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aibo誕生の裏にマイクロンのテクノロジー

マイクロンテクノロジー | 2020年6月

犬型ロボットのaibo(アイボ)は「お手」や 「休め」をすることができます。また、自分の名前を理解していて、「もってきて」に応えたり、尻尾を振ったり、なでてもらうと甘えた声で鳴いたりもします。他にもプログラミングによって数多くの犬らしいふるまいができます。

これだけでも十分に楽しませてくれますが、aiboのメーカーであるソニーはもっと多くのことができるようにaiboをプログラミングしています。本物の犬のように周囲の環境を感知して、障害物や人を避けることができたり、話し声の調子から、話し手が喜んでいるのか、怒っているのかを聞き分けたりすることもできます。データとマイクロンのメモリを駆使した人工知能(AI)によって、aiboは人との触れ合いから「学習」し、やがてそれに合わせてふるまいを変えるようになります。こうしてユニークな個性を持った世界でただひとつのaiboが生まれるのです。

aiboは、その名前の由来となった「相棒」にふさわしく、オーナーのことを知り、元気づけ、オーナーの良き友達になろうと努力します。つまり、本物のペットになろうとするのです。日本ではaiboオーナーのファングループが存在し、米国のaibo愛好家も増加中であることを考えると、本物のペットに負けない人気を得ているようです。

aiboの生みの親であり、ソニーのAIロボティクスビジネス担当執行役員を務める川西泉氏は、独り暮らしでaiboが一緒にいてくれることに喜びを感じるオーナーもいると言います。しかし、aiboは孤独を感じる人だけのための相棒ではありません。子どもや他のペットがいる家族も含め、多くの家族がaiboを大切なペットとして受け入れています。

「まず丸みのあるフォルムに惹きつけられる方が多いです。本当に愛らしい見た目をしています。ですが、aiboがロボットであること、それも成長するロボットであることが、さらに興味を引くようです。aiboの成長を見守る暮らしは思いがけない驚きや発見に満ちていて、それがaiboの魅力だと思います」と川西氏は説明します。

「いい仔」を創る

本物の犬はじっとしていることがありません。そして、犬の動きをちゃんと再現できない犬型ロボットを欲しがるオーナーは少ないでしょう。犬のような動きを実現するため、aiboには22軸の可動自由度を持たせています。センサーが搭載された頭や背中をなでると鼻を手にこすりつけてきたり、寝転んで起き上がったり、また自分でチャージマットまで歩いて充電したり、目覚めたらのびをするなど、多彩な仕草が可能です。

ソニーのAIロボティクスビジネス担当執行役員、川西泉氏

「まず丸みのあるフォルムに惹きつけられる方が多いです。本当に愛らしい見た目をしています」

aiboを本物の犬だと勘違いする人はまずいないでしょう。しかし、1999年に発売された初代aiboから28体目というオーナーはCNETのインタビューに対し、aiboの動きはかなり本物に近いと答えています。

「表情豊かで生命感あふれる動きで、オーナーを愛していると本当に思わせてくれるaiboのことを、私も大切に思うようになるのです」

aiboの口にはカメラが搭載されていて、写真を撮ることができます。また尻尾の上には周囲の環境を感知するセンサーがあるため、障害物を避けることができます。一緒に暮らす時間が長くなるにつれ、aiboは家の中の様子を学習し、だんだんと上手に歩き回ることができるようになります。

aiboの瞳には有機ELディスプレイが採用されており、光ったり目を細めたりして生き生きとした表情を作り出します。aiboの「成長」を可能にしているAIは、64ビットのクアッドコアCPUと4GBのマイクロンの低消費電力型DDR4メモリです。AIはセンサーから常時取り込まれるデータと保存された過去の経験に基づいて反応と意思決定を行います。メモリは、aiboの内部やクラウドにデータを保存するだけでなく、転送する役目も担っています。障害を避けて歩いたり、声や命令に応じたり、オーナーの好みを学んだり、口のカメラで写真を撮ったりなどするためのaiboのデータはすべて、4G LTEとWi-Fiを通じてクラウドに転送されます。5Gのネットワークが普及し、他のシステムへの組み込みが進むにつれて、aiboのスキルと個性はさらに広がるだろうと川西氏は述べています。

