちが劇的な技術革新を起こせば、サステナブルな開発プロセスを実現するために水使用、廃棄物、温室効果ガス排出、エネルギーを削減するという目標を大きく前進させることができます。

サステナビリティの向上だけでなく、製品の改善を目指してイノベーションを起こすというアプローチにより、マイクロンはエネルギー、温室効果ガス排出量、廃棄物、水資源に関わる大きな課題を解決できると信じています

エネルギー使用: 携帯電話の5G、クラウドデータサーバー、新たなコンピュート要件に対応するメモリとストレージチップのスケールを拡大し、パフォーマンスを向上させるには、高速化し、電力要件を低減する必要があります。マイクロン製品の電力要件を減らすことで、顧客のエネルギーコストと炭素排出量を大幅に抑えることができます。同時に、このような要件を満たすために、私たちは常に形状を縮小し、新しい材料や機器を考案しています。このようなソリューションは、マイクロンの工場内でのエネルギー消費の増加につながりかねないため、私たちはプロセスや機器のソリューションプロバイダーと緊密に連携し、エネルギー効率を高める必要があります。このようなエネルギー効率の高いソリューションは、よりサステナブルであるだけでなく、私たちの事業でのエネルギーコストの削減にもつながります。

有害廃棄物:製造で必要になることの多い新しい材料に、ウエハーの加工に使われる高度な化学薬品やガスがありますが、それらは必ずしも環境に優しいものではありません。こうした化学物質の使用が増えると、水の再利用が制限されるだけでなく、処分しなければならない廃棄物の総量も増加します。製造施設に投資する際、有害廃棄物を適切に処理するために必要なコストは、ウエハーの総コストを必ず押し上げるのです。私たちは、常に次の2つのアプローチで活動を推進すべきです。1)ウエハー加工に必要な有害物質を減らすこと、2)廃棄物をどのように再利用し、循環経済を可能にするソリューションにつなげるかを考えること。

水資源 プロセスがより複雑化すると、水の使用量が増えます。標準的な方法では処理できない化学薬品に水が混ざった場合は、分別する必要があります。そのため、再処理コストが高くなり、水の総使用量が増えてしまいます。私たちは、水資源の削減、リサイクル、再利用に目を向けると同時に、水を補充する機会を常に模索しなければなりません。半導体機器製造メーカーと協力することで、水の総使用量の削減を推進し、水の再利用とリサイクルを可能にする先進テクノロジーを促進することができます。さらに、地表水を利用して地下水位を改善する機会を模索することができます。また、私たちが事業を行っている地域社会の節水活動に貢献する機会を探ることもできます。

温室効果ガス排出量 複雑な材料を加工するとき、私たちの二酸化炭素排出量は増加します。皮肉なことに、二酸化炭素を削減するための設備も温室効果ガスを排出するのです。ですから私たちは、環境にやさしい新しいガスや排出量を抑える方法を考えなければなりません。そして、コストを大幅に増加させることなく、それを実現しなければなりません。多くの半導体の加工工程において、加工中にかなりの量のガスや化学薬品を使う必要がありますが、最終的な結果を得るために使用される量はそのごく一部です。機器メーカーと協力して反応効率を向上させ、さらに未反応のガスや化学物質を除去する技術を進歩させるべきです。

 

経時的なパフォーマンスを示すS字曲線イノベーションのジレンマ

マインドセットの変化を浸透させる

製品パフォーマンスを向上させ、製品コストの削減のために行うことはすべて、私たちが設定したサステナビリティの目標と相反するように思われます。「このような相反する目標はずっと付きまとうだろう」と決めつけるのではなく、この2つの目標の間に調和を生み出し、その目標をまとめて達成させる方法を見出すことに挑むのです。

従来のプログラム管理では、スケジュール、スコープ、予算という3つのベクトルを使って問題を制約します。私たちの開発活動においては、これらをスケジュール、製品パフォーマンス(スコープ)、コスト(予算)と再定義することができます。これら3つのベクトルが、全体としての問題提起を制約します。私たちは今、制約の上に包括的なベクトルとして、環境に関わるサステナビリティを重ね合わせなければなりません。私たちは、顧客が要求する性能、コスト、スケジュールで製品を提供すると共に、それをサステナブルな方法で実現しなければなりません。サステナビリティは、包括的なテーマであるべきです。

