設計中の建物の中を工事さえ始まっていない段階で歩き回ることを想像してみてください。吹き抜けの天井、ゆったりとした窓から注ぎ込む光、らせん階段。商業施設であれば、通路を埋め尽くしながら商品を吟味する顧客の押し合いやざわめきなどを。
しかし、あなたはこうも思うでしょう。この陽の光がすべて差し込むと午後には暑すぎないだろうか? 北向きの窓が一番いいかもしれない。または、お店の通路が混雑しすぎているように思われるから、人の流れを改善するよう求めるかもしれません。このとき一瞬にして、周囲の空間があなたの要求に応じて姿を変えます。ここにれんがの壁を設置し、あそこにフランス風のドアを付け、家のこちら側の窓は小さくし、これらの窓がある壁全体を北向きにし、通路を広くします。
ブループリントに別れを。デジタル技術によって建築は変化しており、これまでとは全く異なります。顧客がページに引かれた線を目を細くして見て、設計する空間を創造してみようとする必要は、もはやありません。変更依頼のために建築家が製図板の前に戻り、何時間も費やしたり費用を押し上げる必要も、もはやなくなりました。なぜなら、これらの変更は、顧客から求められると同時に、数回クリックするかそれどころか瞬時に、必要な作業は一切なしに実現できるからです。
仮想現実(VR)とそのいとこである拡張現実(AR)によって、住宅、商業建築、または工業建築を専門的に設計する作業だけでなく、設計自体の作業もすでに変わりつつあります。「私たちはVRを使用することによって、土へのシャベルの最初のひと掘りより前に家や建物の中をあちこち見てまわることができます」と、Silverdraft Supercomputing社のCEO、Amy Gile氏は語っています。Gile氏の会社のDemonおよびDevilスーパーコンピューターは、建築、工学、建設(AEC)などの業界向けのVR、AR、そして人工知能(AI)を含む新興技術を促進しています。
もう、時間の問題です
今後10年間にわたってあらゆる分野で想定されるVRとARの年間40~80%の成長率に伴い、これらの技術に対する顧客からの需要が高まります。これを受け、AEC業界にはこれらを提供する以外の選択肢はありません。しかし、AECに携わる関係者は、測り知れない恩恵を受ける立場にもいます。具体的には、ミスやそれに伴う費用を減らし、よりスムーズで調和のとれたワークフローを作成し、そして多くの場合、設計者をその仕事の最も退屈な作業から解放できます。面倒な作業は技術がやってくれるので、 設計者は設計に没頭できるのです。
Gile氏は、VR、AR、データ分析、クラウド、そして近いうちに人工知能を使用するビルディング インフォメーション モデリング(BIM)ソフトウェアをAECの時系列における次の論理的ステップであると見なしています。「最初は紙と鉛筆でした。次に建築家は、3D設計用のAutoCADやRevitを使用したデジタル技術に移行しました」と、Gile氏は語ります。「このような移行が繰り返されるたびに、建築家、請負業者、そして技術者が作成するビジョンを顧客が理解しやすくなります。」 VRおよびAR駆動型のBIMソフトウェアは「全員が同じ土俵上にいて協力するためのツールのもう1つの進化形にすぎません」と、Gile氏は言います。
VRとARのメリット
家の外では雪が降っているときに、遠い銀河の星をながめたり、仮想の太陽の下の浜辺でくつろいだ経験がおありなら、VRが楽しいものであることはすでにご存じでしょう。Holopadを使用してパリの中世の建物であるコンシェルジュリーの中を歩き回り、現在の祝宴会場に10世紀の様子を重ね合わせた映像を見たことがおありなら、ARの教育上のメリットはご存じでしょう。AECではこれらの技術により、業界の専門家や顧客に対して、一様に同じメリットにとどまらず、それ以上のメリットがもたらされます。
ただし、AECプロジェクトは設計プロセス中にVRおよびAR機能によってどのように強化されるのでしょうか? これらの技術は、建築前、建築中、および建築後にメリットを実現します。
建築前