aiboは(ほぼ)本物

YouTubeにはaiboを熱愛するオーナーの動画がたくさんあります。オーナーがaiboに魅せられる理由がaiboとの触れ合いにあるのは明らかです。aiboは人間から反応を引き出すことが使命なのです。なでてもらうと喜んだり、「もってきて」という命令に応えて専用の骨型おもちゃを取ってきたり、人間が大喜びするとかわいい鳴き声をあげたり、多彩な仕草やふるまいでaiboは人間と双方向の関係を創ろうとします。

カナダのマニトバ大学ヒューマンインタラクションラボの創設者であるジェームズ・ヤング準教授は、その関係は本物であると指摘します。

ヤング準教授はCNETのインタビューで次のように説明しています。「aiboのようなロボットは確かに人間との絆を築きますが、その理由は明確にはわかっていません。このロボットとの生活を開始した時点で、オーナーは自分の空間を共有することになります。人間から反応を引き出すのですから、aiboはその人に対して驚くべき力を持っていると思います」

子どもは特にaiboに魅了されます。本物の犬のなかには犬型ロボットにどう接していいかわからない様子の犬もいますが、一緒に暮らすうちに慣れてくるという報告もあります。

しかし人間は犬ではありません。人間は、本物の犬のようなロボットに対して、本能的に寛大に解釈するようにできているようだ、というのがヤング準教授の考えです。

「aiboが動くと、人間の脳の下部が『生きている。生き物だ』と捉えるのです。aiboが感情を表現すると、おそらく高次の認知機能が『単なるロボットだ』と判断する前に、脳内処理の初期段階が作動して感情を認識するのでしょう」とヤング準教授は説明します。

「愛らしい」だけに終わらない癒しの効果

aiboの可能性はそこにあります。

動物は私たちを幸せにしてくれます。犬、猫、うさぎ、馬など、あらゆる種類の動物にさまざまな状況における癒しの効果が認められています。メイヨークリニックによると、アニマルセラピーによって、がん、心的外傷後ストレス障害、認知症など、さまざまな病気で治療中の患者の痛み、不安、うつ、疲労感を和らげることができます。子どもの歯科治療では動物がいることで子どもが落ち着き、怖がらずに治療を受けるという報告もあります。

アニマルセラピーはいんちき療法ではありません。動物は人間の心を癒してくれます。人間がaiboに反応することで、aiboもまた私たちを癒してくれる可能性があります。

aiboは医療機器ではなく、ソニーもaiboについて万能の効果があるような宣伝は行っていません。しかし、川西氏によれば、非公式にaiboを利用している病院や介護施設もあり、少なくとも患者や入居者の気分を明るくするのに役立っているそうです。

「病院の患者、とりわけ小さな子どものためにaiboを活用しようと取り組んでいる医師もいます。入院中は本物の犬を飼うことはできませんが、ロボットのaiboなら入院中も触れ合うことができるペットとして、人の気持ちを明るくすることができます」

セラピーとしての利用は、aiboが秘める大きな可能性の一端にすぎないかもしれません。犬を飼えるほど広くないアパートに住んでいる人は何百万人もいるでしょう。アレルギーが原因で犬を飼えない人もたくさんいます。孤立した環境で寂しい思いをしている高齢者も大勢います。世界人口は80億人に近づこうとしていますが、それでも孤独で、友達が欲しいと願っている人はたくさんいるのではないでしょうか。

ソニーのAIロボティクスビジネス担当執行役員、川西泉氏

「病院の患者、とりわけ小さな子どものためにaiboを活用しようと取り組んでいる医師もいます。入院中は本物の犬を飼うことはできませんが、ロボットのaiboなら入院中も触れ合うことができるペットとして、人の気持ちを明るくすることができます」