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LPDDR5X:可能性の限界に挑戦するメモリのパフォーマンス

マイクロンテクノロジー | 2022年2月

半導体業界で働いてきた30年近い歳月の中で、私にとって最もエキサイティングな出来事の1つは、メモリとストレージのイノベーションによるユーザーエクスペリエンスの変革を目の当たりにすることです。私はマイクロンのモバイルビジネスユニットのリーダーとして、マイクロンによる最近のLPDDR5X DRAMのローンチ発表で、このイノベーションを身をもって体験しました。

モバイル低電力ダブルデータレート(LPDDR)DRAMテクノロジーの進歩によって、私たちが日常的に持ち歩いているスマートフォンの機能とアプリケーションを実現可能にするデータの基盤が提供されます。スマートフォンのメモリとストレージのサブシステムにおけるイノベーションと、人工知能(AI)を活用したアプリケーションの普及、そして高速化した5Gネットワークが融合し、現在と未来の可能性を変革しつつある新しいユニークなユーザーエクスペリエンスをもたらしています。

低電力DRAMのイノベーションが高帯域幅ユーザーエクスペリエンスを支える

モバイルメモリの世代が新しくなるたびに、よりパワフルで効率的なモバイルエクスペリエンスの可能性が開かれてきました。電子デバイス技術合同協議会が初めてLPDDR3メモリの仕様をリリースした2012年当時を思い返すと、私たちの日常的な運転エクスペリエンスにこれほど自然に入り込んでいる進路変更ナビゲーションが、携帯電話のGPSセンサーによって行われるようになると誰が予測できたでしょうか? このたった1つの機能が、ライドシェアリングおよびホームデリバリーサービス業界全体を成立させる基盤となり、交通産業や外食産業で何ができるかというゲームの流れを変え、私たちの生活を少しばかり便利にしました。

つい最近の2020年に時間を早送りすると、LPDDR5 DRAMによって5G対応スマートフォンのメモリパフォーマンスがさらに向上しました。大量のデータをAIエンジンに供給し、データボトルネックを減らすのに十分な速さでデータを処理するために、必要なメモリ帯域幅が拡大されました。メモリ帯域幅の拡大は、スマートフォンでのシームレスな4Kビデオライブストリーミング、先進的なモバイルゲーム、AIを利用したコンピュテーショナルイメージングに貢献しています。

LPDDR5Xは、このパフォーマンス基盤に立脚し、あらゆるセグメントのデバイス上でAIと5Gを利用した機能をさらに多く出現させるでしょう。

LPDDR5Xのパフォーマンスと電力効率が解き放つ未来の機能

現在、スマートフォンメーカーとチップセットベンダーは、LPDDR5Xのパフォーマンスに立脚した、より効率的でパワフルな機能を現実のものにしています。マイクロンのLPDDR5Xは、最大8.533Gbpsのデータレートに対応します1。前世代のLPDDR5と比べて最大33%高いパフォーマンスを備えた2、世界最速のモバイルメモリです。さらにLPDDR5Xは、前世代のLPDDR5メモリと比べて最大24%高い電力効率を提供し3、ユーザーは次の充電まで、より長くモバイルエクスペリエンスを楽しむことができます。
 

LP5Xのデータ転送速度(Gbps)グラフの画像 LPDDR DRAM4の各世代のデータ転送速度

人生の最も貴重な瞬間を輝かせるマイクロンのメモリ

LPDDR5Xのパフォーマンスは、コンピュテーショナルイメージングの未開拓の可能性を解き放ちます。33%広くなった帯域幅によって、システムオンチップ(SoC)上のAIエンジンが写真やビデオにより速くアクセスできるようになり、撮影速度の高速化や複数のカメラからの同時ビデオフィードが可能になります。

この帯域幅の増加によって、低価格モデルからフラッグシップモデルまで、あらゆるレベルのスマートフォンで一般化しているカメラ機能が強化されます。人生の最も貴重な瞬間を捉えるのに、今のスマートフォンよりも大幅に改良された機能(より大型のイメージセンサー、より多くのカメラ数、プロのような写真やビデオを撮影できる新しいコンピュテーショナルイメージング機能)が使用される未来を想像してください。LPDDR5Xのパフォーマンスは、ナイトモードでより鮮明な写真が撮れる最大50%高い解像度と、最大35%5速い撮影速度を達成することも可能です。

