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私たちは、AIが日常に溶け込んだ世界で暮らしています。顔認識、リアルタイム翻訳、そして万能なバーチャルアシスタントはもはや珍しい技術ではなく、当たり前に求められる存在となっています。AIは私たちの日常生活を根本から変えています。特にモバイル分野では、自動化を後押しする動きが加速しています。AI対応スマートフォンの出荷台数は、2028年までに9億1200万台に達すると予測されています1。これは、2023年の出荷台数5050万台から、年平均成長率(CAGR)78.4%という驚異的な伸びを示す見通しです2。また、生成AI対応スマートフォンは2028年には総出荷台数の54%を超え、世界中のインストールベースは10億台を突破すると見込まれています1。
エッジにおけるより自動化と知能化への消費者需要の高まりが、AI対応スマートフォンの普及を後押ししています。これにより、エッジAIは次世代モバイルエクスペリエンスを実現するうえで欠かせない存在となっています。AIをデバイス上で動かせば、常時接続やクラウドなどの集中型サーバーへの依存を減らし、応答速度の向上と安全なデータ処理を可能にします。AIへの期待が高まっている一方で、現行のハードウェア性能はその進化に追いつけていません。
高度な処理効率を推進するAI
AI中心の経済では、データがあらゆるインサイトや予測、意思決定の原動力となっています。高度なアルゴリズムや大規模モデルがもつ能力は、取り込まれたデータの品質、量、アクセシビリティに依存しています。
大規模言語モデル(LLM)には膨大で複雑なデータ入力が不可欠であり、その処理に多大な計算リソースが必要となります。これらのモデルをデバイス上で直接実行するオンデバイスAIには、高負荷のワークロード処理に対応できる高性能のハードウェアが求められます。ユーザーの期待に応える高速パフォーマンス、スムーズなアプリ切り替え、素早いロード時間、より長いバッテリー駆動時間を実現するには、モバイルデバイスはクラウドに依存することなくリアルタイムでAI処理ができなくてはなりません。メモリはデータと計算を結びつける重要な役割を担い、プロセッサーは瞬時に大量のデータセットにアクセスし操作できるようになります。このような応答性は、メモリの処理能力に依存しています。しかし、AI処理や高解像度の動画撮影のようなタスクは莫大な電力を消費します。どんな進歩にも代償が伴いますが、この場合は高い応答性を実現する代わりにバッテリーの消耗が増えてしまいます。この理由から、AIが求める速度を実現し、かつエネルギーを節約するには、省電力メモリまたは低消費電力DRAM(LPDRAM)が不可欠となります。
低電圧でさらなるパフォーマンスを実現
これまでの複数世代にわたるLPDDR(低消費電力ダブルデータレート)メモリでは、業界全体で電圧スケーリングの限界に挑む取り組みが進められてきました。電圧と電流の積が電力であることから、供給電圧の低下は直接的に消費電力の削減につながります。電力消費が大きい高速メモリシステムでは、わずかな電圧低下でも大きなエネルギーを節約できます。
より高い帯域幅と優れた電力効率を有するモバイルDRAM世代のLPDDR5Xは、従来の一元化されたVDD2レールを、VDD2H(VDD2の高電圧ドメイン)とVDD2L(VDD2の低電圧ドメイン)の2つの独立したドメインに再構成することで、この進歩を実証しています。この分割によって、さまざまなパフォーマンス要件に合わせたより正確な電圧制御が可能になりました。
このアーキテクチャーを最大限活用するには、DVFSC(動的電圧・周波数スケーリング制御)やeDVFSC(強化型DVFSC)のような技術が不可欠です。これらの技術は、ワークロード需要に応じて電圧および周波数を動的に調整し、低速タスク時にVDD2Hの動作電圧を下げることで、消費電力を抑え、バッテリー持続時間を延ばします。
メモリバンクやコアロジックのような高性能コンポーネントは、速度と応答性維持のために、VDD2HやVDD1などの高電圧レールから継続的に電力供給を受けています。これに対し、周辺回路やI/O機能はVDD2LやVDDQなどの低電圧レールで動作し、低負荷タスクの電力消費を削減します。
低電圧VDD2Hにおけるマイクロンのイノベーション
VDD2HとVDD2Lの分割は、電源供給における柔軟性と効率性を新たなレベルに引き上げることで、極めて重要な進歩を示しました。エンジニアは、本来のVDD2レールからフル電圧を必要としないコンポーネントを特定することで、低周波動作時にシステムをVDD2Lで動作させることに成功し、応答性を損なうことなく消費電力を削減しました。
