「事実は小説より奇なり」という格言があります。確かにそうですが、サイエンスフィクション(SF)についてはどうでしょうか? 映画、テレビ番組、本の作者が想像した最も奇抜なシナリオのいくつかは現実のものとなっています。そうしたシナリオは実際にはSFに触発されたものです。実際、作家がシナリオを想像しなければ、ビデオチャット、携帯電話やタブレット、ドローン、ロボットなどのデジタルテクノロジーは存在さえしていないかもしれません。
SFは、クレジットカード、テレビ、1969年の月面着陸を予測していました。義肢、戦車、抗うつ薬、潜水艦もSFから誕生しました。インターネットの概念でさえ、30年以上前に出版された本によって着想されています。その本は、ウィリアム・ギブソンの著書、「 ニューロマンサー 」で、「サイバースペース」という言葉を生み出し、その(かなり先見の明のある)定義は「コンセンサス幻覚」であるとしました。ギブソンは現代のノストラダムスとしてもてはやされた人物ですが、その他にもリアリティTV、ナノテクノロジーなど驚異的な予言をしています。
SFが予言した内容には、反ユートピア的なものもいくつかあります。スタンレー・キューブリックの映画「2001年 宇宙の旅」に登場した悪のコンピューター、HAL 9000がその例です。HAL 9000は、1968年に映画が公開してから50年以上たった今も、人工知能の潜在的有害性を警告し続けています。
一方、他の多くの予測は、私たちの生活を豊かで充実したものにするテクノロジーの可能性を示しています。ジョージ・ルーカスの「スターウォーズ」(1977年)に登場するホログラムテーブルから、1960年代のテレビ番組「宇宙家族ジェットソン」に出てくるビデオチャットや空飛ぶ車に至るまで、現代のデジタルテクノロジーが生み出してきた非常に多くの驚異と願望を最初に想像し、命を吹き込んだのは、科学者ではなく、なんと作家だったのです。
未来がどうなるかを知っている人は一体誰でしょう。それはどうやらSF作家のようです。あとは、テクノロジーの進歩が可能にする科学にかかっています。
未来を想像する
軍用戦車、コンピューティング・タブレット、潜水艦、義肢、向精神剤:SFで予測された未来のリストは、一冊の本を埋め尽くすほどの長さです。実際、このテーマを全編で取り上げた本が複数存在します。しかし、コンピューターが存在する以前の時代にどうやってデジタルテクノロジーを予見したのでしょうか? それはなんとも素晴らしいことではありませんか?
SFとテクノロジーのつながりは全くの偶然ではないことが分かっています。研究者は、未来を想像する本やテレビ番組および映画から着想を得ています。ある調査によると、SF作家は科学者と頻繁に交流しており、SF作家が書いた内容がさまざまな形でテクノロジー研究に影響を与えたり、アイデアを提供したりしています。
- 人体の改造または拡張
- 人間とコンピューターの相互作用
- 人間とロボットの交流
- 人工知能
あなたが次に挙げる11種類のテクノロジーのいずれかの恩恵に浴しているとすれば、SF作家への感謝をお忘れなく!
1. 携帯電話:テレビ番組「スタートレック」は1966年、コミュニケーション・ツールである折り畳み式携帯電話を登場させました。その30年後、モトローラはこの連続テレビ番組にあやかって名付けた最初の折り畳み式携帯電話、StarTACを発売しました。興味深いことに、「スタートレック」の制作者は乗組員にトライコーダーも与えました。これは、カーク船長と乗組員が訪れた惑星からデータを収集して保存するために使用した携帯デバイスです。制作者がこれら2つのデバイスを一体化させることを考えていれば、スマートフォンを予見していたかもしれません。
2. 3Dホログラム:研究者がこのテクノロジーを実現しようと懸命に努力してきたのは、オビ=ワン・ケノービに助けを求めるレイア姫のホログラムをロボットR2D2が投影する「スターウォーズ」のシーンにおそらく触発されたからではないでしょうか。現在、ホログラフィーは多くのアプリケーションで使用されており、2019年にはロックンロールのアイコンであるバディ・ホリーとロイ・オルビソンをコンサートで「蘇らせ」、ライブミュージシャンをバックに演奏する催しが行われる予定です。
