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従来、AI推論はAI処理とも呼ばれ、膨大なコンピューティングリソースを利用できる大規模なデータセンターに集約されてきました。しかし今日では、リアルタイムアプリケーションや即時応答への需要が高まってきています。
こうした需要を背景に、コンピューティングとデータ処理を複数のデバイスに分散するAIモデルが登場しました。
このアプローチは分散型AI(DAI)と呼ばれ、クラスター、ネットワーク、エッジデバイスなどの分散システムの総合的な処理能力を活用して、大規模な計算とデータを処理するよう設計されています。
分散型AIは、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの両方の利点を活用し、エッジで高まるワークロード需要に対応することで、人工知能の可能性をさらに押し広げます。
分散型AIの仕組みと、それがもたらす利点について、マイクロンとともに見ていきましょう。詳細はセールスサポートチームまでお問い合わせいただくこともできます。
分散型AIとは?
分散型AIの定義:分散型AIとは、データ処理を一元化してセキュリティを確保しつつ、AI推論タスクを複数のノードやデバイスに分散して実行するコンピューティングアプローチです(多くの場合は並列で実行します)。これにより、効率性、スケーラビリティ、応答性が高まります。
従来の集中型AIシステムでは、データ処理を単一のユニットに集約します。一方、DAIシステムでは、膨大なデータを単一のユニットへ移動する必要がありません。その代わりに、データ発生源での分析も含め、複数のクラウド環境やデバイス全体でAIアルゴリズムを実行します。
分散型AIでは、データ処理を一元化する一方で、推論ワークロードをクラウドやエッジデバイスに分散します。これに対し、エッジAIはエッジデバイス上でデータをローカルに処理します。分散型AIとエッジAIはいずれも、セキュリティとプライバシーの面で大きな利点をもたらします。ただし、その実現方法は異なります。相互接続されたデバイスの集合知を活用し、協調的な学習や問題解決を行うことが、分散型AIシステムの基本的な仕組みです。
DAIではデータ処理が一元化されるため、機密情報はこの一元管理された環境で処理されます。この一元化により、組織は、処理中のデータや個人情報を保護する差分プライバシーや準同型暗号などの高度なプライバシー強化テクノロジーを導入できます。さらに、推論タスクを分散し、大量のデータを移動する必要をなくすことで、DAIは転送中の情報漏えいリスクを最小限に抑えます。
一方、エッジAIはエッジデバイス上でデータをローカルに処理するため、集中型サーバーにデータを送信する必要性を低減できます。このローカル処理により、データ転送中に侵害を受けるリスクを最小限に抑え、セキュリティとプライバシーを強化できます。こうした手法の違いを理解することで、DAIとエッジAIのどちらも、より安全でプライバシーに配慮したAIエコシステムの実現に貢献していることがわかります。
ここまで見てきたように、分散型AIはAI推論をクラウドとエッジにシームレスに統合し、処理効率を高めるとともに応答時間を短縮します。こうした改善により、データセンターへのデータ送信に伴うレイテンシー、消費電力、帯域幅の課題を改善できるほか、ユーザーエクスペリエンスの向上と、よりスケーラブルなAIアプリケーションを実現できるようになります。こうした課題を軽減するには、デバイス自体にもさらなる機能や性能が求められます。
上記の説明からもおわかりのように、分散型AIはAIテクノロジーにおける大きな進歩であり、今後の発展の方向性を示すものです。デバイスそのものでリアルタイムにデータを推論・処理できるようにすることは、これまでと比べてはるかに強力で柔軟性が高いアプローチといえます。
分散型AIはどのように機能しますか?
