先日、マイクロンは、世界最先端のDRAMプロセステクノロジーを使用したメモリチップを発表しました。このプロセスは通称「1α」(1アルファ)と呼ばれています。1αが意味するもの、そしてそのパフォーマンスについてご紹介します。
半導体製造の歴史は、チップ上により多くのトランジスターやメモリセルを搭載できるように回路を微細化する道をたどってきました。60年前に初めて製造されたチップにはトランジスターなどのコンポーネントが含まれていましたが、これらは肉眼で見ることができました。現在、これらと同様のコンポーネントは直径わずか数ナノメートル(nm)です。つまり、当時の数10億分の1の大きさとなっています。
トランジスターのサイズが小さければ小さいほど切り替えが速く、消費電力も少なく、スケールメリットの恩恵により製造コストの削減を実現できます。現在世界最先端とされるマイクロンの最新テクノロジーノードにおいても同じことが言えます。このテクノロジーは性能、電力効率、製造コストを大幅に改善します。
仮に、車がこれと同じ速度で改善されたらどうなるでしょうか。時速0kmから100kmまで瞬時に速度を上げ、ほんの数滴の燃料で地球を一周することができるようになっていたでしょう。
チップを製造する過程は、控えめに言っても複雑です。最新のチップを1つ作るには1,000以上の個別プロセスと測定手順が必要となります。そして、そのすべてがほぼ完璧でなければならないのです。これらの手順は、超高純度の材料を使用し、数百もの専門企業が作成したツールと呼ばれる機械を用いて、空気中に含まれる粒子数が月面上よりも少ない巨大なクリーンルームで行われます。
この複雑さゆえ、半導体業界では次のノードへの移行のペースが似通った動きとなる傾向があります。私たちはそうした一つひとつの移行を「ノード」と呼んでおり、ノードはチップ上の最小の構造(フィーチャー)によって区別されます。たとえば、2000年代初頭のノードは180ナノメートル(nm)でしたが、およそ10年前には22nmとなりました。
ところが数年前、メモリ業界で興味深いことが起こったのです。私たちは正確な数字で表すのをやめ、1x、1y、1zという用語を使い始めました。特にDRAMでは、ノードという名称は通常、メモリセル配列の活性領域のピッチの半分の寸法、すなわち「ハーフピッチ」に相当します。1αについては、10nmクラスの第4世代と考えることができます。つまり、ハーフピッチの範囲が10nmから19nmとなります。1x nmから1y、1z、1αへと進むにつれ、この寸法は徐々に小さくなっていきます。私たちは1xから始めましたが、微細化を続け、次世代のノードに名称を付けていくうちに、ローマ字の最後のアルファベット、つまり「z」まで到達してしまいました。そこでギリシャ文字の「α」(アルファ)、「β」(ベータ)、「γ」(ガンマ)などに切り替えたのです。
半導体のサイズを例える
ここで話しているのは、いったいどのくらい小さなものなのでしょうか。
チップは直径300mmのシリコンウエハー上で一度に数百個が作られます。それぞれのチップ、または「ダイ」は指の爪ほどの大きさです。
では、1つのダイをフットボール競技場の大きさまで拡大した場合について想像してみましょう。手を伸ばして草を引き抜きます。それを半分に切り、もう半分に切り、さらに半分に切っていきます。
これが1つのトランジスター、すなわち、典型的なメモリチップ上にある80億個のうちの1ビットのストレージです。
リソグラフィの限界
驚くべきことですが、半導体業界は数十年間にわたってこのようなこと、つまり1年または2年単位でのデバイスの微細化を続けてきたのです。こうした技術について言うと、私たちは非常に優れた技術を持っています。材料の膜を原子1つ分の厚さに形成する技術もそうですし、選択的に材料を除去する材料エッチング能力は他社に引けを取りません。では現在、重要な点は何でしょうか。
おそらく最も困難な課題は、ウエハー上の回路パターンを規定することでしょう。その最初の部分がフォトリソグラフィ(石の上に光で描くこと)と呼ばれるものです。これは小さく透明にした写真フィルムに光を通して感光紙に照射するという、デジタル以前の写真現像プロセスと似ています。マイクロンの場合、バスほどの大きさの機械を使用して、フォトマスクと呼ばれる透明の四角い水晶の上に並べたパターンに深紫外線を照射しています。基本的な仕組みは写真現像と同様です。
問題は物理学に関するものです。レイリー基準、または回折限界により、使用する光の約半分に満たない波長を持つフィーチャーを投影することは不可能とされています。正確なパターンを形成できるほど鋭い光線を作り出すことは不可能だということです。マイクロンの場合、波長は193nmですので、回折限界よりずっと低い水準で行っています。物理学者が思わず顔をしかめるかもしれませんが、簡潔に言えば、10cmの絵筆で10ポイントの大きさの文字を書こうとするようなものです。
それよりも小さい13.5nmの波長の極端紫外線(EUV)を使用する新たなリソグラフィツールもありますが、いくつもの複雑な理由により、まだ本格的な実用段階には至っていないと考えています。波長が短すぎるため、光がガラスを通過せず、従来の光学レンズが機能しないというのがその理由の1つです。15年前、EUVリソグラフィは32nmノードに対応するものと考えられていました。EUVの時代は訪れるでしょうが、それはマイクロンの1αへの適切なソリューションではありません。