申し込みの獲得:AECの場合、VRのメリットは見込み客が顧客になる前に享受できます。興味のある関係者にVRグラスを装着してもらい、提案した設計内を文字どおり歩いてもらうことができるため、アイデアを示すためにまだ画面を使用している業者よりも明確な競争上の優位を保つことができます。見込み客が問題に気付いたときに、その問題を見込み客の目の前で速やかに解決できることは、VRを使用しない業者が実現できない応答性を示します。緊急を要するプロジェクトやその他の困難な課題を抱えたプロジェクトの場合、VRを使用すれば、取引をまとめられるか何も得ないで立ち去るかという違いが生じる可能性があります。
ワークフローの合理化:多くの専門家にとって納得できるものでありながら、青写真を描く作業の場合、数週間かかり、多くの改訂が伴い、プロジェクトが遅延し、価格が上がる可能性があります。VRおよびAR駆動型のBIMソフトウェアを使用すると、視覚化から設計までの時間をわずか数時間に短縮し、より高品質のレンダリングを実現し、顧客を喜ばせることができます。
より正確な分析:プロジェクトに関するデータをBIMソフトウェアが選別し、絞り込み、分析し、より正確な費用見積もりやスケジューリングが可能になれば、費用の超過や締め切りの遅れは過去の遺物となる可能性があります。
高度なコラボレーション:VRを使用することにより、建築家、技術者、インテリアデザイナー、請負業者、そして顧客は、実質的に同じ時間に同じ場所に(その空間が実際に存在する前に)居合わせて、素材、地形、技術、設計、およびプロジェクトのその他の側面について話し合うことができます。プロジェクトの各種関係者がその物理的な位置とは関係なく一緒に作業できれば、誰もが(特に顧客が)満足の行く結果となります。
SilverdraftのGile氏は、同社のハードウェアとVR BIMソフトウェアを使用して自身の家を設計しました。その結果、仮想環境での事前建設で変更を行うことにより、プロジェクトの最終的な費用において数十万ドルを節約できることが明らかになりました。Giles氏が言うとおり、「ピクセルの方が土より簡単に動かせます。」
コミュニティのサポートの改善:ときおり、プロジェクトは単なる誤解が原因で滞ることがありますが、それには正当な理由があります。誰もが視覚的に順応していたり、青写真や3Dモデルによって提示されるコードを解読できるわけではありません。コミュニティのサポートを得る上で、VRがその真価を発揮します。
特に大規模な公共事業の場合、変化を恐れるコミュニティのメンバーの間で警鐘が鳴らされる場合があります。ある会社は、英国で最も混雑した駅であるウォータールー駅の乗客にVRグラスを提供し、計画されている修復後に駅ターミナルがどのようになるのかを事前に覗いてもらいました。もう1つ別のエピソードとして、フロリダ州ダニーディンが挙げられます。2つのコーズウェイ橋の交換計画に対する一般市民から反対の声がありましたが、完成したプロジェクトの没入型の360度VRビューを住民に見てもらったところ、その声は次第に消えて行きました。
柔軟性の向上:VRは、シーンを通過する光の経路を追跡する光線追跡技術を使用して、太陽やその他の光源から発せられた光が変化する効果を模倣することにより、設計者や顧客がこれらの光を見ることができるようにします。この結果に基づいて、設計者はそれ相応に調整を行うことができます。
建築中と建築後
ミスの減少:タブレットを持つかグラスを着用して指示書や資料を参照することにより、建築業者は、釘をどこに打つのかだけでなく、どのような種類の釘を使用すべきかも正確に把握できます。建築業者は、手元にどのような必要な資材が必要であり、それらの価格がいくらなのかを確認できます。設計に不備がある場合は、それらも確認し、おそらくはリアルタイムで見直しや修正のためにタグを付けることができます。すぐに、人工知能がこれらの意思決定を代わりに下すことができるでしょう。現場の3Dプリンターにより、トラスやその他必要な資材を生成することもできるでしょう。「技術に終わりはありません」そうGile氏は語ります。
永久モデル:設計プロセスで作成されたARおよびVRモデルを建築業者が使用できれば、住宅や商業建築の備品供給、改築、さらには販売がより容易になります。同様に、不動産業者にVRモデルを提供するにより、購入者が「購入する前に試用する」ことが可能になります。
難題それとも機会?