分散型AIは、クラウド処理とエッジ処理の両方を使用し、より効率的でスケーラブルなAIソリューションを提供します。このシステムでは、AIの学習と開発は通常、豊富なコンピューティングリソースを利用できるクラウド上で行われます。
学習済みモデルはその後、リアルタイム推論を行うためにエッジデバイスに実装されます。これにより、応答速度が向上し、常時接続の必要性が低減します。このアプローチにより、AIシステムの効率性とスケーラビリティが高まるだけでなく、多様な環境でAI機能を効率的に利用できるようになります。
学習、開発、実装を分離することには、戦略的な意味があります。AIデバイスは、処理をデバイス内部で行うか、クラウドに送るかを判断するルールに基づいて設計されています。このように処理を分けることで、リソースの使用を最適化でき、デバイスは負荷の軽いタスクを内部で処理しながら、負荷の高いワークロードはクラウドにオフロードできます。
高性能かつ効率的なDAIシステムを設計するカギは、システムリソースの制約を動的に把握し、それに応じて処理ワークロードを分散することにあります。自律型エージェントの機能を活用するエージェント型AIを統合し、エッジデバイス向けに小規模言語モデル(SLM)を使用することで、分散型AIシステムは人工知能の真の可能性を引き出すことができます。
動作ルールはDAIモデルごとに異なり、ワークロードの分散方法は以下のような主な要因によって決まります。
- デバイスの種類:内部の演算能力が低いデバイスは、単純なデータセットであればデバイス上で処理できますが、負荷の高い処理タスクはオフロードする必要があります。
- データの種類:データセットはそれぞれ異なるため、処理要件も異なります。テキスト、数値、画像のデータが混在する大規模で複雑なデータセットを処理する必要があるモデルでは、そうした大きなワークロードをクラウドにオフロードする必要が生じる場合があります。
- デバイスとクラウド間の接続:分散型AIは、デバイスとクラウド環境の間の迅速な通信に依存しています。そのため、デバイスとクラウド間で高速なデータ転送を行うには、両者の接続は安全かつ効率的でなければなりません。
分散型AIの歴史とはどのようなものですか?
- 1970年代半ば、分散型AIの登場:当時、集中型AIシステムは、スケーラビリティや堅牢性に課題を抱えていました。こうした限界に取り組むため、1970年代半ばにAIの一分野として登場したのがDAIです。初期のDAIシステムは自律的に動作するよう設計されており、変化の激しい環境でも高い柔軟性と適応性を発揮できました。
- 1990年代、機械学習の進歩:1990年代には機械学習と自然言語処理(NLP)が格段に進歩し、DAIにとって大きな転換期となりました。研究者たちは、決定木やニューラルネットワークなどの新しい手法を研究し、機械がデータから学習しつつ時間の経過とともに性能が向上するようにしました。計算能力の不足といった課題はあったものの、この10年間でエキスパートシステムが台頭し、チューリングテストの合格を目指したA.L.I.C.E.のようなチャットボットも開発されました。この時期には「AIの冬」も到来し、AI研究への資金提供や関心が一時的に低下しました。
- 2000年代初頭、人工知能の発展:2000年代初頭にはデータ駆動型AIへの移行が進みました。このAIは、パフォーマンス向上のために膨大なデータセットを活用します。この時代にはビッグデータAIが台頭し、画像認識、音声認識、パーソナライズされたニュースフィードの機能が強化されました。分散型AIシステムは、より堅牢で適応性の高いものとなり、マルチエージェントシステムや分散型問題解決アプローチが取り入れられるようになりました。データをより利用しやすくなったことと、コンピューティング能力の向上により、DAIの開発と応用は大きく加速しました。
- 2020年代、分散型AIの飛躍的進歩:2020年代は、ディープラーニング、自然言語処理、GPT-3やGPT-4などの生成AIモデルの進歩に牽引され、AIがかつてない発展を遂げた時代です。こうした進歩により、DAIシステムは膨大なデータとコンピューティング能力を活用できるようになり、より高度でスケーラブルなソリューションが実現しました。医療から金融に至るまで、さまざまな業界にAIが導入され、DAIは現実世界の複雑な課題を解決するうえで大きな変革をもたらしています。
急速なイノベーションにより、分散型AIは新たな可能性の扉を開き続けており、分散型AIは現代のAI研究と応用に欠かせない要素となっています。
分散型AIの種類には主にどのようなものがありますか?
分散型AIの主な種類には、デバイス中心の分散型AI、デバイスセンシングによる分散型AI、共同処理による分散型AIがあります。
- デバイス中心の分散型AIでは、デバイス自体を処理拠点の中核とし、十分な出力を得るための演算能力や処理能力がデバイスに不足している場合にのみ、一部のタスクをクラウドにオフロードします。
このアプローチでは、データ処理の大部分がデバイス上でローカルに行われるため、常時クラウドに接続する必要が減り、リアルタイムの応答性が向上します。
この種類の例としては、ノートパソコン上で動作するAI搭載チャットボットが挙げられます。この場合、デバイスが処理の大部分をローカルで担うため、クラウドリソースに大きく依存することなく、迅速かつ効率的な応答が可能になります。 - デバイスセンシングによる分散型AIモデルでは、生の入力データを処理してテキストデータに変換したうえで、さらなる処理のためにクラウドに送信します。この方法では、初期段階のデータ前処理をローカルで行えるため、クラウドに送信するデータ量を削減し、システム全体の効率を高めることができます。
スマートホームデバイスのセンサーは、この種類の分散型AIの好例です。データをローカルで前処理してから、より複雑な分析や意思決定のためにクラウドに送信します。 - 共同処理による分散型AIでは、処理ワークロードをデバイスとクラウドに分割して出力を最大化します。複数の大規模言語モデル(LLM)を使用し、データセットの異なる部分を個別に処理します。
このアプローチでは、ローカル処理とクラウド処理の両方の強みを活かし、各タスクを最適なリソースで処理できるようにします。
自動運転車は、共同処理による分散型AIの代表的な例です。自動運転車では、運転に関する判断を即時に下す際に必要なデータをローカルで処理する一方、経路最適化や交通状況の分析など、より複雑なタスクはクラウドサーバーにオフロードします。
分散型AIはどのように活用されていますか?