レイリー基準に対する裏技
私たちは数多くの技術を利用して、回折限界を克服しています。1つ目が、フォトマスク上のパターンを修正して光を「欺き」、小さく鮮明なフィーチャーを作り出すことです。この技術は現在のところ、計算リソグラフィと呼ばれており、莫大な処理能力を駆使して、ウエハーで望ましいパターンからマスクパターンを効果的にリバースエンジニアリングします。
2つ目は、水は空気ほど光を回折しないという事実を利用して、ウエハーを水中に露出させることです。これはそれほど斬新なことではありません。実際には、最終レンズとウエハー表面との間の通常のエアギャップを1滴の水と交換します。このアプローチは40nm未満の範囲まで網羅します。これは大きな改善であり、チームメンバー全員による技術的研鑽の集大成です。しかしこれで終わりではありません。
マルチパターニングのマジック
分解能に対するソリューションは、一連のノンリソグラフィ手順を追加して、最初は単一の「大きな」フィーチャーを2つ、その後はそれぞれがオリジナルサイズの4分の1となる4つのフィーチャーへと魔法のように変えることです。率直に言って、これは素晴らしい手法です。数多くの異なる取り組みが同時に行われましたが、2007年、現在マイクロンのパスファインディンググループのシニアフェローであるガーテジ・シン・サンドゥ(全社にわずか4名しかいない希少なポジションを有するひとり)の先駆的な活動のおかげで、マイクロンがダブルパターニングを使用して初めてフラッシュメモリを開発したことは特筆すべきことです。
簡潔に言うと、基本的にはステッパーを使用して犠牲フィーチャーを作り、これらのフィーチャーの側面をそれぞれ異なる材料でコーティングします。その後、オリジナルの犠牲フィーチャーを取り除くというものです。すると、ハーフサイズの2つのフィーチャーが形成されます。このプロセスを繰り返せば、1αに必要なサイズの4つのフィーチャーを得ることができます。詳細については、図をご参照ください。
リンスとリピート
これで、私たちが必要とする小さなフィーチャーを正確にパターン化することができると分かりました。しかし、大量生産は言うまでもなく、1つの完全なダイからもまだかけ離れています。私たちは、1つの層のフィーチャーの輪郭を描いただけで、それぞれのチップには何十もの層があります。非常に誇りに思うのは、新たな各層をそれ以前の層に極めて正確に合わせられる点です。私たちはこれをオーバーレイと呼んでいます。このオーバーレイを正確に行うことが、全体を機能させる鍵となります。
その後このパターンを、データの読み取りや書き込みを制御するトランジスターなどの機能回路デバイスや、1と0を表す電荷を保存することのできる背の高い細長いコンデンサーに変える必要があります。このプロセスは、材料の構成や、それらの材料の機械的、電気的属性を正確に制御し、これを毎回完全に同じ方法で行うことにほかなりません。
私たちはマイクロン独自のイノベーションを組み込むだけでなく、ベンダーパートナーの知見も活用しています。また、あらゆるところから最新かつ最良のものを取り入れています。新しい材料(より良い導体とより良い絶縁体)と新しい機器を使用して、これらの材料をデポジット、変更、選択的除去、エッチングします。この長いリストに書かれたすべてを一緒に機能させる必要があるのです。
私たちはファブと呼ばれる製造工場を、人工知能が駆動する高度に自動化された驚異の空間へと発展させてきました。前述のように、1つの最先端チップを作るには、1,000を超える手順と、ファブ内の何百キロもの移動が必要となります。そして、それらの手順の一つひとつが、完璧でなければならないのです。
半導体の製造は車の製造とは異なります。元に戻って、前のプロセスで発生した欠陥を修復することはできません。何らかの欠陥は、文字どおりその後にできた層の下に埋もれてしまうのです。成功の鍵はデータです。そしてそのデータからのインサイトです。数十万のセンサーから送られるデータが、マイクロンの10ペタバイトの製造実行システムに流し込まれます。私たちは、毎日100万以上の画像を検査システムに送り込み、ディープラーニングを活用して問題を事前に発見します。チップの製造はおそらく、人間が行う地球上で最も複雑な取り組みと言えるでしょう。
どのように達成したのか?
マイクロンのエンジニアリングチームが1αノードの立ち上げをいかに成功させ、記録的な速さで業界の最前線に立てたかを知ることには価値があります。マイクロンには数万人ものエンジニアと科学者が勤務していますが、それは全体のストーリーの一部にすぎません。
1αノードの立ち上げの成功は、技術開発、設計、製品、試験エンジニアリングの担当者から製造や品質の担当者に至るまで、関係するすべての部門におけるコラボレーション精神の証です。また、マイクロンがDRAMテクノロジーの先頭を走り続けるために常に「全員参加」の形で業務に取り組む、チームメンバーの情熱と粘り強さの証です。
私はこのチームと、自分がこのチームの一員であることを本当に誇りに思います。