3. 3D食品印刷:アニメ化されたテレビ番組「宇宙家族ジェットソン」の一家は、三食きちんと調理する家庭用フードマシンを持っていました。「スタートレック」はレプリケーターと呼ばれる機械を備え、文字通り何もない所からほんの数秒で食べ物を印刷することができました。現在、コロンビア大学は、分子ではなく調理済みの食材から食事を完成させる3D印刷テクノロジーの創造に取り組んでいます。ただし、このテクノロジーはまだ開発中でもあります。そしてデザートには、究極のチョコレートプリンターを発明するレースが始まっています
4. 家庭内ロボット:チェコの作家カレル・チャペックは、1920年に有名なSF劇「RUR(Rossum's Universal Robots=(ロッサム万能ロボット会社)」で「ロボット」という用語をつくり出しました。” この言葉はチェコ語で「強制労働者」を意味する「robotnik」に由来しています。
「ヘレン・オロイ」のレスター・デル・レイが1938年に発表した物語では、2人の男がロボットの家政婦ヘレンを発明し、ヘレンに恋をします。そして、フィリップ・K・ディックが1955年に著した短編「ナニー」に登場するロボットは、子供をあまりにかいがいしく世話したため、そのロボットが仕える家族はより新しいモデルへの交換を拒みます。(ネタバレ注意:大惨事が起こります。)
一方、SFで最も広く知られているロボットの使用人はおそらくジェットソンのロージーです。いつも羽毛ダスターを手に持ち、ビービーという音を出しながら話すロボットです。現在実用化している円盤型のロボット床掃除機は、仕事を非常にうまくこなすと言われていますが、マルチタスクをこなす人工知能ロボットはまだ私たちの家庭で働いていません。研究者によると、このテクノロジーは開発中であり、市販されるのは約10年後になると言われています。
5. 自動運転車:「ロボットの頭脳」を搭載した車は、SF作家アイザック・アシモフがニューヨークタイムズ紙で1964年に予測した2014年の世界博覧会の中心的な展示物です。
アシモフは「『ロボットの頭脳』を備えた車両の設計に多くの労力が注がれるだろう。その車両は、特定の目的地を設定でき、人間の運転手の鈍い反射神経による干渉を受けることなく目的地に進む」と書いています。
ジェームズ・ボンドの映画でも、人間によるわずかな介入で自動的に走行する自動車が描かれています。1997年公開の「死ぬのは奴らだ」で、秘密情報部工作員007はBMW 750ILの後部座席に座り、携帯電話を使って自動車を制御します。実際、ボンドは自動車をいつも格好よく乗り回しており、その多くの機能が今日存在しているか、近い将来に登場する可能性の高いものです。多くの自動車メーカーと一部のハイテク企業が完全自動運転車の開発に取り組んでおり、2025年までの実用化を目指しています。
6. 空飛ぶ車:A地点からB地点に最も早く到達する方法は、カラスのように一列になって飛ぶことです。地球は丘陵や湿地帯で覆われています。そのため、私たちは多くの場合、直線的に移動することはできず、スピードを落とさざるを得ません。SF小説の中で人が空を飛ぶのも当然のことです。空飛ぶ車の早い時期における出現例は、007シリーズの原作者でもあるイアン・フレミングによる1964年の小説(1968年に映画化)「チキ・チキ・バン・バン:魔法の車」です。
フレミングは、自分の子供が実際のチキ・チキ・バン・バン号に乗った話を基に小説を書いたと伝えられています。チキ・チキ・バン・バン号は、英国のレースカードライバーで自動車エンジニアのルイ・ボロ・ズボロフスキー伯爵が設計した車です。実際のチキ号は飛びませんでしたが、シリーズの最後に登場した車、チキ4(「バブス」と改名)は1926年に171マイル/時で走行し、陸上での最速記録を打ち立てました。2018年に樹立された現在の記録は448.757マイル/時ですが、空飛ぶ車が今後どれだけ速く移動するようになるかは未知数です。
自律的な都市航空機の開発は、軍隊やNASAだけでなく、民間でも進められています。こうした空飛ぶ車は、少なくとも1人の人間を運ぶことができるため、ドローンとは見なされませんが、2040年までに一般的に使用されるようになると予測されています。
7. ドローン:フランク・ハーバートによる1965年の小説「デューン」では、小型の「狩猟・探索用」暗殺ドローンが予見されています。「スターウォーズ」には自律飛行体が随所に登場します。実際、多くのSF小説と映画でこの数十年、最初は軍事目的のドローン、より最近では商業目的や娯楽目的のドローンが、実用化されるずっと以前から描かれています。
