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ストレージ

ほんのわずかな捕捉電子がいかに世界を変えたのか

ラフル・ジャイラジ | 2024年5月

 

私の左手には、約7,000年前の新石器時代の石器があります。これは、現在のアーカンソー州で狩猟採集民がバイソンの肉を処理するために作ったものです。右手には、ボイシ、アイダホ、シンガポールで開発された、最大2テラバイト(TB)のデータを格納できる世界初かつ最先端の232層モノリシック1TB QLC NANDチップを使用した最新のMicron 25001 SSDがあります。それぞれがその時代のモノリシック技術の頂点を表しています。この2つの驚異的な人類の業績は、石器時代から現在のシリコン時代までわずか7,000年の間に生まれました。私には、これは人類の創造と革新への飽くなき追求の証に思えるのです。この記事では、マイクロンが世界最先端のQLCベースSSDの開発をどのように牽引しているかについて概要を解説します。
 

QLC NANDの概要とその重要性
 

ストレージテクノロジーの飛躍的進歩を理解するには、基本から始めるのがよいでしょう。NANDフラッシュは不揮発性ストレージメディアの一種で、電源供給がなくてもバイナリデータのビットを保持します。サムドライブからiPod、ほぼすべての最新PCまで、個人データ、オペレーティングシステム、およびユーザーがインストールする各種アプリケーションを保存するために広く使用されています。これは、簡単なMOSFETトランジスターを改良し、0または1の論理バイナリ状態を表す電子を「捕捉」して保持する仕組みになっています。改良された各トランジスターまたはセルが1つのバイナリビットのデータを保持する場合、シングルレベルセルまたは(SLC)NANDと呼ばれます。したがって、1兆ビット(1Tb)のデータを保持するには、1兆個のセルが必要です。一方、1つのトランジスターで2ビットのデータを保持できる場合は、マルチレベルセル(MLC)と呼ばれます。同様に、1セルで保持できるデータが3ビットの場合はトリプルレベルセル(TLC)、4ビットの場合はクアッドレベルセル(QLC)と呼ばれます。

これを説明するのに、私はよく水の入ったバケツで例えます。バケツが空のときはバイナリ1を、水が入っているときはバイナリ0を表します。これは、SLC NANDセルとよく似ています。ここで、バケツが空なのか、または水が4分の1、半分、あるいは4分の3入っているか、完全に満杯なのかを正確に判別できれば、バケツ1個でデータの論理状態を複数格納できます。これがMLCです。さらに拡張して、16種類の状態を区別できるようにするとQLCになります。次に、このバケツの水を、ナノメートルサイズの特殊酸化物層に捕捉された数十個の電子に置き換えてみましょう。これらの電子は、親指サイズのシリコンチップに232層もの回路が積み重なっており、その回路には何十億ものトランジスターがぎっしり詰まっています。この極めて小さいチップの中に、人類が蓄積した膨大な量の知識をすべて収めることができるのです。そう考えると、これらの捕捉された電子が世界の変革を担ってきたことがよくわかるのではないでしょうか。

Branch Educationに、このテクノロジーについてさらに詳細に説明した素晴らしいオンラインリソースがあります(リンク)。
 

NANDフラッシュに熱中した理由
 

大学卒業後の最初の仕事は、マイクロンでプロダクトエンジニアとしてNANDセルの特性評価に携わることでした。私が初めて関わった製品は64Gb(8GB)のプレーナ型MLC NANDで、2010年代初頭のことでした。大学時代の宝物の1つが高価な1GBサムドライブだったのですが、その8倍の密度を持つシングルチップに関わることになったのは衝撃的でした。長年にわたり、私はマイクロン初の3D NANDチップの開発に携わるという貴重な機会に恵まれました。このチップは、これらのセルをまるで超高層ビルのようにいくつも積層しており、チップあたりのストレージ密度が大幅に増加し、TLCテクノロジーへの移行の先駆けにもなりました。その後、マイクロン初のQLC NANDダイに携わることになり、製品データシートを開発しながら、このテクノロジーに魅了されてしまいました。私が手に持っているMicron 2500 SSDはマイクロンの第4世代QLC NANDをベースとしており、大学時代に所有していたUSBメモリと比較してストレージ容量は2,000倍以上で、速度も桁違いです。
 

世界最速QLC SSDのあるべき姿を決める
 

私のプロダクトマネージャーチームは、Micron 2500 SSDをどのような製品にするかを策定した結果、TLCベースのドライブに匹敵する、世界で最も高速で、ユーザーエクスペリエンスを最優先とするSSDを目指すことになりました。

大まかにまとめると、これを実現するためのポイントは4つありました。

  1. モノリシックNANDのダイサイズ
  2. NANDダイの積層数
  3. NANDチップおよびコントローラのインターフェース速度(ONFi速度)
  4. NANDタイミング


コストからエンジニアリングの複雑さに至るまで、いずれもさまざまな課題があります。

業界全体がこのテクノロジーに躊躇し、懐疑的でさえあった一方で、マイクロンのチームは粘り強く取り組み、実現を確信するに至りました。マイクロンでは垂直統合が高度に進んでおり、NAND設計からSSDアーキテクチャー、メディア管理、最終的なファームウェアまで最初期段階から幅広いチームがこのドライブのあらゆる面の定義や改良に参加しました。

私たちはお客様と緊密に協力し、業界トップクラスのエンジニアリングチームと連携して、それまで不可能と考えられていた世界最先端と言えるQLC SSDを実現しました。

先日のブログでは、Micron 2500が他のドライブと比較してどのように評価されているかをプラサド・アリュリが解説しています。詳細は「マイクロンのSSDが今より多くの人に、これまで以上に優れたユーザーエクスペリエンスを提供するには | Micron Technology Inc」をお読みください。
 

将来を見据える
 

AIの普及とAI PCの登場(パソコンへのAI導入がもたらす今後の展開 | Micron Technology Inc.)により、PCのストレージに対するニーズは高まるばかりです。QLCテクノロジーがあれば、急速に拡大する容量への要求に対応し、非常に小型のフォームファクタでも妥協のないユーザーエクスペリエンスを実現できます。次世代QLC製品の開発状況を見ると、今後さらに進化した製品が登場すると自信を持って言うことができます。

おそらく、7,000年後の人類の右手には私たちが想像もできないようなテクノロジーが握られていることでしょう。そのとき、彼ら/彼女らの左手には現代の工学の粋を集めた製品であるMicron 2500 SSDがあるかもしれません。

 

Micron 2500 NVMe SSD | Micron Technology Inc.

DIRECTOR, TPM - CLIENT

Rahul Jairaj

Rahul Mitchell Jairaj is the Director of Technical Product Managment for Micron's Client SSD Business Unit. He has spent his career working on NAND flash storage at Micron from components engineering to SSD product management. He holds a Masters degree in Semiconductor Device Physics from Clemson University and a bachelor's in electrical engineering. Outside work, Rahul is passionate about collecting fossils and amateur microscopy.