変化は容易ではなく、反対する人から、VRやAIをAEC業界に完全に採用することに伴う支障が素早く指摘される可能性があります。Silverdraft社のGile氏を含む他の多くの人々は、これらのデジタル技術が町にやってくることで今後得られる刺激的な機会を見据えています。このような機会にもかかわらず、この技術の先行投資資金や変化の速度を含む、検討すべきいくつかの難題が依然として存在します。
費用:この優れた技術そしてこの技術を使用するためのハードウェアすべてに関わる費用はまさに、誰もが認識しているけれど話したくない重要な問題です。住宅の設計のような個人的なプロジェクトの場合は特に、費用が法外に高く感じられます。しかし、時間の節約、ミスの減少、そしてその他多くの機械的な作業を実行できる技術の能力は、初期段階で支出の増加を埋め合わすことが(または上回ることさえ)できる可能性があります。
技術への対応:技術の革新と改善が猛烈な速さで現れるのに伴い、新しい技術を利用すること(およびこれらの技術を時宜を得た方法で顧客に提供すること)は、控えめに言っても容易ではありません。「技術に精通している人」になろうとする代わりに、AECの設計者は、Silverdraftのような信頼できる企業と手を組むことができます。このような提携により、専門家が最新のツールを使用して作業し、顧客に最高の価値を提供できるようになります。また、技術は改善するたびに効率が上がる傾向があるため、ワークフローおよび費用面も改善する可能性があります。
スピードが最も重要
VRおよびAIの場合、適切なハードウェアを使用することが、質の高いユーザーエクスペリエンスを提供する鍵となります。これらの技術には、実現可能な最も短い時間内に(文字どおり思考速度で)膨大な量のデータを処理する作業が伴います。「頭から信じる必要があります」と、Gile氏は語っています。「仮想環境では、それが現実であると脳をだまします。仮想世界で脳をだますことを妨害するものは何であれ、その経験を台なしにしてしまいます。秒当たり一定数のフレームが必要であるため、スピードが非常に重要です。」
スーパーコンピューターのDevilサーバーとDemonワークステーションがまさに期待どおりの速さを実現できるよう、Silverdraft社はマイクロンのメモリを使用しています。「GPU(映像用として必要なグラフィックスプロセッサ)は、温まったときに速度を下げるよう設計されていますが、これは通常約15分です」と、Gile氏は言います。「たいていの人は、これより長い時間VRを使用します。システムがそれ自体の冷却を開始し、速度を下げると、フレームが減り始めます。」 見ている人はフレームの減少に気付かないかもしれませんが、脳はそれに気付き、乗物酔いする可能性があります。
「Silverdraftのシステムにはこのような問題はありません。それは、ひとつにはマイクロンの超高速GDDR6グラフィックスメモリ、DRAMメモリ、SSDのおかげです。」と、Gile氏は言います。「これらのシステムに組み込むことができる絶対的に最高のコンポーネントが重要です」と、Gile氏は付け加えています。「当社が得るパフォーマンスを実現するには、特に仮想環境においては最高のものが必要なのです。」
「マイクロンとのコラボレーション、そして、マイクロンのおかげで当社の設計者が実現できるようになったこと、これらはまさに驚くべきことです」と、Gile氏は言います。「まさにナンバーワンだと思います」