AIからゼロ労働の工場まで:5Gアプリがどのようにメモリとストレージの需要を促進するのか
5Gの展開に伴い、人工知能(AI)、エッジコンピューティング、ビッグデータなどで大きな変化が起ころうとしています。しかし、5Gによって支えられるこれらのアプリケーションは、メモリとストレージにとってどんな意味を持つのでしょうか? マイクロンモバイルビジネスユニットのマーケティング担当VPクリス・ムーアに、5Gの新しい世界を支えるメモリとストレージについて話を聞きました。
私:5G時代では、ストレージ技術の変化だけでなく、コンピューティング手法の変化も必要となります。エッジコンピューティングが広く利用されることになるでしょう。その過程で、プライバシー、セキュリティ、信頼性、消費電力などの要素に絡む課題が出てきそうです。ストレージの観点から、これらのペインポイントの解決をどのように考えていますか?
ムーア:エッジコンピューティングは、確かにメモリとストレージに大きな影響を与えるでしょう。5Gに接続されたエッジデバイスとモノのインターネット(IoT)には、これまでサーバー、PC、スマートフォン特有のものだった計算能力を必要になると思われます。マイクロンでは、ネットワークエッジ向けにスケーラブルで広帯域、低レイテンシーのストレージとメモリを提供することで、このニーズに取り組んでいます。これは、エッジデバイスにおけるリアルタイムの分析と処理を可能にし、今後急速に増大するデータ量を扱うために必要となります。5Gとエッジコンピューティングにおけるもう一つの課題は、間違いなく消費電力です。特に、5Gのインフラでは4Gに比べより多くの電力が必要になることが研究によって示されています。またすでに、2030年までに世界の総電力消費量の最大20%を情報通信技術が占めるという予測があります。したがって、5Gのエコシステムのあらゆる層において、最初からエネルギー効率をインフラに組み込んで設計することが重要となります。
私たちは、製品の電力効率、パフォーマンス、スピード向上のために常に革新的な取り組みを行っており、これらのメリットは互いに連携し合うと考えています。その一例として、私たちの低消費電力DDR5 DRAMが挙げられます。このDRAMは、旧世代と比較して電力効率が20%以上改善し、データアクセス速度が50%向上しています。これらの性能を持つ5Gスマートフォンは、最大6.4Gb/sのピーク速度でデータを処理できます。これは、5Gデータのボトルネックを防ぐために非常に重要です。またこの性能はエッジデバイスにも適しており、例えば自動運転車がリアルタイムでデータを計算、処理するのに役立ちます。さらに、エッジ自体のデータ処理が可能になることで、何百キロも離れたデータセンターにデータを送り返す必要がなくなり、エネルギー消費を削減できることから、エッジコンピューティングはエネルギーの節約につながる点もポイントです。
私:5Gの展開に伴って、大規模なデータセットのリアルタイム通信に対するニーズの高まりに対し、マイクロンはどのように対応する予定ですか?
ムーア:5Gがもたらす大規模なデータセットとほぼ瞬時の応答に関わる問題を解決する必要性から、最も過酷な使用条件下でもパフォーマンスが低下しないことを保証するために、基盤となるハードウェアに大きなプレッシャーがかかっています。1zノードの量産を開始した最初のベンダーとしても、技術上のリードから得られる見返りを追求する上で、マイクロンにとって重要な焦点となるでしょう。私たちの1zベースDDR5は、5G以降の次世代技術を可能にする重要な基盤となります。DDR5は、85%を超えるメモリパフォーマンスの向上と、最新のデータセンターに必要な信頼性、可用性、保守性の向上により、急速に増大するデータセットやデータ中心のアプリケーションによる高度なデータセンターのワークロード処理に最適と言えます。
私:5Gスマートフォンにおけるストレージとメモリの需要はどのように変化するでしょうか?
ムーア:エンターテインメント、ソーシャルネットワーキング、カメラ、システムニーズの高まりはすべて、5Gスマートフォンのシステム容量増大の要件を推進するでしょう。例えば、5Gにより携帯端末でこれまで見たこともないようなゲーミングが可能になりますが、さらに大きなDRAMが必要となります。HD映画を丸々一本ダウンロードしテレビでストリーミングするには、より大きなNANDストレージが必要になります。5Gによって未来の動画ストリーミングはより没入型になり、リアルテイムでカメラの角度やその他設定を選択可能にしますが、より大容量のDRAMニーズが高まります。108MP以上のカメラを使って録画した8Kの動画コンテンツをソーシャルメディアで友人と共有するには、データをエンコードするのに大容量のDRAM、データを保存し後で共有するのに相当量のNANDストレージと、その両方が必要となります。
その上現在のシステムでは、画像やビデオの取り込み強化に複数のAIエンジンを使用しており、システムのニーズを支えるためにさらに大きなDRAMが必要になります。最後に、現代の携帯電話における5Gの真のメリットは、ユーザーがこれらの活動を一度に行える点にあり、まさにマルチタスキングです。もちろん、これらの機能をすべて並行して使用するには、もっと大きなDRAM容量が必要になるということです。私たちは、マイクロンの12GB LPDDR5 DRAMと256GB UFS3.1 NANDストレージが、フル機能の5G携帯端末の基本要件になる日も近いと考えています。
私:ゼロ労働の工場や遠隔手術のユースケースに5Gは必要ないと考える懐疑派の人もいます。これについてはどうお考えですか?
