現代の自動車はますます「車輪のついたデータセンター」と化し、高度な機能とコンピューティングアーキテクチャーにおけるイノベーションによって、日々この呼び名に近付いています。例えば、コネクテッドカーは現在、約1億行ものコードをもつ最も複雑なソフトウェア駆動マシンであり、自動車におけるAIの台頭によって、この数は近い将来10億行に拡大すると考えられています。しかし問題は、現在の既存の自動車用アーキテクチャーが、この爆発的なデータ量を支えるための拡張性を備えていないことです。自動車は進化する必要があり、ストレージも付随して進化する必要があります。では、それには何が必要なのでしょうか?
集中型アーキテクチャーへの移行
現在の自動車は、従来のドメイン分散型アーキテクチャーから、設計を簡素化するために意思決定を一元化したドメインアーキテクチャーやゾーンアーキテクチャーに移行しつつあります。実際、マッキンゼーは2030年までに、ゾーンアーキテクチャーを採用した自動車の世界シェアが約18%に到達し、その先も伸び続けると予測しています。
既存のドメインアプローチでは、システムは車載インフォテインメント(IVI)、コネクティビティ、パワートレインなど、車内の各機能でグループ化されています。このシステムはかつては持続可能でしたが、自動車が複雑化するにつれ、センサー、カメラ、電子部品の数が指数関数的に増加し、中には最大150個の電子制御ユニット(ECU)を搭載するもあります。これにより、より複雑で重い配線が必要となり、コストと重量を増やしています。
ゾーンアーキテクチャーは、システムやデバイスを制御するECUの近くの物理的なゾーンに効率的にグループ化することで、電子部品の接続方法を簡素化します。これらのゾーンのローカルコントローラは、データセンターサーバーのような中央の高性能コンピュータークラスターに接続され、プレミアムカーでは最大4つのシステムオンチップ(SoC)のクラスターを使用します。開発中の新型車の多くは、すでにこの集中型アーキテクチャの採用を予定しています。しかし、現在の車載ストレージソリューションは、最適なシステム効率を実現する、多数のSoCを支えるほど進化していません。
これらのことから、私たちは車載ストレージの新たな規範となるMicron 4150AT SSDを発表できることを誇りに思っています。4150ATは、データセンターで一般的に利用されるデュアルポート機能を超えた、あらゆるエンドマーケットで初となる4ポートを提供し、シングルルート入出力仮想化(SR-IOV)の性能と組み合わせた初めてのSSDです。これらの画期的な機能は、集中化とよりスマートで安全な自動車に向けた業界の変化を推進します。その方法と理由を理解するために、ボンネットの中を覗いてみましょう。
インテリジェント車の新時代に向けて構築されたドライブ
マルチポートSSDとSR-IOVテクノロジーの融合は、データ分離とデータ共有を同時に管理する強力なソリューションを提供します。4150ATの各ポートはSoCに接続することができ、最大16台の仮想マシン(VM)をサポートできるため、データアクセスのきめ細かい制御が可能になります。
4150ATのクアッドポートは複数の独立したデータパスを提供し、ホストシステムと同時通信を可能にします。これらのポートは異なるVMまたはワークロードに割り当てられ、データトラフィックの厳密な分離を保証します。レイテンシーの影響を受けやすいアプリケーションでも、高スループットのワークロードでも、マルチポートSSDは柔軟性を提供し、インサイトの時間を短縮します。
一方で、4150AT SSDはSR-IOVによって何十ものVMを支えることができます。現在の主力SoCのマルチタスクに対する仮想化の使用が増加していることから、これは極めて重要です。特に注目したいのは、それぞれのVMがデータのプールを他のVMと共有しながら、データを保存しアクセスするための独自の分離されたストレージ領域(またはネームスペース)を有する点です。システムアーキテクトは選択的にポートを割り当てられるため、重要なデータが分離されていることを確認しつつ、必要に応じて効率的なデータ共有が可能になります。個人の名前空間とSR-IOVを組み合わせることで、名前空間に接続された仮想マシンまたはホストのみがデータにアクセスできるようになり、重要なデータのプライバシーとセキュリティが維持されます。クラウド環境やエッジコンピューティング、データセンターのいずれにおいても、このアプローチは正確なストレージ管理を推進します。
