「火を付けるには火打ち石が2ついる」と作家のルイーザ・メイ・オルコットが言うように、創作活動には火花のようなひらめきが必要です。今やクラウドテクノロジーと、ますますパワフルになるコンピュータのお蔭で、オンラインのコラボレーションが新たな創作活動の道具となり、世界中のアーティストの思いが集まって、多彩な視点と文化に基づく表現形態が生まれています。
クラウド内に無数のプラットフォーム、アーティスト、ミュージシャン、ライターのほか、俳優やダンサーまでもが集結しています。国境を越え、個々人の専門分野を越えて、ブレインストーム、論評、強化、縮小、構築、分解が行われています。このコラボレーションのすべては絵画、オペラ、詩、演劇、アニメ、映画、歌、その他の全く新しい作品を生むためのものです。天才的創作者が孤独の中で悶々とする時代は終わり、新たな時代の夜明けです。国境なきアーティスト団が「分散された創作活動」で協働する時代なのです。
古い型を破る
クラウドコラボレーションが面白いのは、それが型破りで衝撃的な創作活動の仮想的な爆発を予兆するものだからです。あらゆる年齢層、国籍、文化、才能を持つ人々がクラウドテクノロジーを利用して、どこへも旅する必要なく随時お互いのアイデアや認識を融合させ、磨き上げることができるのです。これは人類史上初めてのことです。
もちろんクラウドが登場する前にも、長距離を隔てた協働はありました。しかし、そのためのロジスティクスは大変なものでした。インターネットを利用した最初のクリエイティブコラボレーションの1つが Cassandra Projectでした。ニューヨーク、カナダ、ルーマニアのダンサー、ミュージシャン、教育者、技術専門家がCU-SeeMeというソフトウェア サーバを利用して、世界の視聴者向けにライブパフォーマンスを制作しました。
1996年~2000年にはデジタル技術を利用して、各地のダンサーやミュージシャンの活動をライブストリームで配信しました。指揮者がオーケストラの指揮をするように、振付師が遠隔指導にあたりました。とはいえ、接続速度は遅く(1997年に初めて民営のWi-Fiが登場したときのデータ速度は2Mb/秒)、画像のリロードが頻繁に行われなければならなかったため、参加者と視聴者にとってパフォーマンスが途切れてしまうことになりました。現代のネットワーク接続とクラウドなら、こうした体験を著しく改善したことでしょう。実際、2008年頃以降のクラウドの広範な採用は、リモートでのアーティストコラボレーションの真のなだれ現象を引き起こしました。
- 賞を受けた作品Post Natyam Collectiveでは米国、ドイツ、インドのメンバーがクラウドで協働し、ダンス、ビデオその他のアーティスティックなパフォーマンスを制作発表しました。創設14年のグループのマニフェストには「オンラインの集団プロセスを通じて、各人がそれぞれの作品を制作する」ことへの取組みが盛り込まれています。
- ゲーテ・インスティトゥート後援の文化イノベーターフォーラムから生まれたInteractive Diariesは、世界中のアーティストがリアルタイムの交流を通じて制作した音楽/サウンド、写真、絵画を配信しています。このプロジェクトのウェブサイトには「テクノロジーとアートは、地理的・文化的に遠く離れた人々のコミュニーケーションを促進する」と説明されています。「イラスト、写真、サウンドアートが言葉に取って代わり、これら世界共通語を通じて誤解や固定観念の壁を打ち壊す一助となります」ともあります。
- オペラの世界もこの活動に加わっています。『Pancho Villa from a Safe Distance』では、クラウドとビデオ会議などのネットワーク技術を利用して、メキシコシティーとテキサス州オースチンを拠点とするクリエーターが国境を越えて協働しました。
- オスカー賞にノミネートされた『The Dam Keeper』では、75人のアニメ制作者、画家、ミュージシャン、制作スタッフ、彫刻家、編集者がそれぞれ別々の場所から、オンラインのファイル共有サイトを利用してリアルタイムで協働しました。
- 『A Tale of Two Tricksters』では、アラスカ・ネイティブ・ヘリテージ・センターとニューヨークのプレゴン/プエルトリコ・トラベリング・シアターをクラウドで結んで、神話の「奇術師(trickster)」に対する2つの文化的解釈を融合させました。出演者は、クラウドを通じてリアルタイムに共演しながらライブストリーミングを配信し、アラスカとニューヨークで同時上演を行いました。