ムーア:ゼロ労働と遠隔手術は、どちらも社会に対し大きな可能性を秘めたユースケースです。新型コロナウイルス感染症の大流行がもたらした今の状況を考えてみてください。もしゼロ労働がすでに広く展開されていたら、世界的な工場閉鎖やそれに伴うサプライチェーンの混乱はなかったでしょう。そして、遠隔手術がすでに広く普及していたら、手術が遅れたり、医師や他の患者に病気が移るリスクを負わせる必要はなかったでしょう。5Gは、これらのユースケースにとって絶対に不可欠です。なぜなら、この2つはどちらもリアルタイムで迅速に通信できる、接続された多くのシステムやデバイスを必要とするからです。重要な手術でロボットアームを操作する医師や、産業機械を操作する工場の作業員にとって、ラグがどれほど危険なことか考えてみてください。
ここで5Gが必要不可欠なのは、5Gが以下の3つの理由からより多くのマシンツーマシン(M2M)接続を可能にするためです。
- 4Gよりはるかに低い超低レイテンシー(1ミリ秒対10ミリ秒)
- 1平方キロメートルあたり10倍の接続数(100万対10万)
- 20倍速のデータレート(20Gb/秒対1Gb/s)
低レイテンシーだとより多くのデバイスに対するデータ帯域幅があるため、インテリジェントデバイス間、およびインフラとそれらのデバイス間で、より自律的な調整が可能になります。1ミリ秒のレイテンシーは、ネットワークを介したリアルタイムの制御を可能にし、リモート機器を操作する際の動画遅延を無くすため重要となります。これらの要素は、遠隔手術とゼロ工場労働を実現するために極めて重要です。
私:現在のところ、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)は、業界が一般的に楽観的な見方をしつつ、まだ完全に現実化されていない2つの技術です。ARとVRが5Gを活用するには、どのような改善が必要なのでしょうか?
ムーア:私が見てきたところでは、現状AR/VRで最も人気のあるユースケースはゲームだと思います。もちろん、私の子供たちは『ポケモン GO』で毎日この技術を使っています。しかし、5Gが提供する超低レイテンシーにより、より多くの企業向けアプリケーションが登場するでしょう。新型コロナウイルス感染症の現在の環境において、遠隔教育、遠隔診療、さらに自分の車を修理する遠隔整備などが必要なのは明らかです。これらのアイデアに人工知能を組み合わせるのは、さらに楽しみなことです。バーチャルな教室で4歳の子どもが、その子に合った授業をカスタマイズするAIを利用した教師から、読み方を学んでいるところを想像してみてください。現実として、私たちはそう遠くない場所にいます。
これらのアプリケーションはすべて、動画やAIを処理する大容量のDRAMと、クラウド上のビッグデータや携帯端末内のモバイルデータを保存するNANDを必要とします。これらのアプリケーションの成功の鍵は、エンドユーザーにとってすべてが確実にシームレスであることです。バーチャル環境が現実のように見えるために、不具合やラグは許されません。さもなければ、エンドユーザーはバーチャル環境を受け入れないでしょう。もちろん、バーチャル教師が質問の回答に時間をかけすぎたら、4歳の子どもは興味を失って集中が切れてしまうでしょう!この種のシステムは、より高速なコンピューティング、より優れたニューラルエンジン、今より大容量のDRAMメモリとNANDストレージの必要性を高めるでしょう。
私:今後2年間で、スマートフォン以外にどのような5Gアプリケーションが爆発的に普及すると思いますか?
ムーア:私たちは5Gを、携帯電話、自動運転、消灯工場、AR/VR、インテリジェントエッジ、AI、さらに想像を超える何かを含む数多くの方法で、消費者や企業に影響を与える破壊的技術だと考えています。私たちのメモリとストレージ製品は多くの5Gアプリケーションの全面強化に適したコア技術なので、これらはすべて私たちにとって重要な分野です。なぜなら、5Gアプリケーションはすべてデータに依存しているからです。
中でも、私たちが特に期待している分野の一つ、それはAIです。5Gによって、我々のデバイスはAIタスクに必要なすべてのデータを瞬時に処理できるようになり、消費者の手元に知能を生み出します。ここで、メモリと処理要件が発展します。AIアプリケーションは、5Gがもたらす指数関数的なデータ量の増加に対応するため、現在よりも大きなメモリとストレージ、そしてはるかに高速な通信速度を必要とするでしょう。そこでマイクロンの登場です。マイクロンの技術は、AIを利用可能にするために、3D NANDの長所である高いデータ記憶容量と、DRAMの最適な特徴である超高速処理を組み合わせます。
とはいえ、私がもっと楽しみにしているのは、まだ現実に見えていないものです。私がよく思い浮かべるのは、現状のハードウェアの限界に挑戦するような新しいアプリケーションを学生寮でコーディングしている大学生の姿です。当時は考えもしなかったですが今では当たり前のビデオチャット、ソーシャルネットワーク、eコマースの利用モデルを、ついこの前まで学生だった人が発明したことを想像してみてください。
そのため、5G、またはモバイルメモリとストレージの未来について尋ねられると、本当にワクワクします。これこそが私が毎日出勤し、未来を実現するプラットフォームを構築する理由です。そのプラットフォームには何が必要なのでしょうか? 1TBのUFS4.0超高速ストレージ? 24GBのLPDDR5xメモリ? 新たなメモリとストレージ技術? 5Gのような破壊的技術がイノベーションを推進するのです。
本コンテンツはEEFocusのインタビュー記事として掲載されたものです。