分散型AIの主な活用例の一つとして、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスに、より高性能なAIモデルを組み込むことが挙げられます。ChatGPTのようなAI搭載チャットボットは、モバイルデバイスや検索機能の進化を含め、テクノロジー業界に大きな変革をもたらしています。こうしたチャット形式の検索エンジンの利用が拡大している背景には、ローカルデバイスとクラウド上のLLMの間で処理を行うDAIの性能向上と高度化があります。
その他の活用例としては、自動運転車の進化があります。かつてはSFの世界の話だった無人運転車や自律走行車両は、分散型AIが発展したことで急速に現実のものとなりつつあります。こうした車両では、DAIモデルによって、複雑なデータ処理をクラウドコンピューターにオフロードしながら、中核となるデータ収集と前処理はローカルで行うことができます。
モノのインターネット(IoT)により、分散型AIはすでに私たちの日常生活に組み込まれています。AIモデルは、IoTネットワークを構成するテクノロジーの意思決定を改善するために使用されており、さまざまな業界で効率化が進むとともにユーザーエクスペリエンスが向上しています。
分散型AIでは、複数の自律エージェントが連携して複雑な問題を解決します。これらのエージェントはそれぞれ独立して動作できますが、連携して部分的な解決策を統合しつつ完全な解決策にまとめることもできます。
分散学習とは、大規模なデータセットを効率的に処理するために、機械学習モデルの学習を複数のノードに分割して行う手法です。レコメンデーションシステムやリアルタイム分析など、ビッグデータを使った高速な学習が求められる場面で広く使用されています。
要約すると、分散型AIは複数のエージェントが連携して問題を解決する仕組みであるのに対し、分散学習は、大規模なデータセットを効率的に処理するために、機械学習モデルの学習プロセスを複数のノードに分散する手法です。
分散型AIでは、分散化と協調学習に重点を置いています。複数の自律エージェントがさまざまなノードやデバイス間で連携し、複雑な問題を解決します。その出力は、相互接続されたデバイスの集合知によって構成されます。このアプローチでは、各エージェントがデータをローカルで処理し、協調して複雑な問題の解決策を推論するため、AI処理とAI推論の両方が行われます。
これに対し、ハイブリッドAIは、デバイス上の処理とクラウドベースの処理を組み合わせることで、パフォーマンス、パーソナライゼーション、プライバシー、セキュリティを最適化します。このアプローチでは、即時対応が必要なタスクにはローカルでのAI処理を使用し、より複雑な意思決定にはクラウドベースのAI推論を使用しており、AI処理とAI推論がバランスよく行われています。
どちらのアプローチもデバイス上の処理とクラウド処理を活用しますが、分散型AIは分散化と協調学習を重視するのに対し、ハイブリッドAIはローカル処理とクラウド処理のバランスを取り、最適な結果を得ることを目指しています。
AI処理とは、データ収集、前処理、モデルの学習、評価など、AIモデルの開発、学習、実装に関わるすべての計算タスクを指します。
これは、AIにデータから学習させることを目的とした、多くのリソースを必要とするプロセスです。これに対し、AI推論とは、学習済みのAIモデルを使用して、未知の新しいデータに基づいて予測や判断を行う段階を指します。この段階では、モデルを適用して出力を生成しますが、多くの場合、迅速かつ効率的なリアルタイムの意思決定が求められます。
AI処理が学習と精度に重点を置くのに対し、AI推論は速度と実用性を重視します。どちらもAIシステムに不可欠ですが、役割は異なるため、互いに置き換えて使用することはできません。マイクロンテクノロジーはこの両分野に強みを持ち、堅牢で効率的なAIソリューションを実現しています。
分散型AIは、データ処理を一元化してセキュリティを強化しながら、推論タスクを複数のノードやデバイスに分散することで、効率性とスケーラビリティを高めます。一方、エッジAIはエッジデバイス上でデータをローカルに処理するため、データ転送を最小限に抑え、潜在的な侵害にさらされるリスクを低減することで、セキュリティとプライバシーを強化します。