「団結しよう」:利点
なぜ協働するのか? ラルフ・ウォルドー・エマーソンの有名な随筆『自立』によって形成されてきたともいえる米国では、その理由はそれほど明快ではないかもしれません。しかしクリエイティブ業界では協働に信頼を置く人が少なくありません。実際、以下のような利点から、それに頼ってさえいます。
- 創造性。「ブレインストーム」という言葉には、それなりの意味があります。アイデアをやり取りすると、脳内の神経伝達物質が刺激され、それによってさらにアイデアが浮かぶのです。自身のアイデアで思考を刺激してくれる誰かとアイデアを出し合うと、既成概念にとらわれずに考えることが容易になります。グループでのブレインストーミングは、特にグループが多様であれば、いっそう効果があります。
- 仲間意識。1は孤独な数です。他の興味深い、才能と創造性を持った人に出会い、共に働く機会がオンラインには多数あります。そのようなウェブサイトやアプリはどんどん増えており、彼らにあなたを紹介する機会を待ち受けています。
- 成長。他の人々と共に働けば、トライしてみるべき新しいアプローチについて、互いにアドバイスし合うことができます。これは制作中の作品について批評し合うことができるということです。マサチューセッツ工科大学が開発したスクラッチは若者を集め、デジタルの「プログラミングブロック」を利用して、インタラクティブなストーリー、ゲーム、アートシミュレーションを生み出しています。2007年の創設以来、このサイトは100万本以上のクリエイティブなプロジェクトを生み出しました。
- 手が届く。他の人々と共に働けば、彼らの視聴者にアクセスできるようになり、その視聴者もあなたにアクセスできるようになります。コラボレーションは、人々の生活に違いをもたらすというアートが持つ能力を広げます。それはアーティストが創作を行う主な理由です。
対面式のコラボレーションはよいものですが、増大するモバイル文化により、アーティストは1人の時間を確保しながら、他との協働から益を得られるようになっています。クラウドは創作活動を行う人々にとって既知の「第3空間」になっています。これはアーティスト、ミュージシャン、ライター、パフォーマーが集い合い、コストも旅行の手間暇もかけずに共有できる、家庭と仕事の間に位置する空間です。
実際、以下のような理由から、オンラインでのコラボレーションは、個別のミーティングよりも効果的だという見方もあります。
- 支配的な個性が抑えられる。研究によれば、仮想ブレインストーミングから生じるアイデアの方がより優れているそうです。理由は、クラウドでは世界から多様な意見の持ち主が集まるだけでなく、オンラインでは誰かが討論を牛耳ることがはるかに難しくなるからです。多様な人々の意見を聞くことは、ブレインストーミングの核心ではないでしょうか?
- 消極的な人も発言しやすい。オンラインでは比較的匿名性を保てることから、内気な人が対面式のミーティングよりも発言しやすくなります。
- クラウドは24時間年中無休。参加者は夜中の2時や早朝6時に起きて、文書を見たりビデオクリップを聞いたりする必要がありません。自分の望むときにそうすることができます。自分のタイムゾーンがどこに位置していようと、クラウドは常にオープンしており、随時参加/退出が可能です。
その時代のテクノロジー
数年前にビデオ会議を経験した人ならご存じでしょうが、たった1人の相手とオンラインで仕事をするのも容易ではありませでした。クラウドが登場する前は、自宅やオフィスのハードウェアに頼って、ビデオや音声データをやり取りしていました。ところが情報の流れを維持するには、サーバに膨大な量のメモリが必要です。強固なハードウェアがなければ、当時のネットワーク接続は停止や中断に至ることがよくありました。長距離のチャットやプレゼンテーションは、ほぼ毎回そうした中断に陥り、フラストレーションが募り、アイデア交換も途切れがちでした。
