運転中、目の前に急に車が突っ込んできます。夜間に暗い色の服を着た歩行者が道路を急に渡ります。高速走行している先の深い霧からトラックが現れます。
ドライバーであれば誰でもこのような怖い思いをしたことがあるはずです。恐怖とアドレナリンが背筋を駆け上がり、急ブレーキを踏みます。運に恵まれれば、または運転技術に優れていれば、あの恐ろしいキーッという金属音を聞いたり、ドンという衝突を体験しなくてすみます。あなたも他の人も誰も、傷つかずにすむことを願います。
しかしたいていは、このような瞬間が事故につながります。最新の世界保健機関の交通安全に関するレポートによると、2018年には世界中で135万人が交通事故で命を落としており、5~29歳の年齢層の死因のうち交通事故が第一位でした。これはすなわち、135万人が家族や友達から引き離されたことを意味します。今日は近くにいた人が次の日にはいなくなってしまうのです。
しかし専門家は、新たな技術によって、このような背筋が凍る瞬間や、交通事故死とそれに伴う悲痛な思いを激減させることができると考えています。現在の新しい車はすでに、死角検知、車線逸脱警告、車線維持技術、そして自動非常ブレーキを備えています。こうした技術やその他の自動運転支援システム(ADAS)のおかげで未来は今、ここにあります。
ADASの革新の次の波は、車車間(V2V)通信や車車間・路車間(V2X)通信によってもたらされます。あるいは、分かりやすい言葉で言えば、車両が互いに会話することを可能にする技術によってもたらされます。車が互いに会話するなどと言うと馬鹿げて聞こえるかもしれません。しかし、これらの車は、歩行者、オートバイ乗り、その他の車両、道路網、および危険を伴って進路に現れる障害物と多くの会話を交わすことがわかっています。
動作の仕組み
V2X通信は、以下の技術を組み合わせています。
- 周辺環境と通信する、車両に設置されたセンサー
- 車両が他の車両、周辺のインフラストラクチャ、GPSマップ、そして歩行者と対話することを可能にする無線接続
- 車両にローカルストレージを提供し、車両システムへの通知および車両システムの実行に必要なデータのほぼ瞬時の移動を可能にするNANDとDRAMメモリ
多様な車載アプリケーションに、自動車用として適格なメモリソリューションの包括的なポートフォリオが使用されています。そして、40%を超える市場占有率と28年間にわたる自動車市場への参画を誇るマイクロンは、この市場において誰もが認める有数のメモリサプライヤーです。このことは、ADASソリューションの次の波であるV2X技術の展開を支援する上でマイクロンが有利な立場にあることを意味します。
マイクロンは、有数のV2Xチップセットサプライヤーと連携して、必要なスモールフォームファクタに自動車グレードのメモリを提供します。これらのチップセットサプライヤーは、毎年数十億ドルの収益が生み出される新興業界で市場占有を奪い合うことになるだけでなく、何より、事故件数の大幅な削減に貢献します。
実際2024年までに、自動車業界の主要団体(米国運輸省道路交通安全局および自動車技術協会)は、車両が完全な5つ星の安全評価を受けるために一定のV2X機能を備えることを想定しています。これによってかなりの割合の新車がV2X機能を備えることになる、マイクロンの組み込みビジネスユニットの自動車システムアーキテクチャのV2X専門家兼シニアディレクターのRobert Bielbyはそう語っています。一部の自動車メーカーは、それまでにV2X技術を発表することを計画しています。
完全に自動化された車両の使用が規制当局によって承認されれば、V2Xはこれらの車両の技術的な基盤になるだろうと考えられています。「V2Xは劇的な効果を上げるでしょう」と、Bielbyは語っています。「非常に重大な意味を持ちます。」 その一方で、V2Xはほぼ確実にADASを進化させます。専門家は口々に、ADASによって交通事故死、渋滞、移動時間、さらには自動車廃棄ガスさえも減ると述べています。
スーパーマンの目
コンピューターに備え付けられたセンサーと比べると、人間は環境認識能力において非常に劣っています。
- 人間のドライバーは、眠くなります。センサーではそんなことはありません。
- 人間のドライバーは、運転中にメールを打ちます。センサーではそんなことはありません。
- 人間のドライバーは、運転中にコーヒーを飲んだり食べ物を食べたりします。センサーではそんなことはありません。
- 人間のドライバーは、同乗者とお喋りをします。センサーではそんなことはありません。
- 人間のドライバーは、目に入ったものに注意を奪われます。センサーではそんなことはありません。
- 人間のドライバーは、イライラして運転が荒くなります。センサーではそんなことはありません。