エンジニアにはコスト意識があるため、ソリューションの要件に予算を組み込みます。製品要件は明確に仕様書に定義され、すべてのテクノロジーノードはパフォーマンスとコストの目標を満たすように開発されます。今後、マイクロンのエンジニアは、サステナビリティも要件に含める必要があります。新しい製造機器やプロセスを統合する際には、パフォーマンスとコスト、さらには電力使用量、水使用量、温室効果ガスの排出量、およびそれらの削減方法について考える必要があります。

このアプローチは基本的な要件として、サプライチェーンを通じて期待されるべきです。すべてが同等である場合には、サステナビリティによって勝敗が決められるべきです。このような行動や決定は、企業の社会的責任要件を満たすだけでなく、全体的な事業コストの削減と事業価値を高めることにもつながります。これが、私たちが後押しし、根付かせようとしているマインドセットの変化です。

しかし、これは集団としての協力的なマインドセットです。サステナビリティとパフォーマンスを大きく前進させるソリューションをもたらすイノベーションを特定し、実現するには、さまざまな分野(プロセス、統合、設備など)のエンジニアが一丸となる必要があります。また、マイクロンのエンジニアと開発パートナー(機器、材料、ユーティリティプロバイダー、廃棄物処理ベンダー)との強力なコラボレーションも必要です。

幸い、このようなコラボレーションはマイクロンの得意とするところです。しかし、もしそれが組織の強みでないなら、イノベーションが躍進する環境を作ることを使命にするべきでしょう。それは、ウォータークーラーのそばで始まる、その場限りの会話に端を発するものであってもいいし、コラボレーション文化を刺激し後押ししているオンライン環境で始まるものであってもいいのです。

進歩し続けること

ここ10年間で私たちは、サステナビリティを重視する姿勢へと企業文化を大きくシフトさせました。2011年、私たちは安全への取り組みを開始し、スリップや転倒にとどまらない、テクノロジー産業特有の危険である化学物質やガスの複雑な相互作用など、先端技術の安全性の問題にも踏み込みました。

このような取り組みにより、私たちの企業文化や開発マインドセット、アプローチが変化したのです。こうした変化は、テクノロジーの安全性と行動の安全性の向上につながりました。現在、ボイシのサイトおよび工場は、OSHA(米国労働安全衛生庁)が評価する際の業界基準となっています。私たちはまた、製造プロセスへのテクノロジー移転だけでなく、機器やプロセス開発にも安全性を組み込みました。各事業所にはプロセスハザード分析(PHA)グループがあり、テクノロジーチーム、施設、EHSと密接に連携しています。

私たちは、より大きく、より広く安全について考えています。今ではサステナビリティについても同様の取り組みを始めています。今後5年間で、サステナブルな事業運営をあらゆる技術開発プロセスに組み入れ、基準となるパフォーマンスを達成するための目標と解決策を策定します。

イノベーションを工場で製造することはできませんが、何ごとも不可能と見なさない環境を整えることはできます。ただ、その方法については、まだ見つけられていません。行動の変化は、マインドセットの変化によってもたらされます。サステイナビリティについて、「ああ、今度はこれもやらなければならないのか」と考えるのではなく、マインドセットの変化にワクワクしてほしいのです。

私たちにはできます。マイクロンのイノベーションとコラボレーションの文化は、サステナビリティへの渇望と熱意に支えられているのですから。だからこそマイクロンは成功します。チームメンバーは、より大きな利益に対する事業価値と重要性を理解しています。チームメンバーは、深い関心を寄せています。私たちは、単に良き企業市民でありたい、環境にやさしく配慮のある企業でありたいというだけではありません。私たちは、自らにそうあることを要求しているのです。これは、すべてのマイクロンチームメンバーに期待されている成長マインドセットです。安全でサステナブルな世界クラスのテクノロジーソリューションを提供する上で、マイクロンがその基準となる組織になることを確信しています。

SVP, Technology Development

Naga Chandrasekaran

Naga Chandrasekaran, Micron's senior vice president of Technology Development, leads device, silicon integration, process and package technology development for all memory and nonmemory products. Dr. Chandrasekaran also manages corporate characterization labs, advanced data science and AI/ML development activities for product development, mask technology and R&D fabrication operations at the Boise, Idaho, headquarters.