このような難題を抱えつつも、実業界は長距離でのコラボレーションの利点を見失うことはありませんでした。2008年の財政危機で事業予算が締め付けられた時でさえそうでした。実際に、組織がデータをクラウドに移行した主な理由の1つは、資金の締め付けが厳しくなったためということにほかなりません。マイクロンのシニアカスタマープログラムマネージャーを務めるGregg Wolffによれば、低コストで利用できるクラウドサーバの膨大なメモリを活用することで、組織は自社施設のハードウェアを維持するITスタッフの人件費を省くことができました。
トレンドに気づいたクラウドプロバイダは、データストレージや処理能力の改善に乗り出しました。すぐにその恩恵が波及し、クリエイティブ分野の人々にも及びました。今ではソーシャルメディアから生産性アプリまで、プラットフォームはクラウド技術を利用し、どこにどれほど多くのユーザーがいようと、シームレスなストリーミング体験を提供しています。ミュージシャンは共作の音楽トラックの音を聴き、論評し、追加(または削除)することができます。アーティストは共有デジタルキャンバスに、リアルタイムで描画できます。視聴者はテレビのシリーズ番組において、物語のあらすじにコメントするなど、様々なことができます。
高バンド幅の5Gネットワークが登場すれば、協働プロセスに拍車がかかることは間違いなく、情報ハイウェイに新たなレーンが加わり、データのボトルネックや不安定な接続は過去のものとなり、仮想現実、ホログラム、AIといった先端技術に道が開かれます。もうすぐ、クリエイティブなパートナーが同じ室内にいないことを忘れる時が来ます。ある意味では、いつもそこにいるようになるからです。
メモリ:不可欠の構成要素
クリエイティブコラボレーション用に膨大なデータの流れを維持するには、クラウドサーバとそれらをつなぐネットワークにメモリが必要です。最近のクラウドサービスでは、実質上無限のメモリを確保して、ビデオ、オーディオ、ライブストリーミングへの飽くなき渇望を満たしています。AIや仮想現実など、新しく有望なテクノロジーがますます普及するにつれ、メモリの必要性は、クラウドでも、「エッジ」、つまり個人の機器やデータセンターでも、増大する一方です。
没入型テクノロジーによって高品質のユーザー体験を提供するには、クラウドとエッジを利用して、大量のデータをリアルタイムで処理します。より大きく、速く、パワフルなメモリの必要性がなくなることはなく、それは今後数年でより一層加速化されるはずです。
マイクロンは、これまで長期間にわたりメモリ技術の先頭に立ち、パワフルな高速DRAMメモリチップや大容量NANDフラッシュメモリで、今もその地位を維持しています。またNANDより速く、DRAMより大容量の3D XPointTMメモリ技術は、クラウドとエッジの双方で大量データを迅速に移動できます。
ホログラム、そしておそらくいつか可能になるであろう「beam me up(転送を頼む)」機能に至るまで、テクノロジーは絶えず進歩し、新しいものが登場しています。人はよりよく、より速く、より現実的な方法で互いに集まり交わることを今後も期待し続けるでしょう。
その恩恵はビジネスを越え、アート自体さえも越えて拡がっていきます。Big History Projectの研究者らは、ほかのどの要因にも増して「集団学習」がヒトの進化を促し、地球上のどの生き物をも凌駕したと述べています。クラウドは、かつて経験したことのないスケールとペースで、集団学習とイノベーションを実現しています。
その重要性にも関わらず、メモリ技術が直面する難問は驚くべきものです。デジタルメモリへの集合的かつ貪欲な渇望に恐れをなす企業もあります。しかしマイクロンは、大容量DRAM、高速NAND、および両者の長所を取り入れた3D XPointメモリを生産する唯一のメモリメーカーとして、この難問に既に対処しています。当社のソリューションは、膨大な量のデータを迅速に処理でき、今後いっそう大容量に、高速に、効率的になっていきます。
次に登場するのは? 離れた場所にいる友人同士の仮想現実環境? 世界中の1人1人が15秒間スターになれる映画? 異星人との、それとも歌って踊るロボットとの共作ミュージカル? このようなリモートアートプロジェクトを実現するには、多くのことが実現されなければなりません。たとえば、どんどん大型化する保存データの保管場所をより速く利用できるメモリアーキテクチャなどです。マイクロンはメモリを第一に、Connected Age(繋がる時代)の協働とクリエイティブ精神へと先陣を切ります。