米国連邦航空局(FAA)は2006年に最初の商用ドローン操縦免許を発行し、その後の8年間で16件の免許を発行したと報じられています。その後、アマゾン・ドット・コムのCEO、ジェフ・ベゾス氏が2013年に、ドローンを使った小包配達を検討していると発表すると、ドローンへの関心が高まりました。その後、FAAは無人機の飛行に必要なリモートパイロット証明書を2018年に10万件発行しました。
それに伴い、ドローンの応用は、航空写真、緊急時対応、農作物の高精度モニタリングなどに広がっています。そして、レイモンド・Z・ガランの1936年の短編小説「スカラベ」で予見され、テレビの連続ドラマ「ブラックミラー」で広く知られるようになったロボビーは、いつの日か私たちの食用作物の受粉を助けてくれるかもしれません:ウォルマートは、花粉を検出・拡散できる小型のドローンに関する特許を2018年に出願しました。
8. 仮想現実(VR):ゴーグルを装着するVRの前触れは、スタンリー・G・ワインバウムによる1935年の小説「Pygmalion’s Spectacles(邦題:ピグマリオン劇場)」に見られます。スティーヴン・リズバーガーが監督を務めた1982年の映画「トロン」も、世界がデジタル世界に移行すると想像しています。また、ニール・スティーブンソンの1992年の小説「スノークラッシュ」は、今日に通じる方法でVRを表現しています。
「コンピューター内部の電子ミラーを使用してビームを往復させることにより、主人公ヒロのゴーグルレンズを走査して画像を描く仕組みになっている。この仕組みは、テレビ受像機の電子ビームがブラウン管の内面を走査して画像を描く仕組みとほぼ同じだ。ビームが描く画像がヒロの現実の視界の前に空間を描き出す…。
つまり、ヒロは実際にはまったく別の場所にいるのである。ヒロは、ゴーグルに描かれ、イヤホンを通じて音声を聞く、コンピューターが生成した宇宙の中で存在している」
今日のVRは、ここに挙げた作家たちが想像したものとかなり似通っており、没入感のある3D画像と音声を提供するゴーグルを使用して別の世界に脱出することを可能にしています。ハプティック(触覚)グローブを使用すると、「平行宇宙」に存在する物体に触れることができます。研究者は、体験できる感覚に風味や香りを取り入れる研究に取り組んでいます。
9. スマートウォッチ:連載漫画「ディック・トレーシー」のファンは、作者のチェスター・グールドが1946年の作品で主人公の刑事に双方向リストラジオを持たせたとき、未来を垣間見ました。1964年、グールドはビデオを追加しました。この機能は、今日のスマートウォッチでは珍しくありませんが、そうなることは必然だったようです。
おそらく、グールドにビデオウォッチのインスピレーションを与えたのは「宇宙家族ジェットソン」でしょう。1962年、少年エルロイ・ジェットソンは腕時計を使って、同じ会社が制作した別のアニメーションシリーズ「原始家族フリントストーン」を観たり、電話を受けたり掛けたりしました。
10. ビデオ通話:Zoom、Facetime、中国におけるWeChatなどのビデオチャット・アプリは、ビジネスミーティングや個人の通話に日常的に使用されています(全世界のビデオ通話ユーザーは、WhatsAppだけでも1日3億4000万分間もの時間をビデオ通話に費やしています)。そうした現代の感覚からすると、ビデオ通話というテクノロジーがさほど遠くない過去には驚嘆すべき(そして不可能な)ものと思われていたとは想像できません。
相手の顔を見ながら電話で話すシーンはかなり以前からSFに登場しており、その先駆けはヒューゴ・ガーンズバックが1911年に発表した小説「ラルフ124C 41+:ロマンス・オブ・ザ・イヤー2660」です(ガーンズバックはルクセンブルク出身のアメリカ人)。この作品では「テレフォト」と呼ばれるビデオ会議デバイスが使用されていました。1927年に制作されたドイツ映画「メトロポリス」では、「2001年宇宙の旅」と同様、壁掛け型のビデオ電話が登場しています。宇宙の旅」に登場した悪のコンピューター、HAL 9000がその例です。
11. イヤホン:レイ・ブラッドベリーの1953年の小説「華氏451」では、耳に挿入して使用する貝殻型と指ぬき型のラジオや、Bluetoothのようなヘッドセットが描かれており、こうしたデバイスが「[あなたの]眠らない心の岸辺に次々と押し寄せる音楽と話声からなる電子の海」をつくりだします。このフィクションで描かれているのは、ワイヤレスのイヤーバッドのことのようではありませんか?