また、マイクロンでは4150ATを設計するにあたってセキュリティを最優先に考え、ハードウェアベースのデータ暗号化、デバイス認証、セキュアブート、暗号化署名されたファームウェアなど、デバイスレベルの最新保護機能を備えた製品を構築しました。
現在の最新自動車に対するアーキテクチャーの効率性推進
では、これらすべてはどのように集中型アーキテクチャーを実現するのでしょうか? 既存のストレージソリューションは一般的に単一のSoCにしか接続できないので、そのストレージデバイスの容量はそのドメインや機能(例えばIVI、ADAS、コネクティビティ)でしか利用できません。一部の状況下において、例えば512ギガバイトから1テラバイトのように、使用可能な次の容量に倍増しなくてもいいよう、コードをフットプリントに収めるために、多大な時間とエネルギーを費やし、妥協を許すことになります。またその他の状況下でも、IVIのようなある機能のストレージデバイスに、別のSoCによってADASやコネクティビティのような機能に使用できたはずの未使用の容量がある場合があります。最大4つのストレージデバイスを置き換えることで、私たちの4150AT SSDは、アーキテクチャーを最適化しつつ、効率、総所有コスト、ギガバイトあたりのコストを劇的に改善します。
SOC間でストレージを共有する別のアプローチでは、ストレージドライブを複数のSoCに接続するため、高コストの車載グレードPCIeスイッチに依存しています。ほとんどの場合、これらは多くの電力を消費し、貴重な基盤面積を占有します。4150ATのマルチポート機能は、スイッチの必要性を排除し、自動車メーカーに車両設計の柔軟性をもたらすと同時に、設計上の熱と消費電力を削減します。
複数のSoCを接続できる4150ATの能力により、データの冗長性コピーを維持する必要性も軽減します。例えば、ある1つの都市のナビゲーションデータだけで最大100ギガバイトになり、ADASとIVIシステムの両方で共有されることがよく起こります。ここで既存のアプローチだと、各SoCに連動する車内のローカルストレージで、このデータを少なくとも2回保存する必要があります。それを何都市分も掛け合わせると何百ギガもの不要なストレージとなり、費用の損失と無駄なスペースと情報を生んでしまいます。4150ATでは、このようなことは起こりません。
少しずつでも地球を救う
ここまでで、私たちの最新の自動車用SSDがもたらす革命的なメリットは明らかになりました。しかし、私たちがさらに期待しているのは、集中型アーキテクチャーへの移行から得られるマクロ的なメリットです。Vicor Powerの調査によると、配線の簡素化による軽量化によって、ゾーンアーキテクチャーは従来のアーキテクチャーと比較して、電気自動車の航続距離を年間最大4,000マイル伸ばすことができる一方で、車両重量を最大40ポンド減らせるそうです。燃料自動車にとって、これは燃費向上(ドライバーにとってはガソリン代の節約)を意味し、地球温暖化が加速する中で二酸化炭素排出量の削減に役立ちます。気候変動が深刻化する今、エネルギーの節約は重要視されています。私たちは、業界のエコシステムが4150ATをアーキテクチャーにどう活用し、より軽量でより最新の、環境に優しい自動車を製造するのか楽しみにしています。
新時代に向けた将来性のある車両
新たな問題には新たなソリューションが必要です。だからこそ、私たちは世界初のクアッドポートSSDであるMicron 4150ATを提供すべく、自動車用ストレージをゼロから考え直しました。このマルチポートとSR-IOV仮想化は、業界のエコシステムにかつてないレベルの柔軟性と性能をもたらし、未来の車両における生成AIと完全自律走行の普遍性向上と連動する形でのみ量と高度性が増す自動車データワークロードの複雑化に、ようやく対応できるようになります。集中型アーキテクチャーを可能にすることによって、私たちのSSDが自動車エコシステムを強化し、スケーラブルで持続可能な方法で、これらの破壊的技術に対応する自動車の将来性を向上します。4150ATは、自動車メーカーの道具箱の中でも、小さくも強力な構成要素に過ぎません。そのため、業界のエコシステムが未来の自動車を一から考え、再設計するためにこれをどのように使用するかという点で、可能性は無限にあります。私たちは、期待が膨らむ変革のスタート地点に立ったばかりです。そして、よく言われるように、重要なのは目的地ではなく道のりなのです。