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イノベーション

『デューン 砂の惑星 PART2』ミツバチのダンスとSSD? 

ラフル・ジャイラジ | 2024年11月

先月私は、顧客との四半期ごとのテクニカルレビュー(QTR)のためにアジアへ向かう飛行機に乗っていました。このQTRでは、私たちが取り組んできたテクノロジートレンド、製品戦略、イノベーションプロジェクトの調整を行います。太平洋上空のどこかで、私はSSDパフォーマンスのトレンドをぼんやりと見直しながら、増え続ける製品仕様のニーズとは一体何なのか、考えずにはいられませんでした。背景として、SSDパフォーマンス(シーケンシャル読み取り)は2~3年ごとにほぼ倍増しています。現在、市場に出ているコンシューマー向けドライブではPCIe®Gen5バスが飽和状態にあり、シーケンシャル読込性能で14GB/秒という驚異的な数値に達しています。
 

MicronクライアントSSDのパフォーマンストレンドチャート


私は、既存のPCアプリケーションやユースケースのうち、どれがこのような高性能を必要としているのかを突き止めようとしていました。答えは簡単で、現時点ではそのようなケースはほとんど存在しません。どうやら私たちは、まだ広く普及していないアプリケーションのためにSSDをオーバースペックにしているようなのです。圧倒的多数のPCユーザーにとって、日常的な利用においてこのようなSSDのパフォーマンスを必要とする場面は、まずないと言えるでしょう。
 

いかにして『デューン 砂の惑星 PART2』がSSDパフォーマンストレンドを把握するのに役立ったか


この考えを頭の中で巡らせながら、私はノートパソコンを閉じました。眠ることができなかったので、お気に入りの映画の1つであるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の傑作、『デューン 砂の惑星 PART2』を見ることにしました。私がこの映画を見るのはおそらく4回目です。

視覚効果抜群のシーンが見事に展開するのを目の前に、私は、フランク・ハーバートの小説を実写化するにあたり、監督が壮大なビジョンを描いていたことに感嘆せずにはいられませんでした。この小説は1965年に出版され、たちまち不朽の名作となりました。この壮大な物語を映画館の大きなスクリーンで描き出そうという試みはこれまでに何度かありましたが、どれも精彩に欠けるものでした。その主な理由のひとつに、過去のテクノロジーではこのような複雑にからみあうテーマのひとつひとつを詳細にかつ美しく視覚化することができなかったことが挙げられます。しかし、今はそれが可能です。

その時ふと、私は気づいたのです。さまざまな分野のイノベーションが集約してテクノロジーとなり確固たる進歩を遂げる、ということがかなわなかったのであれば、この映画の制作は実現しなかったであろう、と。 この気づきによって、私は最初の質問自体を再考せざるを得なくなりました。既存のPCアプリケーションのうち、マイクロンの高性能SSDが必要なのはどれかを問うのではなく、「このような高い性能が役に立つ未来のアプリケーションとは何か?」という問いを立てるべきなのです。このように考えると、現在を懐疑的に見るのではなく、未来をより楽観的に見ることができるようになります。

ここから私は、自然と次の考えに導かれました。ミツバチのダンスです。きちんと説明しますので、もう少々お付き合いください。
 

ミツバチのダンスが私たちに教えてくれるイノベーションの必要性
 

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私は最近、非常に興味深いミツバチの行動について知りました。それはミツバチのダンスです。単独で行動するミツバチは、新しい蜜源を発見すると「一直線に」巣に戻り、この驚異的なダンスを踊って、蜂群の仲間に蜜源までの正確な方向と距離を伝えます。

一方で、科学者たちが興味をもって観察したのはそれとは別の行動であり、サイエンス誌でこの最新研究は発表されました。研究によると、約80%のミツバチは案内に従いまっすぐ蜜源に向かいますが、残りの20%は、実に理解しがたい行動を取ります。案内に従うのではなく、ダンスでは伝えられていない道筋をたどうのです。一見異常とも思える行動を取ることで、この型破りなミツバチたちは、さらに新たな蜜源を発見しているということがわかりました。この行動は、主な食糧源が枯渇したり破壊されたりした場合であっても、蜂群が確実に生き残れるという意味で進化上の大きな利点があることから、理にかなっています。別の道を選んで蜜を探し求めた蜂の群れは繁栄しましたが、そうでない群れは当然ながら滅びました。

この小さなミツバチから、私たちは以下のような教訓を得ることができます。未知の領域の探求とイノベーションは、単にあった方が良いというものではなく、なくてはならないものです。幸いなことに、マイクロンでは革新が積極的に推進されています。これまでに、米国で57,000件以上の特許を取得しており、その数は今後も増え続けることでしょう。このように、イノベーションは、マイクロンの企業文化において欠かせない要素となっています。

ハードウェアとソフトウェアの間には、常に以下のような循環的な関係があります。ハードウェアの分野で目覚ましい進歩があっても、当初はその活用方法が明確でないことが多くあります。しかし、時間が経つにつれて、そのハードウェアを活用できるソフトウェアが登場し、やがてそのソフトウェアの進化がハードウェアの能力を追い越すようになります。そうなると、今度はハードウェアの進化が追いつくための革新が必要となります。この流れで重要となるのは、常に「現在必要とされていること」や「実現可能なこと」を超えて未来を見据える姿勢です。

これはまさに、私たちがSSDの設計において常に念頭に置いていることです。クライアントSSDのようなコモディティ化の進んだ分野では、顧客の仕様通りに製品を作り、他社と同じような製品を作ることは比較的容易です。しかし、差別化された製品を作るには、多くの勇気と、そして何よりもイノベーションを重視する企業文化が必要です。先日は、クライアントSSD事業担当ゼネラルマネージャーであるプラサド・アルリが、マイクロンにおけるAI PCのためのストレージイノベーションの推進についてのブログ記事を書いています。

こうした進歩の他にも、常に私たちが開拓し、試作品を作り、実験を繰り返している多くのアイデアがあります。それらの結果については、必ずまた記事にして皆さんと共有したいと思います。こうしたアイデアの中には日の目を見ることのないものもあれば、まだ発見されていない蜜源へと導いてくれるものもあるはずです。

 

DIRECTOR, TPM - CLIENT

Rahul Jairaj

Rahul Mitchell Jairaj is the Director of Technical Product Managment for Micron's Client SSD Business Unit. He has spent his career working on NAND flash storage at Micron from components engineering to SSD product management. He holds a Masters degree in Semiconductor Device Physics from Clemson University and a bachelor's in electrical engineering. Outside work, Rahul is passionate about collecting fossils and amateur microscopy.