しかし、革新はそこで終わりませんでした。マイクロンのエンジニアは、VDD2Hから電力供給を受けていたコンポーネントでも、より低い閾値電圧を許容できることを発見しました。これにより、精密に調整されたVDD2Hの低電圧版である低VDD2H(LVDD2H)が誕生したのです。VDD2Hを動作可能な最低電圧レベルにまで引き下げることで、LVDD2Hモードは、すでにVDD2Lの分割によって得られている省電力効果に加え、さらなる節電を実現します。
特に高速動作モードにおいて、VDD2Hの電圧を下げることには、いくつかの重要なメリットがあります。
- 動的および静的消費電力を減らし、エネルギーの全体消費量を削減する。
- 電力の低下は熱の発生抑制につながるため、熱性能が向上する。
- 効率性が極めて重要となるモバイルおよび組み込みシステムにおいてバッテリー寿命が延びる。
LVDD2H動作モード
広範なテストと特性評価を通じて、マイクロンのエンジニアはLVDD2Hの2つの主要な動作モードである公称モードと最小モードを定義しました。
通常モードでは、エコシステムとの整合性に合わせて、8.533~10.7Gbpsのデータレートでは電圧レベルを1.05Vに維持し、7.5Gbps未満では電圧を下げています。最小モードでは、全てのデータレートでLVDD2Hの電圧を下げることができます。
LVDD2Hが可能にする消費電力の削減
マイクロンの社内テストでは、LVDD2Hの有意性が人工知能のマークアップ言語(AIML)および使用日数(DoU)の2つの主要なユースケースを通じて示されています3。AIMLワークロードにおいては、VDD2Hを1.060Vから0.98Vに下げることで、平均で最大8%の消費電力削減を実現しました4。電圧低減は12種類の異なるAIモデルで検証され、いずれも顕著な省電力効果が確認されました。LLMのなかでは、Llama 2-13bで最大12%の電力節約効果が示されました。これらの消費電力削減は、音声アシスタント、写真処理、自動修正、チャットボットといったAI搭載機能におけるエンドユーザーエクスペリエンスを直接的に向上します。DoUシナリオでは、8つの異なるユースケースにおいて電圧低下により平均5%の省電力効果が得られました。DoUユースケースは、モバイルを使って一日を通して行われる一般的なユーザー活動(Facebook上のチャット、音楽の再生、ウェブ閲覧、動画視聴など)を網羅しています。
今後の展望
電圧の低下は消費電力を直接的に削減し、ユーザーが日常的に実感できる形でバッテリー寿命を延ばします。テクノロジーがかつてない速度で進化するなか、高度なメモリソリューションは進化の対応に不可欠です。マイクロンは、エンドユーザーが実感できるプラスの効果を作り出すために、設計段階から電力効率とパフォーマンスの最大化を追求し、エネルギー効率の高いDRAMの業界基準を確立しています。私たちは、エコシステムパートナーと密接に協力することで、連携したイノベーションと業界全体の発展を支援し、データの未来を構築しています。私たちは、イノベーションと卓越性の追求を惜しまず、常に一歩先を行くことで、次世代の体験を創出するソリューションを提供し続けています。
1. Counterpoint Research. The Ecosystem Driving AI’s Democratization in Smartphones.(スマートフォンでAIの民主化を促進するエコシステム。) 2025年1月10日発行。https://www.counterpointresearch.com/insight/post-insight-research-notes-blogs-the-ecosystem-driving-ais-democratization-in-smartphones/
2. IDC. Worldwide Generative AI Smartphone Forecast, 2024-2028(世界における生成AI搭載スマートフォン市場予測、2024~2028年版) 2024年7月 2024年7月発行 Worldwide Generative AI Smartphone Forecast, 2024-2028(世界における生成AI搭載スマートフォン市場予測、2024年~2028年版) 2024年7月
3. テスト構成は、2R-1β LPDDR5Xで9.6GbpsのQualcommプラットフォームをベースに、eDVFSCを有効化した環境で実施されました。本レポートでは、ハードウェアの制約により、LPDRAMの周波数に対する電圧スケーリングは1.06V/0.98Vに固定されています。
4. 試験環境の制約により、本レポートで使用されている電圧レベル(1.060V/0.98V)は、公称設定値(1.05V/0.99V)とやや異なります。