科学の飛躍的な進歩について考えるとき、巨大な望遠鏡や粒子加速器、高度なAIモデルを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、こうした進歩を可能にする陰のヒーローがいます。それがメモリとストレージテクノロジーです。マイクロンは、今年のSupercomputing Conference(SC24)で、メモリとストレージのイノベーションが科学的発見の可能性を根本的に変えていることを示しました。
素粒子物理学におけるメモリとストレージのボトルネックに対処
CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、通常陽子を衝突させますが、年に一回程度、「重イオン」を数週間衝突させるように切り替わります。LHCは最近、この「データ取得モード」に切り替えられ、それぞれ208個の核子を含む鉛イオンの衝突を再開しました。この衝突は、非常に初期の宇宙の状態を模倣する、粒子が高温・高密度の状態で液体的性質を示すクォークグルーオンプラズマを作り出します。
LHCのCompact Muon Solenoid(CMS)実験では、衝突によって生成された粒子を測定します。通常の陽子と陽子の衝突では、CMSは通常、約10GB/秒でデータを収集します。しかし、重イオンの衝突では、データ収集が持続的に30GB/秒に増加します。この高速データ収集を支えるため、CERNは最近、多数のMicron 7500 SSDを導入しました。
CERNはこれと並行して、より高度なイベント選択アルゴリズムに対応し、新しい検出器診断、輝度測定、他の方法ではアクセスできない物理的な特徴の研究を可能にするために、マイクロンのCXLベースのメモリ拡張モジュールの使用を検討しています。
マイクロンとCMS実験のコラボレーションは、CERN Openlabによって推進されています。CERN Openlabは、世界中の主要なICT企業と研究センターとの間で協力関係を構築し、これらの企業と研究センターをCERNの科学イノベーションの最前線に結集することを目的とした独自の官民パートナーシップです。
計算化学の障壁を取り除く
素粒子物理学がスピードを要求するのに対し、計算化学はスピードと精度の両方を必要とします。従来、複雑な分子シミュレーションを実行するには数百万ドルのスーパーコンピューターを利用する必要があったため、この研究は多くの科学者にとって手の届かないものでした。Pacific Northwest National Laboratory(PNNL)、Microsoftとの画期的なコラボレーションを通じて、マイクロンはこうした固定観念を書き換えています。
マイクロンの最新のメモリアーキテクチャーをMicrosoftのクラウドインフラストラクチャとPNNLの科学的専門知識と組み合わせることで、研究者は標準的なクラウドコンピューティングプラットフォーム上で高度な分子モデリングと化学分析を行うことができます。この計算化学の民主化は、創薬、材料科学、クリーンエネルギー研究など、これまでシミュレーションコストによってイノベーションが制限されていた分野を促進する可能性があります。
研究者や開発者のAI環境対応を支援
AI環境の管理は困難です。環境は急速に変化しているため、AIを専門としている人でも追いつくのが難しい状況です。進行している独自の研究分野に取り組みつつも、AIのメリットを活用したいと考えている研究者にとっての課題を想像してみてください。Barcelona Supercomputing Centerの研究者グループは、この問題を認識し、その課題に真剣に取り組みました。
研究者グループはマイクロンと連携し、オープンソースプラットフォームであるFAiNDERを開発しました。FAiNDERは、研究者や開発者が急速に発展するAI環境に対応する方法を変革することを目的に設計されています。このプラットフォームは、すべての主要なAIモデルの重要なシステム要件に関する最新情報を一元化して提供することで、探索を容易にし、特に効率的な実行に必要なメモリリソースに関してハードウェアの選択を最適化します。
革新的なメモリテクノロジーによる科学計算の再構築
マイクロンは、SC24において、科学計算の形を間違いなく変化させる画期的なメモリに関するイノベーションを2つ紹介しました。
1つ目が、CXL™(Compute Express Link)テクノロジーとマイクロンのオープンソースのファブリックアタッチメモリファイルシステム(FAM-FS)です。この強力な組み合わせは、科学計算システムがメモリを処理する方法に根本的な変化をもたらします。クラウドコンピューティングが処理能力の割り当てに変革をもたらしたように、この画期的なイノベーションによって、研究者は処理能力の影響を受けることなく、メモリリソースを動的に拡張できるようになります。初期のテストでは、このアプローチによって、これまで不可能だった大規模な科学データセットの分析が可能になると同時に、インフラストラクチャのコストを削減できることが示されました。ゲノミクスや気候モデリングなど、メモリの制約によって研究範囲の妥協を余儀なくされることが多い分野では、このテクノロジーが包括的で大規模な研究の新たな可能性を開きます。
2つ目が、受賞歴のあるマイクロンのMRDIMMテクノロジーです。このテクノロジーは、数値流体力学(CFD)シミュレーションにおいて画期的な成果を上げました。デモンストレーションでは、数十億のメッシュポイントを持つ複雑な乱流をリアルタイムにモデル化するという、これまでにない能力が示されました。この画期的なイノベーションは、航空宇宙設計、気象予測、クリーンエネルギー研究の分野に即座に適用可能です。この規模で流体力学を理解することで、イノベーションを促すだけでなく、予測精度を桁違いに、また従来のシステムでは通常数週間の処理を必要とする詳細なレベルでも向上させることができます。
科学的発見の未来を形作る
SC24で紹介された進歩は、重要な現実を明確に示しています。それは、メモリとストレージテクノロジーは科学の進歩を支えているだけでなく、現代の研究で実現可能なことを積極的に形作っているということです。素粒子物理学データのリアルタイム分析から計算化学の利用の民主化まで、これらのイノベーションは科学的発見における長年の障壁を取り除いています。
将来に目を向けると、メモリおよびストレージテクノロジーと科学研究とのパートナーシップは、ますます重要になっていくでしょう。気候モデリングであれ、創薬であれ、人工知能であれ、飛躍的な進歩の次なる波は、優秀な科学者や強力なアルゴリズムだけでなく、現代の科学が生成する膨大なデータセットにアクセスし、これを保存および処理する方法の継続的な革新にもかかっています。
メモリとストレージテクノロジーの静かな変革は、量子コンピューターや核融合炉のように見出しを飾ることはないかもしれませんが、私たちが世界を探求し、理解する方法に根本的な変化をもたらしています。こうしたテクノロジーが進化するにつれて、科学的発見の新たな分野が切り開かれ、不可能が可能となり、高価なものを利用できるようになるに違いありません。科学の未来は、単に新しいデータを生成することではありません。そのデータを人類の最大の課題を解決するのに役立つ知識に変換することです。