1台の車両だけでも、ドライバーが気付く前に危険をドライバーに知らせることができるV2X技術を備えていれば、事故の確率が下がります。「互いに危険を知らせ合う機能をたくさんの車両に与えることができれば、自動車の安全は大きく変わります」と、Bielbyは語っています。「信号の色もV2Xで通信できます」と、Bielbyは付け加えています。「これは、スーパーマンのX線ビジョンのような能力のほんの一例にすぎません」
「米国内だけで毎年発生する600万件の車両事故のうち、90%は防止可能であると想定されています」と、Bielbyは言います。「米国運輸省道路交通安全局によって公開されたながら運転に関するレポートによると、ほとんどの事故は人為的ミスが原因だそうです。V2X技術には、人為的ミスを減らし、これら多くの命を救うことが期待されています。コンピューターは疲れることがないため、V2Xはこの問題を解決することを目標としています」と、Bielbyは述べています。「カメラ、レーダー、ライダー、そして超音波のおかげで、360度の視野が手に入りました。ここで私たちは、車が互いに会話することを可能にするテクノロジーを投入します。これにより、自動運転はさらに効率的になります」
Bielbyによると、2024年までに想定されるV2X技術の大量採用に加えて、少なくとも何らかのV2X機能を古い車両に後付けするための市場が出現するということです。
歩行者、自転車、オートバイ
V2Xの安全面の利点は、道路や街路を使っている、車に乗っていない無防備な歩行者、自転車、オートバイにまで及ぶ可能性があります。
「オートバイは、2024年のV2Xの指令に含まれないとしても、自動車の場合と同じように、マシンのフレームに組み込まれたデバイスを採用すると考えられます」と、Bielbyは語っています。その理由はシンプルです。オートバイに乗ることは危険であり、V2X技術を採用すれば、オートバイの事故を最小限に抑える上で役に立つからです。
オートバイ乗りは、二輪しかないことに伴うリスクを把握しています。しかし、経験豊かな乗り手であれば、最も怖いリスクは路上の他のドライバーによってもたらされると言うでしょう。V2Xソリューションの提供会社であるAutotalksによると、致命的なオートバイ事故の3分の1では、相手のドライバーからは近づいてくるオートバイが見えていなかったということです。V2X技術は、オートバイ乗りとドライバーの両者に差し迫った危険を知らせ、より大きな車両で是正措置を開始できます。このような車両対車両の通信により、このようなタイプのオートバイ事故を削減し、二輪車に伴う危険の一部を軽減することが期待されます。
V2X技術はまた、ドライバーからは見えにくい歩行者と自転車乗りの役にも立ちます。歩行者とオートバイ乗りは、V2Xネットワークと対話できるウェアラブルデバイスを着用したり、同じ目的を果たすアプリをスマートフォン上で起動したりできます。いずれの場合も、V2Xが搭載された自動車は、歩行者またはオートバイの存在をドライバーに知らせた後、ブレーキをかける、またはその他の回避行動を開始します。
スマートトラフィック
都市部での運転は、非能率に関するケーススタディの1つです。停止信号が青に変わるたびに、交差点を渡るために待機していた一連の車が1台ずつ、発車すべきタイミングを識別してから加速する必要があります。このとき、各車両が一斉に加速できたとしたら、このプロセスがよりスムーズになるだろうということを理解するのに、それほど多くの車は必要ないでしょう。V2Xは、このような同時移動の実現を目指しています。さらにこれには、赤信号、事故、またはその他の交通障害物に対して連動するブレーキングも含まれます。
人々は、渋滞のために多大な時間を奪われています。Dr. Meng Wangによって率いられた調査グループにより、特定の状況下では、平均的な交通渋滞は41.7分間続き、その間、運転速度が7.3mphまで低下したことが判明しました。ただしこの研究では、V2X技術によって交通渋滞の影響が激減したことも分かりました。シミュレートした車両の10%にV2X技術が採用されていた場合、平均的な交通渋滞時間は3.6分まで短縮され、平均速度は25.5mphまで上がりました。このような改善は、連動した加速と減速が可能な車両の結果です。(この簡単なビデオは、このような変化を実現する方法を示しています。)
路上でV2X機能を採用した車両の割合が上がれば、これらの数値は改善します。「ただし、この調査のポイントは、V2X技術が一括採用される前であっても、V2X技術は渋滞や安全上の問題を解決し始めることができることにあります」と、Bielbyは語っています。「『少数の人たちだけがV2Xを採用した場合、何が起こるのか』という問いがあります」と、Bielbyは言います。「わずか10%の採用で起こった改善を見てみれば、もう答えは出ています。」