機械学習(人工知能の1つの形態)を使用した音声認識がキーボードまたはキーパッドでの入力と完全にに置き換えられると予測する人もいます。このテクノロジーの市場規模が2024年までに2018年(75億ドル)のほぼ3倍の215億ドルに成長すると予測する向きもあります。
夢は、記憶と処理によって現実となります
本稿で取り上げたテクノロジーを実現するには、十分なメモリ、ストレージ、超高速処理能力が必要です。たとえばバーチャルリアリティは、フレームを落とすことなく(フレームワークの欠落はめまいを引き起こします)、人間の思考速度で大量のデータを処理しなければなりません。本稿でリストアップしたほぼすべてのテクノロジーの原動力である人工知能は、私たちと同じくらいに速く「考える」必要があります。そうでなければ、私たちが人工知能を賢いとみなすことはありません。これは、5Gテクノロジーによって実現される能力です。
マイクロンは、より小さなスペースにより多くのデータを保存し、コンピュータープロセッサーにデータをより迅速に移動させることのできるソリューションによって、未来のテクノロジーが直面する課題に向き合っています。このようなソリューションとしては、ビデオゲーム用に開発され多様なアプリケーションで使用されている高帯域幅GDDR6グラフィックスメモリ、高速DRAM、高密度NANDフラッシュメモリ、そして非常に高速なSSDがあります。
SFに触発されたテクノロジーで次に登場するのは何でしょうか? スペインの映画監督ナチョ・ビガロンドによる「タイムクライムス」や、H・G・ウェルスの「タイムマシン」に描かれているタイムマシンでしょうか? あるいは「スタートレック」で使用されているような「転送してくれ」という言葉に反応する転送装置でしょうか? それとも、J・K・ローリングのハリー・ポッター・シリーズで主人公が羽織っている目に見えないマントでしょうか? または、他の惑星や太陽系への航海かもしれません。
ここに挙げたテクノロジーだけでなく、その他のテクノロジーの中にもまだ登場していないものがあります。もし、そうしたテクノロジーが実現するとすれば、マイクロンの製品が使用される可能性があります。現在も、そして将来も、マイクロンは最高水準のハードウェア製品をつくり続け、メモリおよびストレージのソリューションの分野で業界をリードし、SFが予測する近未来への道を開きます。
本稿が言及している映画、テレビ番組、書籍、および演劇は、クリエイターの芸術作品です。マイクロンはそれらの制作とは関係ありません。これらの作品で表明された見解および意見は、マイクロンテクノロジーの見解および意見を反映したものではありません。これらの作品への言及は、参照することだけを目的としており、マイクロンが宣伝または推奨していることを示唆していません。
登場順:
「ネクロマンサー」、ウィリアム・ギブソン、1984年
「2001年 宇宙の旅」、MGM、1968年
「スターウォーズ」、ルーカスフィルム、1977年
「宇宙家族ジェットソン」、ハンナ・バーバラ、1962~1962年、1985~1987年
「スタートレック」、ジーン・ロッデンベリー、1966~1969年
「ロイ・オービソン&バディ・ホリー:ロックンロール・ドリームツアー」、ベースホログラム、2019年
「RUR(Rossum's Universal Robots=(ロッサム万能ロボット会社)」、カレル・チャペック、1921年
「ヘレン・オロイ」、レスター・デル・レイ、1938年
「ナニー」、フィリップ・K・ディック、1955年
「トゥモロー・ネバー・ダイ」、MGM/ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ、1997年
「チキ・チキ・バン・バン:魔法の車」、イアン・フレミング、1964~1965年(全3巻)
「チキ・チキ・バン・バン」、ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ、1968年
「デューン」、フランク・ハーバート、1965年
「スカラベ」、レイモンド・Z・ガラン、1936年
「ブラックミラー」、チャンネル4、2011~2014年、ネットフリックス、2016年から現在
「ピグマリオンの眼鏡」、スタンリー・G・ワインバウム、1935年
「トロン」、スティーヴン・リズバーガー・プロダクション、1982年
「スノークラッシュ」、ニール・スティーブンソン、1992年
「ディック・トレーシー」、チェスター・グールド、1931~1972年、さまざまなイラストレーター、1972年~現在
「原始家族フリントストーン」、ハンナ・バーベラ、1960~1966年
「ラルフ124C 41+:ロマンス・オブ・ザ・イヤー2660」、ヒューゴ・ガーンズバック、1911年
「メトロポリス」、UFA、1927年
「華氏451」、レイ・ブラッドベリー、1953年
「Her/世界でひとつの彼女」、アナプマ・ピクチャーズ、2013年
「タイムクライムス」、カルボ・ヴァンタス・エンターテインメント、ジップ・フィルムス、ファイン・プロダクションズ、アルセニコPC、2007年
「タイムマシン」、H. G. ウェルズ、1895年
ハリー・ポッター・シリーズ、J. K.ローリング、1997~2007年