さらに、LPDDR5Xなら、ポートレートモードや低光量モードといった機能も提供することができ、低光量条件下でも写真と同じように美しい高解像度ビデオの撮影が可能です。

パーソナライズされた、あなただけのスマートフォン体験

AIと機械学習(ML)の組み合わせによって、私たちの日常的な習慣や選好性からスマートフォンが何を学習するかという可能性が継続的に広がります。この学習を通じて、スマートフォンはますますパーソナライズされたものとなり、ユーザーエクスペリエンスを改善し、生活を能率化します。このようにユーザー、状況、またはさまざまな環境変数を理解する能力のことを、コンテキストアウェアネス(状況認識)といいます。

コンテキストアウェアネスを通じて、スマートフォンで生成・消費され、各種のスマートデバイスを通じて取り込まれる大量のデータが収集され、スマートフォンの強力なAIエンジンで処理されます。日常生活の中で私たちがそれぞれ独自の方法でスマートフォンを使用すると、それに基づいて、私たち自身に関する予測型インサイトがキュレーションされます。その結果、スマートフォンがよりスマートに、直感的かつ予測型になります。ブラウジングやビューイングなどの行動が人によって違うため、ユーザーによってスマートフォンの動作が異なり、パーソナライズされた提案を行うとともに、ユーザーについて学習したことに基づいてアクションを実行します。

コンテキストアウェアネスによって駆動される日常生活の可能性を想像してみましょう。スマートフォンはあなたの予定表と、その日の最初のアポイントメントにアクセスします。このコンテキストに基づいて、スマートフォンはその日の起床時間を提案し、あなたがキッチンに足を踏み入れると同時に好みに合った一杯を淹れるようスマートコーヒーメーカーのスケジュールを設定し、スマートスピーカーからお気に入りのポッドキャストまたは朝のプレイリストを流します。すべてが先行的に行われ、あなた自身は何もする必要がありません。その後、オフィスへの出勤時間を知らせる通知が届くでしょう。スマートフォンはあなたの自家用車に指令を出して電源をオンにし、玄関先に乗り入れさせ、最も効率のいいルートであなたをオフィスまで送り届けさせることができます。このルートは、Cellular Vehicle-to-Anything(C-V2X)通信を介して、他の自動車の車載カメラや信号機と通信することにより学習可能です。車の座席に座ると、スマートフォンのカメラとセンサーがあなたの気分をモニタリングし、好みに合った音楽、ポッドキャスト、またはニュースを再生します。LPDDR5Xモバイルメモリは、このようなパーソナライゼーションを次のレベルに引き上げるパフォーマンスと効率性を提供できます。

前例のないスマートフォンイノベーションを妨げるボトルネックは想像力の不足だけ

モバイルエコシステムにイノベーションの刺激的な時代が到来しています。私たちが予測できるものだけでなく、まだ想像すらされていないものも、私は楽しみにしています。LPDDR5Xのパフォーマンスと電力効率によって解き放たれるAIと5Gの新しい機能は、インフラに投資・構築する通信事業者から、この新しい帯域幅のパワーを活用できるデバイスを開発するOEMまで、半導体業界全体に広がる形で、モバイルエコシステムのあらゆる側面での絶え間ないコラボレーションとイノベーションによって実現可能になります。AIと5Gの可能性をフルに活用する上で重要な役割を果たすのは、それぞれ独自のコンポーネントの可能性を追求しなければならない、これらすべての貢献者です。業界をリードするマイクロンのメモリおよびストレージテクノロジーは、私たちがスマートフォンエクスペリエンスの未来を再定義するための基盤を提供します。このテクノロジーが招来する新たな時代において、前例のないイノベーションを妨げるボトルネックは、私たち自身の想像力の不足だけということになるでしょう。

1. データレートは電子デバイス技術合同協議会の公開仕様に基づきます。
2. 電子デバイス技術合同協議会の公開仕様に基づく前世代のLPDDR5(6.4Gbps)DRAMとLPDDR5X(8.533Gbps)とのピーク時におけるデータ転送速度の比較(8.533/6.4 = 1.33)。
3. LPDDR5Xのフル速度(8533Mbps)と前世代のLPDDR5(6400Mbps)を比較して電力の改善をシミュレーション。
4. 電子デバイス技術合同協議会の仕様に基づくデータ転送速度:https://www.jedec.org/standards-documents
5. 速度が5500Mbpsと6400MbpsのLPDDR5で測定した携帯電話データに基づき、速度を8533Mbpsと推定して改善をシミュレーション。