交通をよりスマートにするV2Xの能力は、危険の特定や加速と減速の制御にとどまりません。「車両が合流や車線変更を信号で伝えてその意図を通信し、より速く進路を変更することにより、その他の車両が同期してシームレスかつ安全に走ることが可能になります」と、Bielbyは語っています。他のドライバーがあなたの進路変更の合図を見ているかどうかを疑う日々は過去のものとなります。「私がウインカーをつけると同時に、その意図が路上の全員に伝わります」と、Bielbyは言います。「これにより、他の車は私が合流できるように行動を適応させられます。」
効率の向上
米国交通統計局によると、自動車業界は、2004年から2014年にかけて新車の効率が23.3%向上したことに伴い、排気ガスの削減において目覚しい成果を上げることができたということです。これはよい知らせです。ただし、悪い知らせもあります。ロチェスター工科大学(RIT)によると、同期間中、主に交通渋滞が原因で燃料の浪費が19.2%増えたということです。これと同じRITの調査の分析結果では、V2Xによって可能となる協調した運転は排気ガスに影響する可能性があることが判明しました。これは将来性がある分析結果です。
このシミュレーションでは、停止信号のある道路上を運転する際に最適な速度が計算されました。また、これらの車両は前にいる車両に速度を変更するよう求めるリクエストも送信できるため、信号が赤に変わる前に、より多くの車両が交差点を通過することが可能になります。
RITの調査では、1時間当たり1,200台の車両が通過し、V2Xの普及率が100%である場合、排気ガスが15%減少したことが判明しました。このような効率の向上により、輸送のカーボンフットプリントが大幅に下がります。しかし、V2X技術によって車両を小集団に編成できれば、排気ガスをさらに削減できます。「基本的に大型の車両は、V2X通信を使用して密集した編成で一団となって走行します」と、Bielbyは言います。「これはまさに、複数のトラックが互いに30cmほど離れた状態で一緒に走行させることを意味します。1台のトラックが非常に接近した状態で別のトラックの後に続くことで渋滞が減ることから分かるように、燃料の効率は天井知らずに上がります。」
次のステップ
前述のとおり、市場に投入される自動車の多くにはすでに、危険検知やコンピューター支援駐車などの構成要素が組み込まれ、自動運転車両のための道が着実にできています。高度な安全機能が搭載された車両によって事故は減ります。しかし、その成果を、たいていはスマートフォンによって気を散らした多くの不注意なドライバーが原因である事故件数が上回ります。人的ミスは輸送における最も大きな懸案事項であり続けているのです。
すでに使用されているスマートカー技術は、1台の車両と周辺環境との相互作用に限定されています。V2X技術を使用した次のステップでは、車両が互いに対話するとともに、信号やその他のインフラストラクチャ、GPSマッピングプログラム、そしてオートバイや歩行者とも対話することが期待されています。これらの各ピースが一緒になって、運転の状態をリアルタイムで絶えず共有し更新するメッシュネットワークが形成されます。
マイクロンは、自動車アプリケーションに特化して設計したメモリソリューションを提供することにより、自動車テクノロジーを長年にわたって支えています。マイクロンのGDDR6技術は、システム内およびシステム間のデータ移動を加速できるため、自立型車両やV2X技術に求められる高い帯域幅によく適した技術です。このレベルの高速な常時通信には、メモリだけでなく無線技術における進化も必要になります。このような技術は、大いに期待されている5Gセルラーネットワークの形で出現するものと考えられますが、それについては時期尚早です。
V2X通信が普及するまでにメーカー、規制当局、および業界の基準策定者が解決すべき問題は山積しています。しかし、この変化は現れつつあり、マイクロンはお客様とともにそのまっただ中にいます。交通渋滞を緩和し、車両の自動化につながるADAS技術は、すでに使用されています。
最も重要なことですが、ADAS、そしてこれをサポートするV2X技術が使用されることは、車両、オートバイ、歩行者、および自転車の交通事故が大幅に減ることを意味します。V2X技術が市場に投入されれば、思いもよらないものが進路に飛び出してきたときに恐怖やパニックを感じる機会がはるかに少なくなるでしょう。そして、あなたやあなたの愛する人々が1日の終わりに無事に帰宅できる確率が高くなります。
これにより、V2Xは刺激的なテックトレンドとなるだけでなく、ともすれば近年で交通安全を最も進めた重要な技術となるでしょう。